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「#採用やめよう」で働き手の給与は増えるのか

プレジデントオンライン / 2019年9月2日 15時15分

ランサーズ・秋好陽介社長 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

クラウドソーシング大手・ランサーズが今年6月、「#採用やめよう」というキャンペーンを展開し、注目を集めた。このキャンペーンは企業向けのメッセージだが、一方で、働き手にとってフリーランスとして働くことにはどんなメリットがあるのか。秋好陽介社長に聞いた——。

■「年収2000万円」のフリーランスもぜんぜんいる

——「採用をやめよう」という刺激的なキャンペーンを始めたのは、どうしてですか。

ランサーズのユーザーであるフリーランスには、社員以上に優秀な方がたくさんいます。たとえば「年収2000万円」といった方もぜんぜんいる。そういう方たちが社会のメインではなく、サブとなってしまうことに、以前から違和感をもっていました。

そして今年5月、フリーランスのユーザーの結婚式に招かれて、あらためて衝撃を受けました。その方は、ライターや講師としてランサーズでもトップクラスで稼いでいるすごいフリーランスなのですが、結婚式にはフリーランスの仲間や、発注者の上場企業の幹部社員など、面識の有無にかかわらず、いろいろな属性の人が出席していたのです。

普通の結婚式なら大学の同級生や会社の上司、同僚が集まるのだと思いますが、まったく違う。集まっている人たちの熱気がすごかった。上場企業の方からは「本当にいい人を紹介いただいて、ありがとう」と言われました。

フリーランスも企業も、お互いにハッピーになれる関係性が確かに存在する。もっとこうした関係を広めたいとあらためて思ったのです。

■「正社員を否定するのか」という批判も起きた

——「採用やめよう」というコピーはどこで生まれたのですか。

結婚式に出た後、社内で議論をしました。新しい働き方について、世の中に議論を巻き起こすような広告キャンペーンをしようと、社外からコピーライターも招いて話し合いました。社内からは「もっと丁寧に説明するほうがいいのではないか」という意見もありましたが、最後は「採用やめよう」で意見がまとまりました。

ランサーズの特設サイトより

——確かにコピーは刺激的でないと話題にならないとは思います。しかし「正社員を取るな」とも読めるメッセージを、新卒の面接解禁日となる6月1日に日本経済新聞の全面広告で展開したことで、「正社員を否定するのか」という批判も起きました。批判は想定内だったということですか。

全社集会で広告キャンペーンを説明した際、社員からもさまざまな意見が出ました。「今後ランサーズも正社員をとらないのですか」という質問が出たほどです。正社員をとらないというのは誤解です。私たちは正社員を否定しているわけではありません。

ランサーズでは200人の正社員と800人のフリーランスがいっしょに働いています。私の秘書業務はタイ・バンコクにいるフリーランスにも手伝ってもらっています。かつては執行役レベルのチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)もフリーランスでした。

今後も正社員をもちろん採用しますが、基本的にフリーランスでできることはフリーランスにもお任せするのが、ランサーズが求めている働き方です。そういう働き方にアップデートしたいと考えているのです。

——しかし、いい人材を求めている会社ほど、「いい人ならば正社員として採用しよう」と考えて、熱心に動いているのではないでしょうか。

今回の「採用やめよう」というメッセージのポイントは、「正社員だけで人材を確保するという考え方をやめませんか」というものです。

東京でも地方でも人材確保の視野に入っているのは正社員ばかりです。日本の労働人口は現在6600万人。30年後には4400万人まで減少すると予想されています。一方、有効求人倍率は1.6倍と思うように人を採れない状況が続いています。今後、ますます状況は厳しくなりますし、地方ではなおさらでしょう。

■社員と同じくらい仕事にコミットしてくれるフリーランスがいる

いつまでも正社員で人材確保し、補助的・補完的な仕事はフリーランスやパートといった考え方では立ち行かなくなります。社員と同じくらい優秀で、社員と同じくらい仕事にコミットしてくれるフリーランスがいるのですから、正社員とフリーランスをバランスよく採用した方がハッピーになれるはずです。政府も兼業、副業を増やそうとしている時代です。

撮影=プレジデントオンライン編集部
ランサーズ・秋好陽介社長 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

——いい人材がとれないというならば、幹部社員を年収1000万円で採用しようとしているすしチェーン「くら寿司」のように、待遇をグッと引き上げるという手もあるのではないですか。

求人の内容が労働市場の現状とギャップがあるのかもしれません。そのギャップを埋めるための企業努力はもちろん必要です。フリーランスを安く買いたたける相手として考えているような企業は正社員ばかりかフリーランスからも嫌われます。正社員、フリーランスを対等なパートナーとして人材確保する会社が選ばれる時代にならなければなりません。

新しい働き方を考える時に、社外の人材をもっと本気で活用しないと日本の未来は危うい。米国はフリーランスに重要な仕事を発注するのは当たり前です。日本企業も自社が得意でない仕事は社外人材に任せ、自ら得意な仕事に邁進(まいしん)するようになるべきです。

非正規から抜け出せず、生活が厳しい人もいるが?

