お客様を笑顔にできるなら、何をやってもいい
プレジデントオンライン / 2019年8月29日 11時15分
■おまえ、ボンボンやろが
トヨタカローラ福岡(カローラ福岡)は、1937(昭和12)年に、祖父・金子道雄が創業し、主に自動車販売やバス・タクシーなど運送事業を中心に発展した「昭和グループ」の一員だ。その後、父・宜嗣(現・名誉相談役)を経て、現在は私が社長を務めている。福岡市内をはじめ、北九州、筑後の各エリアにカローラ店など33店舗を展開している。
地元では少しばかり名の知れた企業だったため、小さい頃は「おまえ、ボンボンやろが」などと、友人たちにからかわれたものだ。だから若い頃は、金子という姓があまり好きではなかった。一日も早く、自分の力で生きていきたいとの思いから東京に出て、トラックの運転手として働いていた。それはとても、充実した日々だった。
ところが、仕事に向かう途中に大事故に遭い、頸椎複雑圧迫骨折という重症を負い、人生が急転した。治療・リハビリを経て社会復帰するまでには、2年半もの時間を要した。絶望の中でもがいていたとき、支えてくれたのは、両親、兄弟、妻だった。とくに妻には感謝している。
私はこのとき初めて「人間は、一人では生きていけない」と実感した。支えてくれる家族に報いたいという思いから帰省し、グループで経営していた石油会社、ホテルを経て、カローラ福岡に入社したのである。
■あなたのファンをつくってほしい
近年、「若者のクルマ離れ」が話題となっているが、私たち販売店も変化を実感している。昔は、春先になると「大学入学祝いにクルマをプレゼントする」と、親子が一緒に来店する姿が見られたが、今ではほとんど見かけることはない。若者が、車に魅力を感じなくなったり、興味持つことが少なくなったりしているのだろう。私たちがもっと車に興味を持ってもらえる取り組みを行わなければならないと感じている。
こうした背景から、2016年に「ファンづくり事業部」を設立した。この部署のさまざまな取り組みを通して、より多くの人にカローラ福岡を認知してもらい、車に興味を持ってもらいたい。さらには、カローラ福岡のファンを増やしていきたい。
「ファンづくり事業部」には、スポーツや音楽、モータースポーツなどの活動があるが、カローラ福岡の社員なら誰でも「仕事」として参加できる。業務時間を使って活動し、活動にかかる費用は会社が負担する。例えば、「野球部」は試合に出るだけでなく、中学校の野球部にコーチとして参加している。「KEY⑩Music」は、オーディションを通して、福岡の才能あるアーティストたちを発掘し、独創性あふれる彼らの楽曲を1枚のCDに収めてリリースするプロジェクトを行っている。また、音楽フェスに協賛し、ブースを設け車両展示なども行っている。
モータースポーツは、ドライバーだけでなくエンジニア、サポートメンバーも含め大人数で全国の大会に参加している。活動費用もかかるため、最初は誰にも理解してもらえなかったが、「地域貢献になる」「ファン獲得につながる」と説明すると、しだいに理解者が増えていった。
参加する社員たちには「まず、あなた自身が全力で楽しんで、その姿を見てもらうことで、あなたのファンをたくさんつくってください。そしてお客様と一緒に楽しんでください」と伝えている。彼らのファンが店を訪ね、車の楽しさを感じてもらい、カローラ福岡のファンになってもらえたら、「ファンづくり事業部」の試みは成功というわけだ。今まで当社を知らなかった人たちにまず知ってもらうためにも、多種多様な活動をこれからも続けていきたい。
■お客様を笑顔にできるなら、何をやってもいい
私は、社員だけでなくパート、アルバイト、再雇用の方も含め、すべての従業員が自分の得意なことを活かして輝ける場をつくり、やりがいを持って働ける会社を目指している。そして、「今日も一日楽しかった。明日も頑張るぞ!」と言える環境をつくらなければいけないと考えている。
