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なぜ星野リゾートは「高い」と言われるか

プレジデントオンライン / 2019年5月13日 9時15分

2012年9月22日、滞在型リゾート施設「星野リゾート トマム」の雲海テラスからの眺望=北海道占冠村/写真=時事通信フォト

星野リゾートの宿泊料金は決して安くはない。それはなぜか。星野佳路代表は「単価を上げても稼働がついてくる時代になった。だが、顧客の期待値とサービスの価値のバランスが崩れると、顧客満足度が落ちてしまう。適正な価格の範囲にするのが大事なのだ」という。ホテル評論家の瀧澤信秋氏が聞いた――。

※本稿は、瀧澤信秋『辛口評論家、星野リゾートに泊まってみた』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■イノベーションを担う運営会社があったほうが良い

――星野リゾートの運営会社としての強さをどう分析されますか?

【星野】ホテルが足りない→多すぎた→足りない、を繰り返して成長するのがホテル業界ですが、しっかり業績を残し外資と戦えなければ世界へ出ていくことはできません。旅行者は増えていますし、需要もある中で、稼働率や収益率だけでは差が出ません。

投資家やオーナーの最大の関心は、売上ではなくどれだけ利益率が高められるかです。特にリーマンショック以降、違った手法を提案し運営できる運営会社が残っています。他社と同じ利益率なら運営会社に出ていってくれというシビアな時代です。

ポジショニングは重要で、立ち位置を明確にすることが大切です。私たちは需要のないところに建設されたホテルをどう再生するか考えながら運営をしてまいりました。まずは需要を作り出すことに、取り組まなければなりませんでした。

悪しき伝統は淘汰されるということ。学べるところは全部学ぶこと、壊すべき伝統は壊さないと生き残っていける時代ではありません。イノベーションを担う運営会社があったほうが良いし、壊していると指摘されることは嫌ではありません。

■ブランドには明確な差があるべき

――まだまだ新たなコンセプトのホテルは増えていきますか?

【星野】日本のホテル・宿泊業界は変わっていくのでしょうか? と、よく聞かれますが、正直なところ私もわかりません。逆に教えてほしいくらいです(笑)。ホテルを作りすぎという話もあったり、まだまだ大丈夫みたいな話もあったり。瀧澤さんのほうがよくご存じだと思いますが、どんなにホテルが増えても、ホテルは増え続けていくのです。投資家がいますから。投資家は必ず新しいホテルを作り続けていくと思います。

新しいホテルを作り続ける時には、必ず自分が新しく建てるホテルが有利になるように、新しいコンセプトを探し続けます。ですから、この動きは永遠に続いていきます。ちょっと当たるコンセプトが出ると、それを真似する人が出てくるということを繰り返していくのです。

――「星のや」「界」といったような星野ブランドは増えていくのですか?

【星野】ブランドには明確な差があるべきだと思っており、大手の外資のホテルチェーンはブランドの差がないことで混乱を与えていると思っています。多くのブランドを作ってしまう理由は、実はオーナーニーズ(所有者の希望するスタイル)で作ってしまっていて、マーケットセグメンテーション(利用者が望むスタイル)から作っているわけではありません。

■安易にブランドを増やすことはしたくない

【星野】だから星野リゾートはちょっと安易にブランドを増やすことはしたくないと思っています。「界」は温泉旅館ですからとても明確です。そして「OMO」は都市観光です。このように、一つのブランドを立ち上げる時には顧客にわかりやすい、継続できるものを作っていかなければならないと思っています。

そんなにブランドやマーケティングに費用をかけられる会社ではないですから、コンセプトをある程度わかりやすくしないとお客様に伝わりません。

――オーナーは運営会社へ何を求めるのですか?

【星野】星野リゾートに限らず、評価の高い運営会社というのは非常に単純です。短期的には集客ができる、コストをしっかりコントロールできる、そして長期的には魅力をきちっと維持できるということです。また、良い人材にしっかりと長く勤めてもらえるような職場環境を維持することによって、長期的に投資家が安心できるような運営の競争力を守ってくれる。そうした運営会社を投資家は求めているのだと思います。

やっぱり短期的に利益を上げるという運営会社は多いかもしれませんが、短期的に上げたところで長期的に競争力が下がっていくというようなことでは本末転倒、不動産価値が落ちていきます。どうしても投資家は、中・長期的な価値ということにも目を向ける運営会社を求めているのだと思います。

■所有と運営が一体だと自分自身に甘くなる

――オーナーと運営会社の関係性は重要ですね。

【星野】やはり所有と運営が一体となっていると、自分自身に甘くなることが多いです。自分のお金で自分の事業をやっていると、説明責任もないし業績の開示責任もないからです。そうなると、甘くなるところはどうしても出てくるのではないでしょうか。やはりオーナーとか、投資家がいることによって、自分たちの判断、運営会社の判断は本当に正しいのかということを常にチェックされますし、常に緊張関係が働きます。

ですから部屋を改装したい、ちょっときれいにしたい、追加投資なんていう時にもオーナーに対してしっかりとした説明責任が問われます。“なんとなくやっちゃいました”ということはやっぱりできないのです。

――運営会社次第で利用者も幸せになるということも?

