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業績が落ちても企業が行うべき5つのこと

プレジデントオンライン / 2019年5月18日 11時15分

■社員が活き活きする職場づくりの仕掛け術

ここ数年、「健康経営」への注目が高まっています。この健康経営の考え方を一歩進めた「ウェルビーイング経営」を私は提唱しています。

ウェルビーイングとは、アメリカ心理学会の心理学大辞典によれば、「幸福感や満足感があり、それほど大きな悩みもなく、身体的、精神的に健康で、生活の質も高い状態のこと」です。こうした従業員のウェルビーイングに働きかけることを通じて、組織の業績を高めていこうというのが、ウェルビーイング経営の基本的な考え方です。

ウェルビーイング経営を理解するためには、健康経営とは何かを知っておく必要があります。経済産業省では、健康経営を「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」としています。健康経営は、従業員の健康と組織の生産性の両立を目指す企業の取り組みといえるでしょう。

健康経営の普及状況は、経済産業省と日本健康会議が主催する「健康経営優良法人認定制度」の認定企業も年々増えており、2019年2月に発表された「健康経営優良法人2019」では、大規模法人部門で820、中小規模法人部門で2503の法人が認定されました(認定数は3月1日現在)。

健康経営が注目される背景には、次の4つの期待があると考えられます。

①医療費の削減…従業員の病気の発症や重症化を予防することで、医療費負担の軽減が期待できます。

②メンタルヘルス対策…従業員のメンタルヘルス不調は深刻な問題であり、その予防的効果が期待されています。

③従業員の業績向上…従業員の心身の健康状態が損なわれていると、本来のパフォーマンスが発揮されにくくなります。このような状態を「プレゼンティーイズム」と呼びます。また、従業員の健康状態は、仕事へのモチベーションにも影響を及ぼします。健康増進によるプレゼンティーイズムの解消やモチベーションの向上が、従業員の業績向上につながると考えられています。

④ブランド価値の向上…従業員の健康に配慮することは、企業としての社会的責任を果たすことであり、企業のブランド価値を高めることに寄与します。特に、人材確保が厳しくなっている中で、健康経営に取り組むことは労働市場での優位性につながります。

①と②は健康を損なうことによるマイナス効果を低減することへの期待、③と④は健康を増進することで得られるプラス効果を期待するものです。

■病気の対策だけでなく、やりがいを重視する

健康経営は、どちらかというと、従業員の病気を未然に防ぐことよりも、不調に陥った従業員を早期に発見、治療し、復帰までを支援することに重点が置かれてきました。また「健康」という言葉には「病気ではない状態」というイメージがあります。そのため、「健康経営=病気ではない状態を目指す取り組み」と誤解されやすいところがあります。

しかし、本来、健康経営が目指しているのは、従業員が病気にならないだけでなく、仕事にやりがいを感じながら、活き活きと働いている状態です。その状態を表すのによりふさわしい言葉として「ウェルビーイング」を用いました。健康経営では、一般に安全衛生や健康増進に関する取り組みが中心ですが、ウェルビーイング経営では、従業員の次のような幅広い施策が対象になります。

①健康と安全に関する取り組み…健康リスクの評価、禁煙・運動・食事など健康な生活習慣を取り入れるためのサポートなどが挙げられます。

②ワークライフバランスの実現を後押しする取り組み…在宅勤務やフレックス制など従業員の柔軟な働き方を認めることは、従業員のストレスを低減すると同時に働き方の自律性を高めます。

③従業員巻き込み型の取り組み…組織が抱える問題に、従業員がチームを結成して解決に取り組むことで、組織の業績向上に加え、組織への愛着を感じたり、組織で働くことに対する肯定的な意識を引き出すことが期待できます。

④従業員の成長と育成に関わる取り組み…教育や育成により従業員の能力を高めていくことで、業務に対する負担感を軽減できます。また、成長を支援することにより、モチベーションの向上やストレスの低減が期待できます。

⑤従業員を承認するための取り組み…従業員の貢献を認め、報酬を与えたり表彰したりすることで、従業員が「自分が重要な存在であると認められている」と感じ、モチベーションや組織への愛着を高めることが期待できます。

これらの施策を行っている企業は多いと思いますが、それぞれ別の部署によって個別に実施されているケースが多いのではないでしょうか。各施策をウェルビーイング経営という観点から統合した取り組みにすることで、効果をより高めることができるでしょう。

■業績を一時落としてでも、残業削減に取り組む

ウェルビーイング経営の考え方に近い先進事例として、SCSKとフジクラを紹介します。

電線大手のフジクラは2018年に健康経営銘柄に選定された。(時事通信フォト=写真)

SCSKは2011年に住商情報システムとCSKが合併して誕生したIT企業です。当時、常態化していた長時間労働を問題視した初代社長が旗振り役となり、残業削減に取り組みます。ポイントは、労働時間を減らす際に従業員が直面するジレンマの解消です。

例えば、仕事を早く終わらせようとすると、短期的には成果が下がることもあります。これに対して経営トップは、業績を一時的に落としてでも、残業時間を削減するという明確な方針を示しました。その結果、現場の優先順位が明確になり、残業削減が進みました。

こうして、まず労働環境を改善したうえで取り組んだのが、従業員の健康増進活動「健康わくわくマイレージ制度」です。健康の維持・増進に資する5つの行動習慣(ウオーキング、朝食、休肝日、歯磨き、禁煙)および定期健康診断の結果をポイント化し、獲得した1年間のポイントに応じたインセンティブが賞与に反映されます。

経営陣が積極的にコミットし、健康増進活動に取り組むようラインの管理者に強く働きかけており、管理者自身もこうした活動に参加させることを自らの仕事として強く認識しています。その結果、当初から99%の従業員が参加し、取り組み3年目にはインセンティブ獲得者は75%に達しました。

SCSKの取り組みのポイントは、トップ主導で、まず従業員の負担を減らし、従業員が行動習慣に目を向ける余裕ができた段階でウェルビーイングの向上に取り組んだことです。

一方、従業員が活き活きと働くために、自発性を重視した活動を行っているのがフジクラです。電力・通信ケーブル、電子部品などの大手メーカーである同社は、14年に「健康経営宣言」を行い、従業員の健康を重要な経営資源と位置づけて多様な活動を展開しています。オフィスは、デスクから離れること、環境を変えること、体を動かすことにより、新しいコミュニケーションや人脈づくりができるような工夫がされています。一部の事業所内には遊歩道やアスレチック設備などを整備し、昼休みや帰宅前に体を動かしやすい環境づくりも進められています。

また、生産性向上の最大の阻害要因として身体活動量不足を課題に挙げ、その活動量を増やすための代表的な取り組みとして、3カ月間の歩数を競う「歩数イベント」を実施しています。個人だけでなくチーム戦として競うことで、フィジカル面の健康増進に加えてコミュニケーションの増加や職場の一体感の醸成にもつながり、メンタルヘルスの向上にも寄与しています。

事例から学ぶこととしては、企業の状況に応じて、自社の経営課題に、従業員のウェルビーイング向上がどのように貢献できるかを検討したうえで、多くの従業員が参加しやすい施策を行うことが大切だということです。

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森永雄太(もりなが・ゆうた)
武蔵大学経済学部経営学科教授
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。立教大学助教、武蔵大学経済学部准教授を経て、2018年4月より現職。専門は組織行動論、経営管理論。近著に『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 健康経営の新展開』。

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(武蔵大学経済学部経営学科教授 森永 雄太 構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)

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