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"ロジカル思考バカ"がまるで使えない理由

プレジデントオンライン / 2019年4月8日 15時15分

フィールドマネージメント代表の並木裕太氏

ビジネスの現場では「ロジカルシンキング」を重要視する風潮が強い。だがコンサルタントとしてその技術を徹底的に磨いてきた並木裕太氏は「ロジックは道具でしかない。それだけでは新しい価値を生むにはまるで使えない」という――。

■ロジックの落とし穴

相手を説得する、企画を通す、事業戦略を立てる……コンサルタントをはじめとした多くの職種で「ロジック」を求められるシーンは多い。提案や判断の根拠をロジカルに伝えられると「デキる人」と評価される向きさえある。

そんな風潮に対し、「ロジカルシンキングを信じすぎるのは危険だ」とコンサルティングファーム・フィールドマネージメント代表の並木裕太はいう。JAL、ソニー、楽天など大企業のコンサルタントを務める傍ら、Jリーグの理事でもある並木はサッカーの“芝生”を例にその理由を話す。

「いま、新たなサッカースタジアムの建設にあたって、人工芝にすべきか、天然芝にすべきかという議論があります。僕が“人工芝派”だとしたらその根拠を言えますが、もし“天然芝派”になれといわれたら、今度はその根拠を並べることもできます。対立する概念があったとして、ロジックはそのどちらの正しさも証明できてしまうんですよ。『You can pretty much prove anything(どんなことだって大概ロジックで証明できる)』と、マッキンゼー時代の重鎮にいわれたことを思い出します」

■その仕事に情熱は持てるか

たとえば人工芝派の理屈としては、「人工芝は天然芝にくらべてケガをしやすいといわれています。でも2015年にカナダで開催された女子W杯ではすべての試合会場で人工芝が使われていて、ケガの発生率はたしかまったく変わらなかった。それにサッカー先進国であるヨーロッパのクラブチーム、とくに北のほうは毎日人工芝で練習しています。だから人工芝にした方がいい」。

一方、天然芝派の理屈にしても「2018年のロシアW杯で使われていたから、ふだんから慣れておいた方がいいです。ヨーロッパのサッカークラブの下部組織では人工芝を使っていますが、それに慣れてしまうと天然芝の上で本番の試合をすると勝率が悪くなることが過去のデータを見るとわかります。だから天然芝にした方がいい」とつくれてしまうという。

「ロジックは人を説得する道具でしかない。仕事で成果をあげる、新しい価値を生むにはまるで役に立ちません」

ビジネスパーソンにとってのロジカルシンキングは、サッカー選手にとっての「足が速いこと」くらいの位置づけ。分かりやすく伝えるためには有利かもしれないが、必要条件ではないという。

「コンサル業界を見わたすと、チャーミングな人はもちろんいるんだけど、ロジカルシンキングから抜け出せない“ロジカルバカ”が完成しちゃうこともあるんですよ。人の気持ちはロジックでは動かないのに……」

人を惹きつけて動かす、プロジェクトを完遂するには、結局のところ、強い情熱があるかどうかだという。だからこそ「自分が何を好きか。なぜ楽しいか。どうしてそれに向かって頑張るのか。その思いの強さが大事です」と話す。

■「10回じゃんけんしたら7回勝つこと」の凄み

好きな野球、ファッションアイテムを含む自社ブランドを立ち上げた。セレクトショップ「ロンハーマン」や自社サイトで販売している

コンサル出身の並木がそう断言できるのは、かつて2年間、楽天イーグルスの創業立ち上げに参加した際の体験がある。

「僕も多くの少年たちとおなじようにプロ野球選手を夢見た少年でした。仕事をはじめてからも、いつかは野球に関わりたいという思いをずっと持っていました。それでプロ野球に楽天イーグルスの参入が決まった時に、ツテはないものの船出に立ち会いたいと思い、楽天のホームページにある『info@rakuten』宛にメールを送ったんです。文面には自分がどういう人間で、何ができるか。楽天の創業に少しは役に立てるのではないかという思いの丈をつづりました。すると楽天イーグルスの球団社長だった島田(亨)さんから返事が来て、あれよあれよという間に球団運営に携わることがかないました」

球団運営で出会ったのは、それまでの並木の常識を覆す人たちだった。

「島田さんや楽天の執行役員だった小澤(隆生)さん(現ヤフー常務執行役員)を見て、こういう人たちの迫力でビジネスは回っていくんだなって思いましたよ。2人ともロジックなんて二の次でしたから。島田さんは、スタジアムに2万2000人を動員するのが目標ならば、あらゆる手段でそれを達成するために動き、やり切る。小澤さんは、10回じゃんけんしたら7回勝つなという空気をまとっていた。彼らには、プロ野球界を変えたいんだという強い思いがあった。それが人を説得して物事を進めていくパワーになるんだということを目の当たりにしたんです」

