従業員の"本当の忠誠心"を調べる最新指標
プレジデントオンライン / 2019年8月11日 11時15分
図はとある企業のエンプロイージャーニーマップだ。赤線と青線の開きを改善すると、eNPSを押し上げる。この会社の例では「上司との関係」の項目に大きな開きが見られる。一方「報酬・給与」に対しては不満はなく、給料をアップしてもeNPS改善には結びつかない。
■最新技術で離職を防ぐ!「忠誠心」を育む飛び道具
東京商工リサーチによると、2018年度の「人手不足」関連倒産は400件に達し、これまで最多だった15年度の345件を上回った。人材難による倒産が本格化している。そんな中、注目を集めているのが従業員の会社に対する忠誠心、愛着度を示す「eNPS」という指標だ。
eNPSとは、コンサル会社「ベイン・アンド・カンパニー」のフレッド・ライクヘルド氏により考案されたNPS(ネット・プロモーター・スコア)という企業の商品やサービスに対する愛着度の経済指標を応用したものだ。NPSとは従来の顧客満足度より収益との相関性が高いとされ、NPS先進国の米国では売り上げ上位企業500社(Fortune500)の35%がこの指標を経営に取り入れているともいわれている。このNPSをアップルが従業員の愛着度などを測るために使い始め普及したのが、employeeの頭文字を先頭につけたeNPSだ。
「eNPSが高い企業ほど、離職率が下がり社員の生産性が上がることがわかっています」。そう語るのはeNPSを活用し企業の従業員エンゲージメント(社員の会社に対する愛着心や思い入れ)の向上を支援している、エモーションテック今西良光社長だ。どういった企業のeNPSが高く、どうしたら数値を改善できるのか。今西氏に聞いた。
■稲盛氏のアメーバ経営との相関点
eNPSは、日本ではそれほど馴染み深い指標ではないかもしれませんが、欧米企業では広く取り入れられています。Yahoo!の米国本社や世界的ホテルチェーンの「フォーシーズンズ・ホテルズ&リゾーツ」などがその例です。日本は少子高齢化の先進国といわれていますが、世界的に人材の取り合い合戦が繰り広げられる中、他国の企業も、いい社員を自社に残すため必死なのです。
ただ、日本でもeNPSの認知度は高まってきています。われわれの会社へも、eNPSの活用に関する問い合わせが増えてきています。
eNPSとは簡単にいえば、その会社の従業員が他の人にこの会社で働くことを勧めるか、それとも勧めないかということを数値化したものです。業界ごとに平均スコアが違うので、競合他社のスコアと比較しながら活用します。
この指標は既存の満足度とは違うものです。ある企業の調査で「会社に満足している」と答えた人に対して「転職したいか」を聞いたところ、60%の人が「はい」と答えました。一方でeNPSが高い企業は転職希望者も少なくなる傾向にあります。従業員の離職を防ぎたい企業にとっては鍵となる数値となります。
■eNPSを実際にどうやって人事に活かせばいいのか
それでは、eNPSを実際にどうやって人事に活かせばいいのか。われわれの会社が支援する場合ですと、会社のどんなところがどの程度従業員ロイヤルティに影響するかを見える化する、エンプロイージャーニーマップというものを作成し、そこから組織の改善策を練っています。
![](https://president.jp/mwimgs/d/f/-/img_df84c41d476557269f5c7535bc000dcc90097.jpg)
とあるベンチャー企業では、従業員の多くが会社の評価制度に不満を持っていました。そこで、その会社は「ありがとうポイント」という社内制度をつくりました。同僚に何かお願いしたり、親切をしてもらったりしたら、その同僚に対してありがとうポイントを、アプリを通じてあげられるというものです。ポイントは給料に上乗せされます。この制度の導入により、会社のeNPSは改善し、社員の会社に対する忠誠心が上がったのです。
逆にeNPSの数値はいまいちでも、社員が給料に対してはあまり不満を持っていない企業があったとします。その会社が離職を防ぐため給料を上げても、eNPSを向上させる効果は薄く、人件費がかさむだけになってしまうでしょう。
さて、eNPSが高い企業にはどんな特徴があるのでしょうか。企業ごとによって事情はさまざまですが、eNPSに限らず定期的に社員の様子を調査して、課題を把握しようとしている企業は高くなる傾向にあります。「焼肉きんぐ」などを展開する外食チェーンの物語コーポレーションは3カ月に1度のペースで調査を実施し、課題把握に努めています。同社は従業員の定着率を向上させていくために各店舗が何を改善すべきか、明確に特定できました。
■上司との関係はeNPSを大きく左右するファクターに
また、人事部がなんでもかんでもやろうとするのではなく、各部門に持たされている裁量が大きく、部門長が責任を持ってその部門の働き方を改善しようとしている会社は、eNPSが高くなることが多いです。
それは京セラを創業した名経営者、稲盛和夫氏が提唱する「アメーバ経営」(組織をアメーバと呼ぶ小集団に分け、各アメーバのリーダーが中心となりアメーバの計画を立て、努力することで目標を達成していく)と通じるものがあると考えます。
1.研修による成長支援
給料を上げるのではなく、何かスキルや知識を社員が身に付ける機会を与えることで、会社に所属するメリットを提供する。
2.ミッション・ビジョンの浸透施策
会社がどこを目指しているかわからないことに不安を抱く社員に向けて、しっかりと説明していく。会社の結束力の向上につながる。
3.褒める文化醸成(相互評価)
とある企業では、AさんがBさんにいいことをしたら、Bさんが「ありがとうポイント」を付与できる。ポイントは給料に上乗せ。
4.採用人物像の見直し
現場が求めている欲しい仲間像を吸い上げる。そこからリファーラル(推薦)採用にもつなげられるので、採用コストも抑えられる。
5.上司との面談、評価制度の見直し
上司との関係はeNPSを大きく左右するファクターとなるケースが非常に多い。逆にここを改善するだけで、一気にeNPSが向上するケースもある。
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![](https://president.jp/mwimgs/0/e/-/img_0e7d521af30aba2700b86331c88996f210444.jpg)
エモーションテック社長
1982年、東京都生まれ。早稲田大学大学院出身。日立製作所、ファーストリテイリングを経て、2013年に独立。
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(ライター 万亀 すぱえ 撮影=村上庄吾 写真=iStock.com)
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