——そうなればいいのですが、非正規社員問題のようになりませんか。非正規社員は20年ほど前から増えました。当時は自分に合った働き方を自由に選択できるというメリットが強調されましたが、振り返ってみると、非正規から抜け出せず、厳しい生活を強いられている人が増えました。

フリーランスの報酬は適正な単価でないと持続性はありません。ランサーズでは以前は市場価格がわからず、意図せず低い金額で発注してしまうクライアントもいましたが、現在はクライアントの企業からの依頼内容をAI(人工知能)で分析し、適正単価でマッチングされるような仕組みを取り入れています。その結果、この1、2年は単価に関しても多くのフリーランスの方に満足いただいています。仕事のジャンルも変わってきており、マーケティングやコンサルティングなど付加価値の高い業務が増えています。

ランサーズが実施している「フリーランス実態調査」によると、2015年以降増えてきたフリーランス人口は、18年から19年にかけては約1100万人で横ばいでした。これは新しくフリーランスになる人が増えている一方、正社員になる人も同様に増えているためです。つまり正社員とフリーランスを行ったり来たりする人が増えているのではないかとポジティブに受け止めています。

撮影=プレジデントオンライン編集部
ランサーズ・秋好陽介社長 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

各人が自分らしくやりたいことをやれる選択肢があることが大切です。私は正社員から自己実現のためにフリーランスになることだけでなくて、フリーランスからから正社員になることもいいことだと思っています。

■柔軟な生活ができると満足感をもつ人も多い

——フリーランスと言っても一括(くく)りにできません。正社員で働きながら副業として働いている人や定年や出産でやりたい仕事を余暇にするというフリーランスはそれでいいかもしれません。コンサルタントや弁護士のような高い技能を持ったフリーランスも心配は少ないでしょう。一方、現状ではフリーランスの仕事だけで生きていくというのは大変です。正社員になりたくてもなれないという人も多いはずです。年金・社会保険料の支払いなどに不安をもっていないフリーランスは一握りではないでしょうか。

フリーランスにもいろいろな形があります。実態調査によると、自分で自由に働け、柔軟な生活ができるという満足感を持っている人も多くいます。私自身も大学生だった時に大阪でフリーランスとして働き、「自分が求められている」と実感できました。それは働くことの大きなモチベーションになりました。

もちろん課題もあります。フリーランスは労働時間の多くを経理や税務申告など本業以外に費やしています。ランサーズではそうした煩雑な事務作業をワンコインでサポートする「フリーランス・ベーシックス」というサービスを提供しています。

——事務的なサポートにとどまらず、社会保険や年金に関するサポートも必要ではないでしょうか。いま世界各地で配車サービス大手Uberに対する反対運動が起きています。その訴えは「フリーランサーを労働者として認め、プラットフォーマーが社会保険などを負担すべきだ」というものです。ランサーズの取り組みはいかがでしょうか。

年金については話し合ったことはありませんが、現在保険や教育等の一部のサービスを行っております。社会保険制度についてはランサーズ1社で対応するのは難しいと思います。業界団体などで考えなくてはいけない課題だと思います。

■フリーランスの多くは正社員を望まない人たち

——政府は副業、兼業を増やそうとしています。その際、正社員を前提にした社会保険や年金の制度も含めて変えていく必要があるはずです。正社員を前提にした制度のままフリーランスが増えると、フリーランスという働き方を選んだ人たちが不利益を被る恐れはありませんか。

正社員とフリーランスとを分断した考えではなく、新しい働き方を前提にした新しい制度を作ったほうが良いのではないでしょうか。

フリーランスの多くは正社員を望まずにフリーランスになった人たちだと思います。正社員レベルの福利厚生はなく、その分、責任は生じますが、自由に働ける。そんな働き方を選んだ人たちです。責任と自由のバランスをどのように保つかを議論しなければならないと思います。

政府が推進すべき取り組みとも連携し、その一方でランサーズも草の根の活動として、働き方のアップデートに取り組みたいと思います。

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秋好 陽介(あきよし・ようすけ)
ランサーズ社長
1981年生まれ。大学時代、インターネット関連のベンチャー企業を興す。2005年にニフティに入り、インターネットサービスの企画/開発を担当。仕事の受託者と発注者の立場を経験したことから、個人と法人のマッチングサービスを思い立つ。08年4月に株式会社リート(現・ランサーズ株式会社)を創業。同年12月、「ランサーズ」の提供を開始。19年4月より経済同友会 規制・制度改革委員会 副委員長。

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(ランサーズ社長 秋好 陽介 聞き手・構成=経済ジャーナリスト・安井 孝之)

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