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旅行1回で平均100万円以上「富裕層の旅」の目的

プレジデントオンライン / 2019年8月15日 11時15分

※写真はイメージです。 - 写真=iStock.com/anyaberkut

富裕層の間で「変容の旅」が流行っている。その費用は旅行1回あたり1人約35万円。平均2.9人で旅行するので、総額は100万円以上になる。いったい何をしているのか。ラグジュアリー・コンサルタントの山田理絵氏が解説する——。

※本稿は、山田理絵『グローバルエリートが目指すハイエンドトラベル 発想と創造を生む新しい旅の形』(講談社)の一部を再編集したものです。

■旅の話はビジネスの場での評価につながる

「今度の休暇はどちらに?」という会話は、欧米社会では日常的にビジネスの場でも行き交います。「旅の話題は話すほうも聞くほうも旅している気分になれて、いい気分転換にもなる。どんな旅を選択し、創造するかはその人自身の嗜好や考え方を表すから、ビジネスの場で相手の人となりを知るためにも効果的だよ」とある経営者からうかがいました。

冒険心に溢れ、洗練され、トレンドコンシャスで本物で珍しく、人がなかなかしたことのない魅力的な旅を選択できることは、その人のセンスの証明になります。目が利き、エクスクルーシブな旅にアクセスする人脈も資金も時間もあり、生まれ変わるような経験をドラマチックに伝える話術を備えているということが、その人の評価に繋がるのです。

■「口コミ」でホテルやレストラン情報を手に入れる

これまでの研究の過程で、世界のハイエンドトラベラーがどのように旅の情報を得ているのかを調べてきました。その中で圧倒的に多かった答えは「口コミ」でした。「類は友を呼ぶ」ように、ユニークで豊かな旅をしている人の周りには、似たような興味を持った友人がいて、自然と情報が入ってくるのだそうです。

おすすめのホテルやレストラン情報を得たり、時には現地の友人を紹介してもらえてインサイダー情報も入る。こういった口コミのほうが情報の質に信頼性があり、失敗も少ないと言います。本書で取り上げているデスティネーションも、揃って口コミがマーケティングの源泉だと言っています。特にハイエンドビジネスでは口コミの力が絶大です。

世界のラグジュアリートラベル市場で、アメリカ人旅行者は最も経済効果があると言われています。カナダに拠点を置くラグジュアリートラベル・アドバイザーのレゾナンス(RESONANCE)が、2016年にアメリカ人旅行者の世帯収入上位5%に当たる1667人を対象に調査を行いました。

それによると、世帯収入は2000万円以上、または純資産が2億2000万円以上で、さらにトップ1%に当たる724人は、世帯収入がその倍以上、または純資産が8億8000万円以上にのぼることがわかりました。

また回数で見ると、一般的なトラベラー世帯が年に平均4.8回旅をするのに対し、上位5%は14.3回でビジネスとレジャーの比率は半々。つまりラグジュアリートラベラー1世帯が、一般トラベラー3世帯分の旅をしていることになります。

■富裕層を取り込むための「10の要素」

レジャー旅行への支出額では、平均2.9人の1世帯1人当たりの1回の支出額は、約35万円で、総額で約432億円にのぼることがわかっています。そしてこれらの富裕層を呼び込むためのハイエンドトラベルの未来を構成するトレンドには、以下の10の要素が挙げられています。

1 変容としての旅とは何か?(Travel as Transformation)

さまざまなものを見、経験をしてきたハイエンドトラベラーにとって、変容は外的な世界の経験からのみでなく、内的な世界からもやってくるのです。

2 食のアート性(Art as the New Food)

「食」はかつてはローカル色や旅情を感じるもの、愛好家や好奇心の強い人々のための“安息の地”でしたが、今や食材の選び方、味付け、盛り付け、器との取り合わせなどにアートとしての表現の要素が求められています。

3 健康で快適で幸せ(Well, Well, Well)

健康、快適さ、幸せを含む「Well-being(幸福な状態)」は、ハイエンドトラベラーが求める新たなキーワードです。

4 ホスピタリティのアジア回帰(Hospitality’s Asian Turn)