もし、ビジネスに成功の方程式があるならば、自分に素直でいること。そして情熱を持てる好きを仕事にすること。そう並木は断言する。

■「得意で嫌い」な仕事は「得意で好き」にできる

しかし、だれもが今の仕事があり、好きな仕事に就けるとは限らないだろう。では会社員であれば、どこまで今の会社で頑張るか、どこから転職や起業を考えればいいのだろうか。

「『好きと嫌い』『得意と苦手』という軸がありますよね(図版参照)。右上の『好きで得意』の領域にいるならそのまま突っ込めばいいです。右下の『好きで苦手』ならば、好きだから苦手が克服されるかもしれません」

「ただし、同じくらいに好きなものがあるならばそれを探してみてもいい。左下の『嫌いで苦手』は報酬や人間関係以外の理由では踏みとどまる理由がありませんから、生き方を見直した方が幸せになれるでしょうね。左上の『嫌いで得意』はサラリーマンにありがちなパターンです。得意だからこそ辞めるという決断を下しづらい一方で、嫌いは好きに変換できることは知っておいたほうがいいでしょう」

「嫌いで得意」という場合は、嫌いを嫌いなままだと諦めるのは早合点だ。嫌いは好きに寄せることができるという。

「たとえばサッカーが大好きな20代の男性がいるとします。彼の仕事はサッカーとは無関係のメガバンクで、八重洲口支店に勤務し、日々モヤモヤしながら30社の中小企業の社長を担当しています。このまったくサッカーと仕事がかけはなれた状況にしても活路はあります」

■一日たった10分の自由時間を何に使うか

「やりたいことがまだまだたくさんある。次の10年、40代がどうなるかが楽しみです」(並木氏)

「まずはいつも会っている社長30人に『サッカー好き』であることを伝えてみる。サッカー好きの社長がいるかもしれません。さらに、その近くにサッカーチームのスポンサーがいるかもしれない。サッカーチームを持っている社長からCFO(最高財務責任者)になってほしいとオファーされるかもしれません。職種として好きと関係なかったり、嫌いだったりしても、仕事の中で好きなことの割合を増やせば思いがこもり、力を発揮しやすい状況になっていくんですよ」

日々の業務に忙殺されていると「好きなこと」はいつの間にか意識の奥底に沈んでしまいがちだ。並木自身もマッキンゼー時代に勤めていた頃は、一日の仕事を終える23時30分からネットニュースを見て、好きなスポーツやアーティストの活躍を見る10分間くらいが、自分の好きに向き合える瞬間だったという。

そんな思いから昨年12月、WEBメディア『STAY TRUE Sign UP』を並木は立ち上げる。もう一度好きを仕事にしたいというコンサルタントのために、浦和レッズ、エイベックス、読売ジャイアンツなどのスポーツ界、エンタメ界の求める経営人材を、社長と並木の対談記事にして配信している。一つの記事を読み切るのに10分もいらないだろう。

■人の感情をなめてはいけない

「このメディアでは、うちの会社で今やっている仕事を取り上げると同時に、かつての自分が知りたかったコンテンツを配信しています。僕も自分の好きな野球やファッションだったら負けない自信があるし、そういう仕事をしてからロジックを超えたところで力を発揮し、成果が出てきたように思います」

「それでもね」と少し苦い顔をしながらこんなエピソードを付けくわえた。

「いまだにマッキンゼーの同僚に会うと『並木もまた戻ってきたらどうだ。やっていることは変わらないだろ。だから……』というようにとうとうとロジカルに説得されることがあります。それで『僕たちには感情があるんで』と言って帰る。人の気持ちをなめてはいけないんですよ」

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並木裕太(なみき・ゆうた)
フィールドマネージメント代表
1977年ベルギー生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ペンシルヴェニア大学ウォートン校でMBAを獲得。2000年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。09年にフィールドマネージメント設立。日本航空やソニーといった日本を代表する企業のステップゼロ(経営コンサルティング)を務める。15年MBA母校のウォートン校より、40歳以下の卒業生で最も注目すべき40人として、日本人で唯一「ウォートン40アンダー40」に選出。スポーツ分野では、プロ野球オーナー会議へ参加し、ジャイアンツやファイターズ、イーグルスなど、多数のチームビジネスに関与。現在、Jリーグ理事。18年12月、経営人材採用のためのWEBメディア『STAY TRUE Sign UP』を開設。著書に『コンサル一〇〇年史』など。www.field-mgmt.com

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(プレジデントオンライン編集部 小倉 宏弥 撮影=三浦咲恵)

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