サブスクリプションの理想モデルは紙芝居
プレジデントオンライン / 2019年5月29日 15時15分
■流行のサブスクリプション、最大の弱点とは
最近、「サブスクリプション」という言葉をしばしば耳にする。これからはサブスクリプションに移行しないとダメだ、というような話も聞く。
これはインターネット上のビジネスモデルの1つで、あらかじめ一定金額を支払ってもらい、そのかわりコンテンツをはじめとする様々なサービスを提供するという仕組み。
動画サイトや、テクスト、さらにはオンラインサロンなど、様々なコンテンツ、サービスを提供するプラットフォームで、サブスクリプションへの移行が話題になったり、実施されたりしている。
私は、サブスクリプションあり、なしのサイトの双方でテクストを書いてアップしている立場でもある。自分の経験も踏まえて、脳科学、認知科学から見たサブスクリプションモデルの利点、課題について考えたい。
まず、経営側からすれば明らかな利点があることは確かである。アクセス数に応じて収入が決まる方式だと増減が激しい。コンテンツの宿命として人気は続かず、飽きられてしまう。収入を見込めないので、計画が立てにくい。
もともと、多くのビジネスがサブスクリプションモデルである。たとえば学校は、定員が決まっていて授業料をあらかじめ払い込むという意味でサブスクリプションである。ネットのビジネスは学校のような物理的実体のあるシステムの対極であるように見えて、安定性を欲している点では変わらない。
ユーザー側から見れば、サブスクリプションするということはそのサービスにコミットするということになる。ネットフリックスのように、せっかく契約しているのだからできるだけそのサイトで何か探そうというユーザーが増えれば、結果として利用時間も延びる。ある種の囲い込みだ。
一方、サブスクリプションには問題点もある。最大の課題の1つは、コンテンツやサービスの魅力をまだ契約していない人にいかに伝えるかということだろう。
ピコ太郎さんの動画が全世界でヒットしたのは、誰でも無料でアクセスできる環境があったからこそ。サブスクリプションでは、このような「バズ」は起こしにくい。
結局、ここまでは無料、ここからは課金という「フリーミアム」のシステムをどう設計するかが鍵となる。それは1つの芸術と言ってよいくらい難しく、しかし面白い課題である。
昔の紙芝居屋さんは、水飴を買った子だけに見せていたけれども、お金がなくて買えない子が電信柱の陰からこっそり見たりすることもお目こぼししていたという。そのような人間味あふれる仕組みがあると、サブスクリプションモデルは輝く。
今流行りのオンラインサロンも、サロンの仲間内の連帯感ができるのはいいとして、逆に閉鎖的になっていろいろな問題が起こるとも聞く。
サブスクリプションの「内」と「外」の間の壁をあまりきっちりつくってしまうと、システムとしてかえって脆弱になり、発展性もない。
契約して一定のお金を払うと居心地のよい世界がそこにある一方で、「野次馬」や「のぞき見」のようなこともできるようにしたら、理想的なサブスクリプション・サービスに近づくだろう。
運用を巡って、研究やイノベーションの余地がまだまだあるという意味でも、やはり時代は「サブスクリプション」なのかもしれない。
(脳科学者 茂木 健一郎 写真=時事通信フォト)
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