食品添加物よりおそろしいのは「家庭の台所」だ

プレジデントオンライン / 2019年9月28日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarsYu

「できあいの食品は食品添加物まみれ。だから子供には手作りの料理を食べさせたい」。そんな迷信が母親たちを苦しめている。科学ジャーナリストの松永和紀氏は、「ゆがんだ報道によって食品添加物が過剰に不安視されている。添加物よりも手料理による食中毒のほうがよっぽど危険だ」という――。

■食品添加物よりも「手作り」がこわい場合も

私はこの十数年、多くの生協の依頼を受けて食の安全に関する連載を広報誌に執筆し、勉強会の講師を務めてきました。痛感するのは、料理をして家族の健康を支える女性たちの抱える複雑な思いです。

彼女たちの多くはこう思っています。

母たちがしてきたように本来、料理は手作りすべきでは? けれども、仕事や家事に忙しい現実の中で、加工食品を使わざるを得ない。加工食品には大量の食品添加物が使われ体に悪いと聞くけれど、大丈夫だろうか? 私は、家族にとんでもないことをしているのか?

こうして、罪悪感に苛まれながら日々の生活に追われる女性のなんと多いことか!

科学的なデータは、手作りが必ずしも高い安全性や品質にはつながらないこと、食品添加物を気にするよりも心配すべきことがあることを明確に示しています。罪悪感に苛まれる必要はありません。

たとえば、おにぎり。「素手でにぎらなければ価値がない」とした女性誌の記事が昨年、世間を賑わせました。「昔からおにぎりは手で握るものだった。手の常在菌が付くから発酵食品となり意味がある」という記事に対して、「おにぎりによる黄色ブドウ球菌食中毒を知らないのか!?」という指摘がSNSで相次ぎました。

黄色ブドウ球菌は、健康な人でものどや鼻の中に持っており、手指の切り傷で増殖しやすい菌です。手指の小さな傷を気にせず素手で調理すると、食中毒を引き起こします。黄色ブドウ球菌の食中毒は多くの場合、おう吐や腹痛などの軽い症状で済みます。したがって、食中毒が多発して数十人、数百人と死んでいたような昔は、おにぎりで少々あたってもだれも気にしなかっただけなのです。

こう書くと、「昔は、塩辛い梅干しを入れていたから食中毒を防止できていた」と言い出す人が必ずいますが、それも間違い。梅干しの抗菌効果は、ほんのわずか、それも梅干しのごく近くだけです。結局、「昔はよかった」という郷愁が、「昔は安全だった」という思い込みにつながっています。

■添加物なくしてツナマヨおにぎりなし

現在、報告される食中毒死亡者は年間数人程度。食品工場の衛生管理のレベルは著しく向上しています。作業者は手袋をして調理加工を行っており、おにぎりであれば、機械が成形します。

中の具材は、ツナマヨネーズなど品質が変わりやすいものが人気のため、食品添加物も用いて日持ちを向上させています。

添加物がなければ、ツナマヨネーズ入りのおにぎりは、家庭で作ってすぐに食べるしかありません。しかし、添加物のおかげでコンビニエンスストアなどの店頭に一定時間並べられ、私たちは気軽に購入して食べることができます。

■添加物には厳しい安全性審査がある

では、食品添加物の安全性はどのように守られているのでしょうか?

食品添加物に指定されて許可されるには、図表1のような試験で問題がないことが確認されなければなりません。人体実験はできませんので、主に動物を用いて試験をします。動物と人では代謝のメカニズムが異なる部分もあり、それを補うためによく似た化学構造を持つ医薬品や天然物質などの人への影響を調べた研究結果なども考慮します。

日本では、内閣府食品安全委員会がさまざまなデータを集めて詳細な検討を行い、問題ないと判断したものだけが使用を認められます。厚生労働省が、添加物ごとに使い方や使用量、残留する場合の規格基準等を決め、事業者はそれらを守って使用しています。

