なぜ"働けない人"を農業で戦力化できたか

プレジデントオンライン / 2019年5月31日 11時15分

農業が大好きな小島さんは、早朝から夕方まで、日に何度も畑に足を運ぶ。

■ホームレスや引きこもりに、自信を与えた農業

えと菜園社長 小島希世子(おじま・きよこ)さん

小島希世子さんは熊本県の農村地帯に生まれた。周囲は農家が多かったので毎日新鮮な野菜が食卓に並んでいた。しかし小学2年生の頃、アフリカの子どもたちが食べ物がなく餓死していく様子をテレビで見て衝撃を受ける。一緒に見ていた母に「食べ物を送ったらいいんじゃないの?」と聞くと、こんな答えが。

「アフリカは地球の裏側にあるから、船で送る間に食べ物が腐っちゃうの。それより、現地で食べ物のつくり方を教えるほうが役に立つのよ」

それ以来「世界から飢餓をなくしたい」と大志を抱いて小島さんは勉学に励んだ。慶應義塾大学在学中から農作物の卸売会社でアルバイトをし、そのまま就職して流通や農業のイロハを習得。農ビジネスの世界を知った後、えと菜園(なえん)を設立し、農家のこだわり野菜と消費者を直接つなぐネット通販を始める。野菜がどのようにできるのかを知ってもらいたくて神奈川県藤沢市に畑を借り、体験農園コトモファームも開設。

(写真上)神奈川県藤沢市にあるコトモファームでは自分たちだけの体験区画を持ち、さまざまな野菜作りにトライできる。(同下)ホームレス支援団体と一緒に作った小屋。農園で採れた野菜をその場で食べられるバーベキューエリアでもある。

また、アフリカだけでなく日本にも、食料や住む家がないホームレスがいることにも目を向けた。

「人手不足の農業界と、働きたいけれど仕事がない人たちを結び付ければ、彼らの行き倒れを防ぐことができるかもしれないと思ったのです」

周りから「無謀だ」と反対されながらも、強い信念のもと、ホームレスや引きこもりの人々が野菜を作る環境を整えた。それから10年。この間、自立の第一歩となる農業のノウハウを学べるNPO法人農スクールも設立。今、就業率は約40%。

基本的に自己資金・無借金で、数々の立ち上げに大きな壁はなかった。それは、“助けてあげたい”と人に思わせる小島さんのキャラクターによるところが大きい。友人や仕事で知り合った人が彼女の不得意分野をどんどんサポート。プライベートでは夫が“主夫”として、家事、育児、ママ友対応までこなす。

一方、農園で働く人を育てる“ソフト面”は一筋縄ではいかなかった。働く意欲が持てない生活保護受給者や、「自分は生きている価値がない」と思い込んでいるホームレスとどう向き合ったらよいか。なかでも悩んだのは、彼らが直面している社会の不条理さ。その壁に対して、自分はあまりにも力不足だった。

「結局私ができるのは、自分に自信を持ってもらい、彼らと就業先の農家をつなぐこと。ホームレスや引きこもりの人の多くは自分に自信が持てず、それゆえ決断できないことも。だから私は彼らのやり方には口出しせずに見守り続けるようにしています。少しくらいプロセスが間違っていても、結果的に野菜が育てば、それが彼らの自信になるんです」

■“水やり無し”の農法を、海外に広めたい

小島さんが今注目しているのは「雑草農法」。簡単にいえば、雑草を肥料に活用して、水やりをしない農法だ。また、互いに栄養を与え合う“根粒菌”を土壌中に増やすと肥料が不要に。海外の飢餓に苦しむ地域にもこうした技術を提供し、自給農的なシステムをつくりたいと、目を輝かせる。コトモファームは、現在、約140家族が利用。雑草農法を学ぶために年間のべ500人以上が訪れている。

一方、2018年は台風の被害が大きく、自然の脅威を知った。

「これからはもっと気候変動に向けて対策を練らないといけませんね」

畑を見つめながらそう語る小島さんのまなざしは、とても温かい。

【座右の銘】
「『できるかできないか』ではなく、『やるかやらないか』」
【好きな本】
『モモ』ミヒャエル・エンデ著/岩波書店
【好きな映画】
『レインマン』/ダスティン・ホフマン、トム・クルーズ主演
【趣味】
野菜づくり。趣味を仕事にしてしまったので。

(ライター 桜田 容子 撮影=キッチンミノル)

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