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インスタとは違うTikTokが流行った3つの理由

プレジデントオンライン / 2019年11月8日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wachiwit

女子中高生の間で大流行した動画アプリ「TikTok」。どこがウケたのか。電通メディアイノベーションラボ主任研究員の天野彬氏は、「SNSが広まるカギは、ハードルを下げてシェアを活発化させること。その点、TikTokは誰でも手軽に発信できるので、投稿が活性化しやすい」という――。

※本稿は、天野彬『SNS変遷史』(イースト新書)の一部を再編集したものです。

■15秒間に「楽しい&びっくり」が詰め込まれている

今、新しいシェアの形式をもたらすものとして注目を集めるのが、15秒動画のショートビデオコミュニティ「TikTok」である。

これはByteDance社が提供するスマホアプリで、みんなで短尺の動画を撮ってシェアする場である。

ダンス、お題アクション、グルメなどに加えて、最近ではコメディタッチ・ネタやお役立ち知識講義などにもジャンルは広がってきているが、人気が出る動画に共通するのは、短い尺に「楽しい&びっくり」が詰め込まれていることだ。

日本版は2017年夏にローンチされ、2018年ごろから注目度が一気に高まっていった。特に、流行にさとく、クラスで人気者キャラの若者から火がつき、マイナビティーンズによる「2018年10代女子が選ぶトレンドランキング」では、流行ったモノ部門の第二位に「TikTok」、流行ったコト部門でも第六位に「トリコダンス」、第七位に「全力○○」と、TikTok関連のキーワードがランクインした。

女子中高生向けのマーケティング支援などを手がけるAMFが発表した「JC・JK流行語大賞2018」でも、アプリ部門第一位はTikTokで、コトバ部門の第四位でもTikToker(TikTok内で発信するインフルエンサー)が選ばれていた。

2018年の4~6月期には、iOSアプリダウンロード数で世界一にもなったことから、欧米のメディアでも高い注目度で採り上げられている。TikTokでユーザーがシェアしたくなる理由として、筆者は3つ挙げたい。

■「お題系」の動画があることで手軽に発信ができる

①手軽であること

ハードルを下げてユーザーからのシェアを活発化することが、UGM(“User Generated Media”の略、一般の人が発信者となるメディア)においての重要事項だった。例えばプロがつくったコンテンツを流通させるプラットフォームも数多く存在するが、TikTokはユーザーの投稿が場の盛り上がりを支えるという意味で、特にその傾向が重要になっている。

もともとTikTokといえば、音に合わせて踊るダンス系の動画が多いという印象があったが、いまはそれだけにとどまらず、「お題系」の動画も増えている。

例えば、「全力○○」――○○には笑顔、変顔などが入る――、「言いなり選手権」など、音楽内の指示にしたがっていろいろなことをやっていくと動画ができてしまうというものだ。ユーザー側がどれだけ手軽に発信できるかを突き詰めるとこのような形になる――という視点からもとらえられる。

若いユーザーがダンス動画をたくさんシェアする場として、「上手さ」よりも「かわいさ」が重視されていた点を想起しておきたい。ビジュアルコミュニケーションのトレンドは、ダンスのクオリティとは異なる軸での自己表現が求められているという論点にも接合される。

さらにさかのぼるならば、ニコニコ動画の時代、そこでは「踊ってみた」カルチャーが花開き、『涼宮ハルヒの憂鬱』のハルヒダンスをみんなガチで踊っていた。ここでは、その作品への愛やハマり具合(コミットメント)を表現するという意味で、高いハードルを越えていくことが求められていた。その意味で、同じ「ダンス」であってもそこではまったく異なるものが掛け金になっている。

■音とエフェクトがあればそれなりに上手にまとまる

そういった手軽さの流れに位置づけられるものとして、最近はグルメ系の投稿が増えていることも挙げられる。みんなで店に行くと、1、2年前であれば確実にインスタグラムを立ち上げてインスタ映えを意識した写真を撮っていたところが、現在はTikTokで動画を撮るというケースも増えてきた。

写真よりも動画で映えることを意識した伸びるチーズ系のメニューなど、動きのあるフードを出す店が増えているのも、こうした動きに即応した最近のトレンドだ。現に、中国本国ではTikTokは食べログのように使われている側面もあり、日本でもそのような使われ方が広まっていくことが想定される。食は多くのユーザーにとって共通の話題なので、シェアを考えるうえで大事な切り口だ。

インスタで映える写真を撮ることに比べると、写真の角度など気にしなくても音とエフェクトがあればそれなりに上手にまとまるという意味で、TikTokで発信することのハードルの低さをとらえることもできる。

映像に占める音の重要性は大きい。それをアプリが手助けしてくれることによって情報量は増し、目の前の体験もリッチなものとしてシェアすることができる。

それゆえ、ユーザーにとっての有限な「動画を観る時間」が、この両者で争奪されるような構図も次第に鮮明化するだろう。

■「かわいい自分を残したい」というニーズに応えた

②盛れること

TikTokはユーザー全体で見ると若者だけに限らず、幅広い世代がダウンロードし、見て楽しむといった形で広がりつつあるが、投稿者に限れば若い女の子が目立つ。その視点から、よく使われる理由として、「盛れること」を挙げることができる。

TikTokで動画を撮影しようとすると、「美顔モード」があって、肌が綺麗になるフィルターを選択することができる。また、顔にはめるためのスタンプも各種用意されており、SNOWやインスタグラムとも近いニュアンスで自分を盛って楽しむことができる。

インスタグラムが「映える」ツールだとすれば、TikTokは「盛れる」ツールなのだ。こうした特性を活用した企業キャンペーンも増えており、例えば2018年のハロウィンシーズンにはあるお菓子メーカーがハロウィンに合わせた音楽やエフェクトを準備し、ユーザーにシェアしてメーカーのブランド名を広めてもらう施策を実施した。