「添加物は、悪い原材料をごまかすために使われる」というのは、よく聞かれる話です。しかし、添加物の使用量には多くの場合、上限があり、品質をごまかすほどの量は使えません。また、食品の原材料価格がかなり安い一方、添加物はおしなべて高価。添加物は、品質の保持や向上、安全性確保などのために使われるのです。

■食中毒を防ぐ発色剤がゆがんだ報道で誤解されている

ハムやソーセージなど加工肉によく使われる発色剤の亜硝酸塩は、色をよくし肉の臭みを消します。さらに、ボツリヌス菌の増殖抑制効果がある、とされています。ボツリヌス菌は自然界に普通にいる菌ですが、非常に強い毒素を作り食べると死亡する場合があります。

ハムやソーセージなどの加工肉は、国際がん研究機関(IARC)からグループ1(人に発がん性がある)に分類されているため、「発色剤の亜硝酸塩によりがんになる」という情報が雑誌などにしばしば掲載されます。しかし、これも間違い。たしかに、欧米での調査研究で、加工肉の摂取量の多い人たちでは大腸がんのリスクが高くなっていますが、日本人の調査では、がんリスクの上昇はみられません。というのも、日本人の加工肉摂取量は、欧米に比べれば非常に少ないのです。

IARCは、加工肉に関する見解をしめすと同時に、牛肉や豚肉、羊の肉など、国際的には「赤肉」と呼ばれる肉についても、グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)に分類しました。これに対して日本の国立がん研究センターは、日本人での調査結果を基に、「大腸がんの発生に関して、日本人の平均的な摂取の範囲であれば赤肉や加工肉がリスクに与える影響は無いか、あっても、小さい」とする見解を示しています。

そもそもIARCは、加工肉と肉、両方のがんにつながる原因として、焼いたり燻製したりするときにできる発がん物質や、肉の消化の際に体内でできる物質などを挙げています。添加物については一言も触れていません。

しかも、野菜を食べると野菜に含まれる成分の一定量が体内で、亜硝酸塩と同じ成分になり、その量は発色剤として食べる量よりもはるかに多い、と考えられています。

なのに、日本の雑誌やウェブメディアの多くは、IARCの出した原文を読まず、都合の悪い野菜からの摂取は無視して、「発色剤のせいでがんになる」と報じるのです。これでは、消費者がハム・ソーセージを怖がるようになってしまうのも無理はありません。

■一度下がったイメージはなかなか覆せない

悪名高い“化学調味料”も、情報にゆがめられ誤解されています。

昆布などに多く含まれるアミノ酸の一種、グルタミン酸に、固形化するためナトリウムを結合させたものが、うま味の素の「味の素」として1908年、売り出されました。体の中に入るとグルタミン酸となります。

戦後、NHKが「味の素」を報じる際に商品名を出せないことから、「化学調味料」と名付けました。当時は、化学がバラ色のイメージを振りまいていた時代で、味の素も大人気でした。

ところが、1968年、アメリカの医師が、グルタミン酸ナトリウムを大量に食べたことが原因で頭痛や顔のほてりなど生ずる症例があったとして、「中華料理店シンドローム」と名付けて学術誌に報告したのです。

これを契機に、グルタミン酸ナトリウム=化学調味料の評判は一気に下降。動物の腹腔に大量に注射して影響をみるような無理な実験で出た症状も、グルタミン酸ナトリウムは悪い、とする根拠となってしまいました。

その後、多くの実験・研究が行われ、1987年にはFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)が安全だと認め、EUやアメリカ食品医薬品局(FDA)なども同様の判断を示しています。

グルタミン酸ナトリウムの摂取が味覚障害につながっている、という説もありますが、科学的根拠はしめされません。そもそも、人の体重の2%はグルタミン酸であり、トマトやチーズ、それに母乳にも大量に含まれています。なのに、添加物としてのグルタミン酸ナトリウムのみが味覚障害の原因に、というのは、科学的にはあり得ません。