アジアのホスピタリティ事業体が海外進出を図り、西洋のブランドを積極的に買い上げる中、彼らはターゲットを世界中からのラグジュアリートラベラーに据えています。

5 みんな一緒がすべて(Togethering is Everything)

多世代旅行は、5年以上にわたり観光業界の最大のトレンドとなっています。ファミリー・ルームやコネクティング・ルームを増やすなど、大人数に対応できるこれまで以上に大きなラグジュアリー宿泊施設が必要となります。

6 所有しているかのように使える不動産(Unreal Real Estate)

Airbnbの台頭など、テクノロジーの進展が、世界中の富裕層の別荘や使用しない自宅などの物件へのアクセスを可能にしています。

7 温かみは新たなクールさ(Warm is the New Cool)

ホスピタリティ・デザインはかつての贅沢なデコレーションから現代的なインテリアへと移り、今は戸外へと開かれています。

8 スポーツへの探求(Athletic Pursuits)

次世代エグゼクティブの関心は、かつてのゴルフから究極のスポーツにシフトしていて、そのためには出費を惜しみません。そこには大きなビジネスチャンスがあります。

9 旅のアドバイザー(Trip Advisers)

ハイエンドトラベラーは代理店でなく、ユニークな体験を得るために、コミュニケーション能力が高く、個々のニーズに応えられる深い専門知識を持ったアドバイザーを求めています。今後成功するのは、人間味があってテクノロジーの革新的な使い方を兼ね備えた旅の目利きです。

10 目的地に向かう道中での時間(Higher Flyers)

経験豊富なハイエンドトラベラーにとって、旅は家を発つ瞬間から始まっています。旅の過程=ジャーニーは、目的地と同等に思い出深いものになりつつあります。

■日本の課題は「不動産」と「アドバイザー」

1についてはこの後述べますが、2、3、5、7、8は、日本が物理的に比較的満たしている分野です。課題は6と9。全国でプライベートに所有されている別荘や行政が所有する文化邸宅、企業の迎賓館などを宿泊施設や特別体験の場として開放できれば、ユニークな旅先の幅が広がるでしょう。

特に9の、人間味があり深い知識を持ったデジタル・リテラシーの高い旅のアドバイザーや案内人については、育成と能力に見合った報酬の確立が急務の観光人材の一つと言えるでしょう。事実このようなよいガイドがいる街には、遠方でもハイエンドなトラベラーが訪れています。

■市場が注目する「変容の旅」

このようなトレンドを受け、市場は新たな旅のあり方に注目しています。それが「トランスフォーマティブ・トラベル(Transformative Travel=変容の旅)」(以下TT)です。

雑誌『VOGUE』が組んだ「なぜTTが2017年のトレンドになるのか?」という特集では、TTにシフトしてきた社会状況を以下のように説明しています。

「TTは次の旅の進化形です。これまでのトレンドだった『体験型(Experiential Travel)』と似ていますが、そこからもう一歩進んだもの。ラグジュアリートラベラーの旅のモチベーションは、視野の拡大、自己反映、自己啓発、そして自然や文化とより精神的なレベルで親密に対話することにシフトしてきています」というTTコラボレーティブ社のホパート代表の言葉を紹介しています。

その理由として、「今日の文化は、デジタルデバイスとスピードに急かされていて、我々は自分自身から、他者との関係から、そして自然や文化から切り離されてしまっている。そのような状況でこそTTで自分の内面を旅することが必要だ」と主張しています。

■自己実現や自己変容を求めるようになった

またアメリカの観光産業の専門ニュース『スキフト(Skift)』も、「TTの台頭」という記事の中で、TTを2018年のメガトレンドの一つに挙げています。このような自己実現や自己変容への意識のシフトは、世界経済の動きによるものだとしています。

たとえばアップル社は、ハードウェアそのものや効率化という体験を販売しているのでなく、「トレンドに精通した最適で未来志向の生き方への約束を売っている」のだと。また、パタゴニアも服や冒険心を売っているのでなく、「自然環境への情熱と責任に対する精神を売っている」と。

