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羽生善治に勝利した棋士の「対局前日の睡眠法」

プレジデントオンライン / 2019年11月2日 11時15分

棋士 中村太地氏

■集中を導くための、オリジナル枕・首タオル・香るハンカチ

早稲田大学在学中には、論文コンクールで政治経済学術院奨学金を受賞。20代で羽生善治九段から王座のタイトルを奪取した期待の棋士・中村太地氏に、対局前夜の睡眠の極意を聞いた。

一瞬の気の迷いが勝負を決する将棋の世界で、睡眠は最重要課題です。よく眠れなかった翌日は明らかに「頭が働いていない」と自覚するほどですから、対局前日は「いかに熟睡できるか」に全神経を注いでいます。

17歳でプロ棋士になる以前は奨励会で修業を積んでいました。当時は今以上に睡眠不足で失敗することが多かったです。緊張や翌日の対局の戦法を考えて眠れなかったりすると、決まって結果が出ませんでしたね。

ロングスリーパーの僕は、昔からショートスリーパーに憧れていました。高校時代も期末試験前に「徹夜で叩き込んだ」と豪語する友人がいて、真似したこともあるんです。ただし、僕がやると必ず失敗していました。記憶したはずのことも出てこないし、思考力も低下している。なにより試験中も眠くて仕方がない。それ以来、睡眠を削って何かをすることは諦めました。

大学時代は棋士生活と両立していたので睡眠時間が4~5時間になる日もありました。そんな日が3日も続くともう駄目ですね。翌日は反動で10時間以上寝てしまう。

そんな数々の失敗を経て、今では自分なりの睡眠パターンが見えてきました。僕の場合、理想の睡眠時間は8時間。結構寝ていますね(笑)。でも羽生善治先生も睡眠は長めに確保されていると聞いたことがありますし、藤井聡太さんも現役高校生ながら数多くの対局をこなし、かつ睡眠はきちんととっているという話です。頭脳仕事こそ睡眠時間を確保すべきなのは、間違いないでしょう。

■競馬騎手の話で「香り」に開眼

とはいえ生活が不規則になりがちな仕事もありますよね。棋士もその1つ。地方での対局も多く、将棋中継の解説をするときは終業が夜中の1時すぎになることもあります。意識的に睡眠スケジュールを立てないと、なし崩し的に就寝時間がズレこんでしまうので、重要な対局の3日前以降は夜遅い仕事を入れないように気をつけています。

中村氏が愛用するオーダメードの枕。3つあるクッション部分は、細かい高さ調整が可能。中の素材も5種類の固さから選べる。

対局前日は基本的に家で対戦相手の戦法を分析しています。ただしPCやケータイを見るのは夜10時まで。その後は風呂に入り、将棋とは関係ない本を読むなどリラックスし、12時には就寝するようにしています。

お酒は好きですが、対局前日は飲みません。飲むと寝つきはいいわりに、確実に夜中に目が覚めてしまうからです。食事は寝る3時間前までに終了。血糖値が一気に上がると頭脳が働かないので、対局のときは食べる順もサラダからにして、3食きちんと食べるように心がけています。

寝具は、日本将棋連盟とコラボしている昭和西川さんから商品を提供してもらってます。タマゴ型フォルムのウレタンフォームが体を自然に支えてくれるマットに、寝返りを打ってもしっかり頭を支えてくれるオーダーメードの枕。おかげで睡眠の質がぐっと高まりました。

問題は地方での対局です。寝具一式を持って移動するわけにはいかず、かといって慣れない環境では寝つきに時間がかかります。解決策として、いつものジャージーと首巻きタオルを持参するようにしています。実は昔から母に「風邪をひかないように首にタオルを巻きなさい」と口癖のようにいわれてきたんです。冬場には喉の乾燥防止になるし、いつものグッズがあれば自宅環境を再現できるのでリラックスできて役に立っています。

最近は香りにも注目しています。以前、競馬騎手の福永祐一さんから、「レース前には必ず柑橘系のアロマを焚いて集中力を高めている」という話をうかがい、僕も対局中に取り入れるようにしました。昼食後の対局は眠気に襲われることもあるので、ハンカチに含ませた柑橘系やローズマリーの香りで、集中力を取り戻すようにしています。ラベンダーなど、副交感神経を優位にする効用がある香りを睡眠時に取り入れられないか、今、思案中です。

■朝の詰め将棋で、その日の調子を確認

僕にとっての落とし穴は、昼寝です。対局前日に自宅で過ごしていて、眠くなってしまう時間にうっかり寝てしまうと、気づくと3時間以上経過していることがあります。そういうときは「勉強なり家事なり、もっと有意義に過ごせたのに!」という罪悪感しか残りません。しかも昼にたっぷり寝てしまった分、夜が不眠気味になってしまう。なので最近は昼寝予防のためカフェで作業するようにしています。人目があるから突っ伏して寝るわけにはいかず、仮にウトウトしても5分ほどならかえってスッキリしますから。

棋士として一番怖いのは自分でも気づかないくらいの眠気、だけど確実に集中力や判断力が鈍っている状態――いわゆる「インペアード・パフォーマンス」です。将棋の手を読めているつもりで読めていない状況は、無自覚なだけに恐ろしい。

そんな状態をチェックするために、朝起きたときに必ず詰め将棋をするようにしています。いつもなら数秒で解ける問題にちょっと時間がかかってしまうときは、コンディションが悪い証拠。うっかりミスが起こらないように気を引き締めて挑むようにしています。

僕は今31歳。これからの課題は、体力向上です。先輩方のお話を聞いても、年齢を重ねると、大局観など向上する能力もある半面、集中力が下がっていくそうです。集中力が落ちて、「もういいや」と指してしまったその一手が、負けにつながります。

集中力だけでなく、記憶力・判断力・持久力は、体力の問題でもあります。長時間、正座するのにも体幹が必要だし、睡眠も体力がなければしっかり眠ることはできません。今後は本格的に運動を取り入れることで、充実した棋士生活を送りたいと思います。

▼中村流 眠りのルール
(1)大事な対局前は、3日前から睡眠スケジュールを調整
(2)地方の泊まりは、グッズ持参で自宅環境を再現
(3)昼寝をしないため、カフェで作業する

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中村 太地(なかむら・たいち)
棋士
1988年、東京都府中市生まれ。2006年、高校在学中にプロ棋士となる。早稲田大学政治経済学部卒業。11年、勝率一位賞。17年には初タイトルとなる王座を獲得。テレビでの将棋解説や将棋イベントなどでも人気を集める。

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(棋士 中村 太地 構成=三浦愛美 撮影=金子山 写真提供=昭和西川)

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