現在では、味の素社だけでなく多くの企業が、グルタミン酸ナトリウムやほかのうま味となる物質を用いて調味料を製造しており、化学調味料ではなく「うま味調味料」と総称しています。加工食品に原材料として用いられた場合、調味料(アミノ酸等)として表示されています。

■化学調味料も無添加も同じ成分

今、問題になっているのは「無添加商法」です。店頭には、保存料無添加、化学調味料無添加などと表示する製品が、数多く並んでいます。

添加物を一般的に使わずに製造する食品で無添加と表示するのは禁じられていますが、実際には横行しています。

また、化学調味料無添加をうたう製品の多くが、食品から抽出した「エキス類」や分解して作った「たんぱく加水分解物」を用いています。これらは、グルタミン酸などうま味調味料と同じ成分を含んでいます。うま味調味料との違いは、糖液などを発酵させて作るか、食品を分解して作るか、という製法です。作り方は違えど、結局は同じものを食べるのに無添加とうたうのは消費者を騙しているのではないか? 個人的には、無添加をうたう企業姿勢に疑問を持たざるを得ません。

消費者庁が設置した「食品添加物表示制度に関する検討会」でも現在、この問題が協議され、「消費者の誤認を招いている」とする指摘が相次いでいます。

■「山パンは添加物まみれ」は大きな誤解

食品業界で有名な話があります。「私が家でパンを焼くと、すぐにカビが生えるのに、ヤマザキのパンはカビが生えない。食品添加物まみれに決まっている」と主張した女性に対して、「手作りパンにカビが生えるのは、あなたの台所が汚いからです」と鈴鹿医療科学大の長村洋一教授が一喝した、というエピソードです。

大企業の食品工場では通常、粘着テープで髪の毛など大きなごみを取ったうえで、風を吹き付ける装置の中に入ってカビの胞子なども吹き飛ばしてから作業するのが一般的だ

家庭の台所では、カビの胞子は飛び放題。シンクや調理台には確実に細菌がいます。この女性の台所が汚いのではなく、どの家庭の台所もどんなに掃除していても、清潔とは言いがたいのです。

一方、食品企業、特に大企業の工場は、作業室内の圧力を上げて、外から菌やカビの胞子が入り込みにくいようにしています。作業者は作業着や帽子、マスク、手袋等を身につけ、風でごみやカビの胞子等を吹き飛ばしてから入室し、作業しています。製造後は、毎日掃除や消毒も怠らず、細菌が残っていないか調べる検査も高い頻度で行っています。

山崎製パンのパンにカビが生えにくいのは、こうした環境で製造し、急速冷却してすぐに包装するためです。このような加工食品の実態が、知られていません。

■添加物は安全性試験に合格したエリート

国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長の畝山智香子さんは断言します。「保存料を気にする人が大変多いのですが、食品のリスクについては食品添加物の保存料より微生物による食中毒のほうが圧倒的にリスクが高いです。適正に使用されている食品添加物が原因で病気になったという報告は近年は全くないのに、微生物による食中毒は毎日のように発生しています」

畝山さんによれば、最近米国で消費者団体が、食品添加物の硝酸や亜硝酸塩の代わりに野菜のすりつぶしを使って加工したハムなどに「硝酸無添加」のような表示をするのは消費者を誤解させるので止めるべきという提言をしています。畝山さんは「添加物は安全性試験に合格した、いわばエリートです。一方、食品と名乗れば試験を受ける必要がありません。食品添加物なら使用量を正確に管理し、有害重金属なども管理されてるので安全に使用できますが、食品である野菜ジュースは硝酸含量が一定ではなく必要でないものも多く含まれるので、品質の上でも安全の上でも食品添加物より劣ります」と説明します。

「もともと不純物の多い岩塩などを利用してきた時代から進歩してできたのが食品添加物。岩塩に含まれる亜硝酸塩がハムなどの発色や食中毒防止に効果があることがわかって、今では亜硝酸塩自体が添加物として用いられています。先達の知恵でもあるのですから、有り難く添加物を使えばいいと思います」