【星野】中長期的な競争力ということに関して、オーナーと運営会社の緊張関係はとても大事だと思います。そのことが結果的には利用者へ提供するサービスの質に繋がり、迅速な施設のリニューアルといった良い循環になると思います。

いま世界では、ホテルを所有したり投資したりしたいという人のほうが、運営したいという人よりも多いです。日本の地方のケースだけ考えた場合でも、やはり所有と運営は分離したほうが、地方にお金がたくさん流れる状況が生まれるのだと思います。自分で所有も運営もしていてなかなか借り入れられない人たちも、投資家に投資してもらえるような環境を作ると結果的に施設は良くなっていくはずで、結果的にお金が地方に流れていくという現象が起こるわけです。

星野リゾートだけではなくほかに良い運営会社がたくさんあれば、地域にとっても、国やホテル業界にとってもプラスだと思っています。世界中にいる投資したい人たちのお金を持ってくることができるからです。結果的に世界のレベルに合った施設が維持されやすくなるのだと思います。

■星野リゾートを嫌いな人は「私が嫌い」

――今回の本の取材で、星野リゾート大好きという人もいらっしゃれば、大嫌いという人もいらっしゃって、いろいろな声が聞こえてきました。

【星野】よく知っています(笑)。

――当たり前と言えば当たり前なのですが、アンチな人は星野リゾートへ行っていないんですよね。「行ったことありますか」と聞いても、「いや、行ったことないです」と。

【星野】だからやはり施設が嫌いなんじゃなくて、私が嫌いなんだと思います。

――という一方でビジネスは最高のセンスでやっていると言う人は多い。

【星野】それが嫌なんでしょうね。私たちがやっていることだけを聞くと反感があるというのは理解できます。ただ、その背景にはより大きな構造的な戦いがあるのだと私は思っています。シビアに行く以外にないなと。

――星野リゾートはまるで“メッキのようだ”といった方もいました。

【星野】剥げないメッキを作ります(笑)。

■最後は外資の運営会社との戦いになる

――別にそういう人たちと喧嘩しようということではない?

【星野】全然そんなことはありません。

是非一度、施設にいらしていただきたいと思います。一度いらして体験していただいて、そこで気づくことがあれば、是非ご批判も含めてお話しいただきたいと思っています。さまざまなご指摘をいただきたいです。こちらはいつでもウエルカムですし、そうした意味では、応援していただきたいと思っています。

――数字を見ると本当にすごいなと思います。着実にきちっと成果を出していらっしゃる。

【星野】いやいや。必死です。毎年毎年との思いで、28年続けています。創業からですと105年です。

――すごく必死で続けられている、ということですね。

【星野】ずっと必死です。国内ではアンチ星野リゾートということも言われつつも、やっぱり今でも外資のホテル会社に比べますと弱小企業です。先ほどもお伝えしましたが、最後は外資の運営会社との戦いになると思っています。リゾートや旅館は地方でじっとしていれば守れるという時代ではなくなってきました。やはり日本のリゾート会社が自分自身を守るためには、守っていても守れない時代ですね。

攻めに出る時は出なければなりませんし、対等に戦うためには違いも出さなければなりません。そのためには、スケールが必要です。そういう視点です。

■「自分の趣味」でホテルに泊まることはない

――星野さんはいろいろなホテルへ泊まったりするのは好きですか?

瀧澤信秋『辛口評論家、星野リゾートに泊まってみた』(光文社)

【星野】いや、ホテルに泊まるというと仕事になってしまいますので。よってあまり自分の趣味でホテルに泊まったりはしないです。

――年間どのぐらい(他の)ホテルに宿泊されているんですか?

【星野】仕事として宿泊することはありますが、多くはありません。試泊、会議、研修などで行くような時ぐらいですね。

――星野リゾートには泊まったりするんですか?

【星野】社内の施設はほとんどないですね。研修で行く時ぐらいですね。

――星野さんが星野リゾートの施設に自分が泊まった時、この料金はどうだろうか? という疑問はありますか?

【星野】出張で行くので料金を払ったことはありませんが、自分の感覚ではあんまり考えたことはないですね。先ほどもお話ししたことですが、やはり料金は、需給関係がまず一つ。もう一つは顧客の期待値と提供しているサービスの価値から設定します。ここのバランスが崩れると、やはり顧客満足度が落ちていきます。

なので、上げられるだけ上げればいいわけではない、と投資家やオーナーへ何度も説明しています。先ほどお話ししたように、中長期的に一番痛い目に遭うのはオーナーであり、投資家なのであって、顧客満足度を維持するということは中長期的に最も大事な指標です。

■単価を上げても稼働がついてくる時代になった

――デフレが長く続いてきました。

【星野】だから単価を好き勝手に上げるなんていうことはできませんでした。でも、ここ5年は、単価を上げても稼働がついてくる時代になってきました。需要過多の時代になったということです。昨年くらいから顧客満足度の価格設定を重要な指標に入れていまして、適正な価格、価値に見合った価格を超えてはならないことをスタッフに話しています。

「星のや」でも「界」でもまったく同じです。トマムも最近インバウンドが増加して、放っておくと価格がどんどん上がっていきますが、顧客満足度を見てだいたいわかるんです。ゴールデンウイークなどは高くなるから満足度が落ちますし、価格が下がっている時は満足度が上がります。ゲストはゴールデンウイークと普通の平日で感じる価値というのは変わりません。よって、お客様に満足していただける適正な価格の範囲でいらしていただけるようにするというのはやはり大事なことだと思っています。

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瀧澤信秋(たきざわ・のぶあき)
ホテル評論家
コストパフォーマンスの高い国内ホテルを徹底取材、宿泊者目線で評論活動を行う。ホテル業界全般や、サービス、ホスピタリティ、クレーム対応、ホテルグルメなどについて、ホテル経営者やスタッフなどへの綿密な取材の上、各種媒体を通じて情報を発信している。また、旅行作家として、ホテルや旅のエッセイなど多数発表、ファンも多い。著書に『ホテルに騙されるな!』(光文社新書)、『365日365ホテル 上』(マガジンハウス)、『最強のホテル100』(イースト・プレス)がある。

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(ホテル評論家 瀧澤 信秋 写真=時事通信フォト)

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