1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

なぜネットでは小さな諍いが絶えないのか

プレジデントオンライン / 2019年6月26日 9時15分

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/RaStudio)

かつてネットは自由で気楽だった。だがいまのネット上には自主的な警備員がたくさんいる。小さなミスも難癖の対象になり、諍いが絶えない。そうしたリスクを嫌い、「オンラインサロン」にこもる人も増えている。連続起業家の家入一真氏は「いまのネットには『不特定多数から特定少数へ』という流れがある」と指摘する――。

*本稿は、家入一真『さよならインターネット まもなく消えるその「輪郭」について』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■インターネットという情報の海に溺れる人が出てきた

ぼくが初めてインターネットに触れたときは、それこそ地図もないまま、広大な海に放り出されたような感覚を覚えました。ありとあらゆる情報にアクセスできる、その可能性を感じていつまでも海をずっとさまよっていたけれど、調べたい情報自体、さほど多くないことに気づきました。

確かに検索機能が発達したことで、膨大な情報の海の中にいても欲しい宝物へと、最短距離でたどりつけるようになりました。しかし、むしろ簡単に見つかるようになった結果、人はそこから取捨選択することに悩むようになりました。自由すぎる状況が、逆に不自由さをもたらした、ともいえるのかもしれません。

低コスト、低リスクで情報発信できるようになり、インターネット上にはコンテンツや情報があふれているのだから、その海に溺れる人が出てきても不思議ではない。そんな人たちが増えてきたからこそ、救済する道具の一つとして近年流行したのが、「キュレーション」と呼ばれる、インターネット上に散らばった情報を選び出してくれる機能です。

たとえばニュースキュレーションアプリなら、それを使うほどに、使用者の興味や関心を把握し、情報を使い手に合わせて選び出せるようになる。セレクトされた情報を本当にユーザーが欲しているかという精度も、アプリを使うほどに高まっていきます。それはまるで、欲する情報を把握して、新聞から切り抜いて渡してくれる優秀な秘書のよう。

■無意識のうちに「見たいもの」だけを見るようになる

でも、ぼくはこれもいいことばかりではないと思います。

キュレーション機能のおかげで、みんなそれぞれ優秀な秘書を持った結果、どうなったか。広い情報の海を小さく切り取り、世界を分割してしまったのではないでしょうか。

無意識のうちに見たいものだけを選び取る。自分好みの意見ばかりを吸収する。これが進めば、人は自分の好むものをさらに好む傾向が強まっていく。興味関心のあるものだけで、自分のまわりを固めてしまえば、それが一番気持ちいいからです。

当然、あるアイドルファンの元には、そのアイドルの情報ばかりが集まり、左寄りの情報を求める人には左寄りの情報ばかりが集まります。しかも膨大に流れる情報の海の中で、閲覧できる情報の量、範囲、時間はますます限定されていくのだから、幸せ、と感じられるものを見届けるだけでやっと。

そうなると知らず知らずのうちに「この世界はあのアイドルファンであふれている」「この世界に右寄りの人なんていない」というような、極端な世界観に取り込まれてしまう可能性も否定できません。これを繰り返した未来はいったいどうなるか。その人の世界は情報の海の中で、むしろ、どんどん狭くなっていくのではないでしょうか。

■インターネット=「居心地のいい小部屋」

そうなったために、ふとした瞬間、自分の欲していない情報が視界に入れば、極端な反応をしてしまったり、遮断してしまったり、ときにはバッシングをしたりしてしまう、という状況が今、目の前で起こっているように思われてなりません。

現実として、他の世界を見せない閉ざした状況が、歴史上どんな悲劇をもたらしてきたか、想像することはたやすいのに。

こうしてインターネットという大きかった一つの世界は、あまりに大きくなりすぎたために、むしろ個々人の小さな単位に分断されることを選ぶようになりました。

最近、ぼくは「インターネット=居心地のいい小部屋」のように感じる機会が増えています。手を伸ばせば書棚からお気に入りの本が取り出せる。目前のテレビをつければずっと好みの番組だけが放映されて、オーディオのスイッチを入れればお気に入りの曲が絶え間なく流れる。こぢんまりした部屋の中に好きなものがすべて揃っている、といったイメージといえば伝わりやすいでしょうか。

きっとその部屋に留まっているぶんには、部屋の持ち主にとって、それ以上に快適なことはないのかもしれません。でもその部屋からは、晴れているのか、雨なのか、暑いのか、寒いのか、外の様子をうかがい知ることはまったくできない。

■縮小を続けた結果としてのオンラインサロン

間違いなく、インターネットの世界そのものは、相変わらず加速度的に拡大を続けています。一方で、個々人が触れる世界だけを見れば、より精度や感度が高くなったぶん、ムダが排除され、どんどん縮小を続けている。個人を中心とした小さい、分割された世界がたくさん生まれていて、趣味嗜好はもちろんですが、政治信条などが異なる人がいい意味で交わることも減ってきている。だから近年ヘイトスピーチなどが増えているのも、当然の結果のように思います。