カローラ福岡では、「縁する人を笑顔にする」という想いを掲げて、日々活動している。私は、日ごろからスタッフに「経営理念を遵守していれば、何をやってもいい」と話している。そのため、何か新しい試みを始めようというときには、「これをやることで、誰が笑顔になるのか?」がモノサシになる。反対に「誰も笑顔にならないことは、どんなに長く続いている習慣でもやめよう」となる。まず、私たちが笑顔になり、どうすれば笑顔が広がるかを真剣に考え、活動していくことが大事だと考え、伝えている。
店づくりに関しては店長に裁量を与え、任せているが、スタッフたちが「お客様が笑顔になる取り組み」を企画立案して、実際に行っている事例が非常に増えてきた。スタッフが「たくさんのお客様に喜んでいただきました」と笑顔で、私に報告してくることもある。「縁する人を笑顔にする」という想いがスタッフに浸透し、活動できていると実感でき、うれしく思う。このような日ごろの活動も、カローラ福岡のファンづくりにつながっていくはずだ。
■うれしかった、インターンの行動
先日、うれしい場面に出会った。ある店舗でのイベントを訪ねたときのことだ。お客様の車が到着しているのに、社員たちはみな、他のお客様の応対をしており、対応することができなかった。そのとき、インターンシップ中の学生がお客様の元へ走って行った……。彼女は、まだ学生だから、お客様に対して何をすればいいのかはよくわからないはずだが、店の雰囲気や先輩たちの「お客様をお待たせしてはいけない」という普段の行動や言動を見聞きしていたようだ。だから、何をすればいいかわからなくても、とにかく走った。
先輩たちの素晴らしい姿が頻繁に見られるという「環境」があるから、若い人たちにとっても、素晴らしい行動が「当たり前」になっていく。
営業スタッフに限らず、うまく結果を出せない若手社員がいたとしたら、それは「環境」のせいなのだと思うようになった。私は常日ごろ、「うちの会社には、必要でない人なんて1人もいない」と言っている。人の性格は変えられない、でも、考え方は変えられる。考え方にいい影響を与えられるのはほかでもない、私も含めた先輩社員たちだ。
■素晴らしい上司とは、どんな人か
店長をはじめとした先輩社員の役割は大きい。若手社員が生き生きとと働ける環境、お客様に喜んでいただけるスタッフの素晴らしい行動を引き出す環境をつくるのが、まさに先輩社員の仕事だからだ。
店長が変わると、店が変わる、ということはよく起こる。一例を挙げるなら、最初に店の整理整頓が進んで、きれいになる。それからスタッフが元気になって、お客様が店に来てくださるようになる。私は、こういった変化にまったく驚かない。繰り返しになるが、人の考え方、行動は環境で決まるからだ。元気になった店では、スタッフが行動的になる。みなが次のステップへチャレンジをするようになる。行動して、失敗して、その先にやっと成功がある。もちろん、チャレンジしたスタッフを高く評価しなければならない。でなければ、仕事が面白くならない。
チャレンジには大いに結構だが、営業の場面では、現場スタッフが判断を間違うと、お客様とのトラブルに発展しかねない。難しい局面で、どう考えればよいか——。つまり「正しいことは何か」を若手社員に伝えるのもまた、先輩社員の役目だ。当社が大切にしている想い、経営理念をきちんと教えてやってほしい。そうでなければ、経験の少ない若手社員が安心して働けない。
すさまじい変化の中で、ますます厳しい戦いが待っている自動車業界だが、社員たちが生き生きと働ける環境をさらに整えていけるよう、現場とコミュニケーションを取りながら、いろいろな策を打っていくつもりだ。
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トヨタカローラ福岡 代表取締役社長
1970年、福岡県生まれ。99年、トヨタカローラ福岡入社。2014年より現職。
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(トヨタカローラ福岡 代表取締役社長 金子 護 構成=梅澤聡)
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