畝山さん自身、子育てしながら働き続けました。加工食品を利用していましたか? 「そもそも『全く加工されていない食品』を食べたければ畑で穫ったものを洗いも運びもせずにその場でそのまま食べないといけませんよ。それはともかく、一番助けられたのは子どものお弁当用の冷凍食品です。凍ったまま入れられるものは保冷効果も期待できますし。災害時の備蓄と同じで、病気や急な仕事などに備えていざというときにすぐ食べられるものを確保しておくと心理的にも余裕ができるし、忙しい人には重要なリスク管理方法だと思います」

■添加物よりも細菌による食中毒の方がこわい

母親たちが神経質になる離乳食も、双方のメリットを考えた方がよい、というのは同じ。たしかに、手作りであれば愛情たっぷりかも。しかし、その代わりに、家庭の台所という“汚い”場所での製造。すぐに食べさせるのであれば、細菌が増殖する時間もなく、まったく問題はありません。しかし、作った後に時間をおいて食べさせるのであれば、話は別。手作りでは、細菌による食中毒リスクは高まります。外出時の携帯用なら私は迷うことなく、市販のレトルトパックやフリーズドライなどの離乳食を勧めます。

最近、加工度の高い「超加工食品は、死亡リスク、がんリスクを上げる」とする研究成果をフランスのグループが発表して、話題になっています。しかし、これは、加工度の高さというよりも、炭酸飲料の摂取や、簡単に食べられるファストフードなど、栄養摂取の偏りによる影響が強いとみられ、「食品添加物のせい」とする主張に対しては、厳しい批判が寄せられています。

手作りには、慣れ親しんだ味や作りたての風味などの良さがあります。一方で、加工食品も理由があって食品添加物が用いられ、メリットも数多くあります。どちらの良さも利用すればよいだけであり、価値はシチュエーションによってまったく変わってきます。どちらが良いか、を語るのは不毛です。加工食品も、罪悪感を持たず、栄養バランスに気をつけながら選べばよいのです。

<参考文献>
・厚労省・食品添加物
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/index.html
・国際がん研究機関(IARC)・赤肉と加工肉の発がん性についてのQ&A
https://www.iarc.fr/wp-content/uploads/2018/07/Monographs-QA_Vol114.pdf
・国立がん研究センター・赤肉・加工肉のがんリスクについて
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2015/1029/index.html
・Buzzfeed News・フェイクニュースと闘う味の素 ニューヨークから世界へ情報発信
https://www.buzzfeed.com/jp/wakimatsunaga/ajinomoto-vs-fakenews
・WHO国際化学物質安全性計画・グルタミン酸塩
http://www.inchem.org/documents/jecfa/jecmono/v22je12.htm
・アメリカ食品医薬品局(FDA)・Questions and Answers on Monosodium glutamate(MSG)
https://www.fda.gov/food/food-additives-petitions/questions-and-answers-monosodium-glutamate-msg
・欧州食品安全機関(EFSA)・EFSA reviews safety of glutamates added to food
https://www.efsa.europa.eu/en/press/news/170712
・消費者庁・食品添加物表示制度に関する検討会https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/other/review_meeting_012/
・Wedge Infinity・“危ない超加工食品”を鵜呑みにしてはいけない?からくりを国立衛研安全情報部長・畝山智香子さんに聞く
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15924

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松永 和紀(まつなが・わき)
科学ジャーナリスト
京都大学大学院農学研究科修士課程修了。毎日新聞社の記者を経て独立。食品の安全性や環境影響等を主な専門領域として、執筆や講演活動などを続けている。主な著書は『効かない健康食品 危ない自然・天然』(光文社新書)、『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同、科学ジャーナリスト賞受賞)など。

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(科学ジャーナリスト 松永 和紀)

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