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「農業」の倒産が過去最多に 「改革の先頭に立つ」スタートアップ企業を見殺しにしていいのか?

J-CASTニュース / 2024年4月10日 19時2分

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野菜を持つ男女(写真はイメージ)

「農業」の倒産が相次ぎ、過去最多に――。東京商工リサーチが2024年3月25日に発表した「2023年度『農業の倒産動向』調査」で明らかになった。

んん? 農業って倒産するの? と疑問に思ったアナタ。近年は、農業の改革のために、会社組織や法人組織の「農業」が増えているのだ。

しかし、そうしたチャレンジ意欲に満ちた「農業」で倒産が増えている。大丈夫かニッポン農業? 調査担当者に聞いた。

コロナ関連支援の縮小で「息切れ倒産」「あきらめ倒産」

個人事業の農家になぜ倒産が? と違和感を持つ向きもあるだろうが、東京商工リサーチの調査は、株式会社や有限会社などの会社方式の法人や、農業経営の個人が集まる組合方式の法人を含む「農業法人」が対象だ。

近年は、後継者不足によって廃業した農家の遊休地解消のために、企業経営のスキルとマインドを持つ「農業法人」が増えており、積極的に誘致を進めている自治体も多い。しかし、失敗して破綻に追い込まれるケースが少なくない。

東京商工リサーチの調査によると、2023年度の「農業法人」の倒産は累計が82件に達した。過去最多だった前年度の76件を上回り、過去最多を記録した【図表】。

前年度、つまり2022年度は深刻な燃料高・飼料高でコストアップが収益を直撃し、さらに畜産業で豚コレラなどの伝染病によって大手畜産業者の破たんが目立った。

そして2023年度は、大型倒産こそ減少したが、燃料や飼料の高止まりに加え、コロナ関連支援の縮小による息切れやあきらめ倒産が増加した。

革新的なスタートアップ企業に倒産が多い

業種別では、野菜作農業の37件と突出して多く、なかでもきのこ類の栽培業者(16件)が目立つ。

きのこ類はハウス栽培で省スペースの反面、温度や湿度管理が求められるため、燃料費の高騰が経営の圧迫要因となった。

また、業歴別にみると、事業を始めてから20年未満の新興企業が46件と、約6割を占めた。

小資本で設立したものの、事業計画の見込みが甘かったり、事業基盤が安定化しないうちに経営環境の悪化に見舞われたりしたケースが多い。

農業法人には、新たな試みや画期的な農法を事業の核に据えたスタートアップ企業が少なくない。

たとえば、2023年度で負債が最大となった「ワールドファーム」(有限会社、茨城県つくば市)は、その典型例だ。

同社は、全国14か所に露地野菜の農場を展開し、国産野菜の栽培から冷凍加工野菜の生産・加工、販売までの一貫体制を構築していた。

このほか、行政との連携も進め、農地バンクを活用した耕作放棄地の解消や新規就農者の育成にも努め、圃場への加工工場の併設など、新たな試みを打ち出して事業を拡大した。

しかし、コロナ禍の外出自粛や飲食店への休業要請、全国規模で実施された休校措置などにより、業務用カット加工野菜の販売が急激に減少して破綻に追い込まれた。

きのこ類も「指定野菜」の仲間入りを

J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した東京商工リサーチ情報部の増田和史さんに話を聞いた。

――リポートでは、きのこ類栽培業者の倒産が目立つとあります。今年(2024年)1月、国から支援を受けられる「指定野菜」にブロッコリーが半世紀ぶりに追加されてニュースになりました。

それまでの「指定野菜」キャベツ、きゅうり、さといも、だいこん、トマト、なす、にんじん、ねぎ、はくさい、ピーマン、レタス、たまねぎ、じゃがいも、ほうれんそうの14品目で、ブロッコリーは15番目です。

ニュースが報じられてから全国的にブロッコリーを栽培する農家が増えています。きのこ類も指定野菜に入れたらいいと思いますか。

増田和史さん 「指定野菜」は「日本人の食生活に欠かせないと認められた野菜」のことで、国は安定的に供給できるよう支援する仕組みです。

私は、「きのこ類」も指定野菜に入れたほうがいいと思います。栄養価が非常に高く、ほかの「指定野菜」と同じくらいに、広く一般家庭で消費されていますから。

きのこの栽培もコメのように広大な土地を使わず、ハウスの中で燃料を使って温度と湿度をしっかり管理して作ります。季節性を持たず、いつでも消費者のもとに届きますから、イメージとしては工業製品のようです。その代わり、初期投資に多大な資金が必要で、会社経営のところが多いです。

経営がエネルギー価格などの動向に左右される面がありますから、「指定野菜」と同じように安定的に供給されるよう、政府の支援は必要でしょう。

破綻後に再復活へ 落としても殻が割れない「幻の卵」

――リポートで興味深かったのは、「倒産した企業には、新たな試みや画期的な農法を事業の核に据えたスタートアップ企業も少なくない」という箇所です。具体的例として「ワールドファーム」をあげていますが、ぜひとも生き残って日本農業の改革に貢献して欲しかったと、残念でなりません。

ほかにも、日本の農業を変えようとしたスタートアップ企業で、破綻に追い込まれた企業はありますか。

増田和史さん 斬新な試みをして生産した農産物を、JA(旧農協)を通さずに直接飲食店や学校給食に届ける事業を展開したことが、結局コロナ禍では裏目に出て、破綻したケースが非常に多いです。JAはある意味、総合商社ですから、その傘下にいることはコロナ禍のようなピンチには安全弁になります。

そんななか、逆に、一度経営破綻しながら2024年4月現在、復活に向かって動き始めた珍しい例として、高知県三原村に放し飼いで地鶏を飼育し、「幻の卵」を販売している「しゅりの里自然農園」(合同会社)があります。

経営者は青年海外協力隊に参加し、養鶏の普及に務めてきました。2002年8月、脱サラして三原村に移住。広大な村有地を借りて一から開拓を行い、「しゅりの里自然農園」をオープン。

地鶏の卵は落ちても割れないほど殻が固く、黄身だけをつかむことができる丈夫なものだそうです。全国にファンが多かったのですが、獣害や台風被害で経営が破綻。

債務整理には5年かかりましたが、夢をあきらめず、農場を復活させる新たな取り組みを始めていると、4月上旬、TBSニュースなどで報じられています。

――いい話ですね。日本の食糧確保のために行政や我々消費者は今後どうしたらよいと思いますか。

増田和史さん 農業を継ぐ人が圧倒的に少なく、日本中が休耕地だらけになっています。家族だけで農業をするのはもう限界です。会社経営の法人組織などが地主から休耕地を借りて、定期的に新卒採用などを行ない、給料を出す方式で人手を集めないと、日本の農業はやっていけません。

こうした挑戦的な試みに政府も支援を続けてほしいと思います。同時に、若い世代で農業に興味を持つ人は、ぜひこうした農業法人も就職先に選んでほしいと願っています。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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