このように、企業の製品づくりも「単なる商品や体験を可能にするものとしてでなく、よりよい自分を表現する不可欠な要素として位置付けている」と言っています。そのような時代背景を受け、人々は自身が精神的、そして感情的により高いレベルで満たされる旅を求めているのです。

ハイエンドトラベラーのモチベーションとなっている「自己実現欲求」をマズローの「欲求五段階」説に当てはめてみると、それは五段階の最上位に当たります。四段階目の「尊厳欲求」が、「他者から認められたい、尊敬されたい」という他人からの評価を意識したものであるのに対し、自己実現欲求はさらにその先の「自分の能力を引き出し、創造的活動がしたい」と思う欲求です。ハイエンドトラベル市場では、自らの人生の目的に影響を与えるような、自分を高める深層体験をすることがより重要になってきているのです。

■7割の人が「物より体験にお金をかける」

それを裏付ける結果が、アメリカンエキスプレス社が2013年に会員向けに行った消費に関する調査にすでに現れています。それによると、72%が「物よりも体験にお金をかける」と回答しています。さらに88%が「家族」や「富」を差し置いて、「旅」をバケツリスト(一生のうちにやってみたいこと)のトップに挙げています。

また、PGF(プルデンシャル ジブラルタ ファイナンシャル)生命が2000人に対して行った『人生の満足度に関する調査2018』(表1)でも、「旅」が“人生を豊かにしてくれる趣味や娯楽・レジャー”のトップに挙がっています。

さらに、夏休みの旅行先について、アメリカンエキスプレス社が旅行会社向けに行った調査では、34%の旅行会社が「クライアントが旅先に溶け込み、現地の人々がするような体験を求めている」と答えています。中でも冒険的なツアーや芸術や文化に根ざした体験が優先順位の上位を占めています。

今年、自身の人生の満足度を向上させたと思う趣味・レジャー(画像=『グローバルエリートが目指すハイエンドトラベル』)

■「この惑星はもっと高い次元の意識を必要としている」

山田 理絵『グローバルエリートが目指すハイエンドトラベル 発想と創造を生む新しい旅の形』(講談社)

このような自己変容の重要性は、すでに20年前にハーバードビジネスレビューに発表された「経験経済へようこそ(Welcome to the Experience Economy)」という論文で指摘されています。この中で二人の学者が「消費者の五感に訴えるクリエイティブな体験型のサービスが、生き残りの不可欠要素だ」と主張しています。そして人々は、関心や好みだけでサービスを選ぶのではなく、どのように自身の人生、考え方を「変容(Transform)」できるのかを指標に、商品やサービスを購入し始めていると結論づけています。

このように旅行後の自分に変化を起こし、自身を進化させることが、TTが従来の体験型の旅や単なる本物志向の旅とは一線を画しているところだとして、米国のハイエンドトラベル会社であるワイルドランド・アドベンチャーズ社(Wildland Adventures)のクテイ社長は次のように語ります。「この惑星はもっと高い次元の意識を必要としている。トランスフォーマティブ・トラベルがそれを我々に与えてくれる」と。

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山田 理絵(やまだ・りえ)
ラグジュアリー・コンサルタント
Urban Cabin Instituteパートナー。WabiYoga(R)主宰。早稲田大学第一文学部に在学中に、ドイツ公共放送(ZDF)でリポーターを務め、1991年にフジテレビジョンに入社。報道記者、社長室で国際プロジェクトや役員の海外の賓客との社交をアシストする。1996年に、Urban Cabin Institute創設者の山田長光氏と結婚。現在はUrban Cabin Instituteにてハイエンドトラベラーやビジネスリーダー、次世代教育、WabiYogaRインストラクター養成プログラムの講師を務める。また、ハイエンドな価値の創造のためのコンサルティングを行っている。宗徧(へん)流十一世家元夫人・山田宗里でもある。

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(ラグジュアリー・コンサルタント 山田 理絵)

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