ビデオを撮りたくなる瞬間には、面白いコンテンツをつくりたいということに加えて、かわいい自分を残したいというニーズが隠れているはずだという、うまい着眼点で、その設計通り情報が拡散されていた。

■ハッシュタグで広告コンテンツに登場できる

③プチ承認欲求の充足

SNSと承認欲求は切り離せない。その問題を考えるためには、ユーザー自身の心理はもちろんのこと、情報アーキテクチャがいかに設計されているのかについても目を凝らす必要がある。

TikTokを立ち上げると、「フォロー中」と「おすすめ」の二つのタブが表示され、もともとフォローしている人の投稿を見るか、きっと気に入るであろうとユーザーの好みの動画を学習したAIによるレコメンドに沿った動画を見るか、選ぶことができる。後者の「おすすめ」としてレコメンドされると、多くの人にリーチすることができるというわけだ。

さらにTikTok内には、「#広告で有名になりたい」や「#地上波にでたい」「#おすすめのりたい」というハッシュタグがある。このハッシュタグに参加することで、TikTok内の広告コンテンツに登場できる(=有名になれる)ため、フックアップされたいというユーザーの承認欲求に働きかける効果がある。

そうしたユーザー数の増加にあわせて、TikTokを活用した企業プロモーションも非常に盛んになっているし、TikTokで人気が出た楽曲はヒットチャートにも影響を与えることから、音楽レーベルも着目して連携を進めている。最近ではTikTok内で、音楽を志す若者を発掘するオーディションも実施している。

筆者は、承認欲求というほど大仰ではない、このようなSNS上のちょっとした承認欲求を「プチ承認欲求」と呼んでいるが、まさにこのプチ承認欲求がTikTok利用を促す重要な要素に他ならない。そしてその際、コンテンツとの出会いを機械学習(AI)の力を借りて精緻化している点も重要な特性である。

■模倣こそがTikTokの面白さといえる

多くのSNSのユーザー離脱の理由として、他のユーザーからのリアクションが足りないことが挙げられる――フォロワーもつかず、いいね数も伸びず、張り合いがなくてやめてしまう。

みんなに見られている感覚が得られなければ、ユーザーはシェアするモチベーションを失ってしまうものだ。そのボトルネックに対して、フォロワーが多くなくても、自分のシェアした動画が多くの人に触れられるようテクノロジーの力で支援がなされるのだ。

TikTokに関連するキャンペーンプランニングを数多く担当する電通のCMプランナー/コピーライターである明円卓氏は、最近ではTikTokの中でテレビ由来のネタを模倣して遊ぶというシーンが増えているということを指摘していた。

そこには、テレビドラマやテレビ広告のシーンも含まれていて、特徴的な仕草ややりとりをユーザーが再現しているという。今後は、「TikTokで見たことあるやつの元ネタCMだ!」「元ネタ番組だ!」という認知動線も増えていくだろう。

そう、大胆に言ってしまえば、TikTokの最大のメディア論的な面白さは、「短尺」でも「音が付く」ところでもなく、ユーザーが模倣し合うという点にあると筆者は考える。さらに言えば、それがガイダンスに沿って動いていくことで自動的に生み出されることにある。アーキテクチャによって生み出される新しい映像体験の質がもたらされているのだ。

■TikTokで模倣が広がる仕組み

哲学者のジル・ドゥルーズは1980年代に『シネマ1*運動イメージ』『シネマ2*時間イメージ』という大著を発表したが、それは映画という映像の表現形態への驚きに駆動されていた。

天野彬『SNS変遷史』(イースト新書)

単に映像を撮って記録することとシネマとの間の意味論的な差異に彼は注目したわけだが、筆者は、いまTikTokで展開されている動画群は、(大げさに言えば)そこで論じられているシネマ的なインパクトを持つものではないかとさえ感じている。

音楽に合わせ指示に沿うことで、ユーザーのアクションが動画としてアウトプットされる。そして、それがハッシュタグなどの形で、みんながサンプリングする人気曲として模倣的な動画を広げていく。

これは、かつてない映像表現のあり方だ。「#○○チャレンジ」のような施策を通じて、TikTok側もそうしたあり方を後押ししている。

真似すること、模倣すること。これは生活者の情報行動の特性の一つでもある。かつてフランスの社会学者のロジェ・カイヨワは、「遊び」を「競争」「偶然」「模擬」「眩暈」という四つに分類したが、ここでの「模倣(模擬)」もまた、人々の遊びを構成する要素の主要な一つであった。

ユーザーはTikTokで「遊んでいる」わけで、これはいわゆる「大人のロジック」――ビジネス的な営利目的思考――とは異なる原理である。TikTokという場、および若者が好むメディア一般を理解するために、無視してはならない重要な面だと最後に指摘しておきたい。

その視点から見なければわからないものがあるし、ロジェ・カイヨワによれば、文化とは遊びのうえに成立するものに他ならないのだ。

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天野 彬(あまの・あきら)
電通メディアイノベーションラボ 主任研究員
1986年生まれ。一橋大学社会学部卒業、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。若年層のメディア行動やSNSの動向に関する研究、執筆、コンサルティングを専門とする。著書に『シェアしたがる心理 SNSの情報環境を読み解く7つの視点』(宣伝会議)『SNS変遷史~「いいね!」でつながる社会のゆくえ』(イースト新書)、共著に『情報メディア白書』(2016~2019年版、ダイヤモンド社)がある。ツイッター:@akira_amano

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(電通メディアイノベーションラボ 主任研究員 天野 彬)

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