さらに閉じた世界を志向する事例として、世間に対して大きな発言力や影響力を持つ人たち自らが管理者となったオンラインサロンが、13年頃から多く開設されていることが挙げられそうです。オンラインサロンを手がけるプラットフォームも続々生まれました。

オンラインサロンを簡単に説明すれば、もともと会員制のクローズドなコミュニティを指す「サロン」のインターネット版とでもいえばいいでしょうか。限定された人々のあいだで、基本的にはWebを中心としたコミュニケーションが行われるところで、会費が発生し、会員以外は入れません。

■アンチ不在、ファンだけが集うから安心

メディア関係者やライバルが情報収集などの意図を持って入会することもあるかもしれませんが、基本的にアンチは不在。ファンばかり集うという設定だから、オンラインサロンの中なら管理者たちも居心地がいいし、意図しないことで炎上が起きるような心配も格段に減ります。

もちろん、開設した事情は人それぞれだと思いますが、話を聞く限り、ほとんどの管理者は、これまでのような全公開型のSNSに対する疲れや諦めを感じた結果として、こういった仕組みを自ら選んでいるようです。

それもそのはず、今SNSを通じて発した発言が、一部だけ切り取られて変に解釈されたり、悪意をもって捉えられたりするなどして、まるで意図していないような内容で広まることは頻繁になっており、だからこそそれを否定するために割かなければならない労力も甚大になっています。

■ツイッターで「スタッフが運用しています」と宣言する理由

あらゆるところにインターネットを持ち歩けるようになった現在、悪意も爆発的ともいえるほどに広がり、しかも輪郭が溶けて全容が見えないため、想定を超えたところまで、いとも簡単に届いてしまう。だからこそ、企業や著名人などは、これまで以上に、SNSでの発信については慎重に考え、トラブルを未然に防止する、もしくはSNSをあえてやめる、という戦略をとるようになってきたのでしょう。

たとえば以前、ある人気歌手が自身の「Twitter」のアカウント上で「今日からスタッフが運営し、最新情報を発信するアカウントになりました」などとアナウンスし、突如その管理を手放したことが話題になりました。

はじめから「スタッフが運用しています」と言い切っておけば、トラブルが生じたとしても、そのまま歌手本人にまで被害が及ぶことは少なくなるだろうし、手間も格段に減ります。つまりSNSはリスクがありすぎて、それを最小限にすることを追求した結果、他者が本人に代わって発信するような状況にまでなっている。こうなれば、もはや実際は誰のアカウントなのかもわかりません。

結局、インターネットの世界の広がりによってリスクが高まりすぎたあまり、現実世界の存在まで危うくされ、やむなく私たちはその世界を閉じることを選んでいる、ということなのでしょう。

■「不特定多数から特定少数へ」は自然な流れ

オンラインサロンの流行から見える、「不特定多数から特定少数へ」という流れは、やや残念ですがSNS全体の、そしてそこで取り扱われる個々のアカウントにおいて、とても自然なことだと思います。

というのも、もはやあらゆるものと結びついてしまったSNSやそこでのアカウントを、誰もが閲覧できる状況にしておくということは、たとえるなら自宅の玄関を開けっ放しにしているようなものだから。

玄関を開けていれば、通りすがりの人はもちろん、ときには来てほしくないような人まで土足で入ることができます。ただし家主であるあなたは動くことができず、訪問者は難癖をつけ放題、というのが今の状況なのかもしれません。

■あら捜しと小さな諍いの宝庫になってしまった

家入一真『さよならインターネット まもなく消えるその「輪郭」について』(中央公論新社)

しかもあなたの現実社会での居場所を探り、難癖をつけるためのテクノロジーは進化する方向にあるので、この傾向が向かう先に、ポジティブな未来は想像しにくくなっています。今の状況からさらにつけ加えれば、ぼくには誰もが警備員化してしまったようにも見えています。

よからぬものが転がっていないか常にパトロールする人、悪い輩を見つけると大義名分のもとに叩く人、さらにはそれほど悪いことをしていなくても、ノルマを果たすために強引に悪者に仕立て上げる人。そんな人たちがインターネット上を跋扈(ばっこ)しているように感じるのです。

かつてのインターネットというのは、むしろがんじがらめになった現実世界で失われた自由を求め、人々が理想を持って大きな権力と向き合う、という構図が一般的だったと思います。しかし今は、むしろ人々同士でチェックし合い、あら捜しをしては小さな諍(いさか)いを繰り広げているように、ぼくには感じられるのです。

----------

家入一真(いえいり・かずま)
株式会社CAMPFIRE 代表取締役CEO
1978年生まれ、福岡県出身。株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を創業し、JASDAQ市場へ上場。退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIRE創業、代表取締役に就任。他にもBASE、partyfactory、XIMERAの創業、駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の世界展開、ベンチャーキャピタルNOW設立など。

----------

(CAMPFIRE 代表取締役CEO 家入 一真 写真=iStock.com)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください