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ソフトバンク・ショックと世界経済の恐い関係

プレジデントオンライン / 2019年11月18日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hapabapa

大赤字で本当に反省しているのか

11月6日、ソフトバンクグループ(ソフトバンク)が2019年7~9月期の連結決算を発表した。それによると、最終損益は約7002億円の赤字だった。これは、四半期ベースで過去最大の赤字だ。グループを率いる孫氏は「大赤字で反省している」と述べた。

巨額の損失が発生した背景の一つには、ソフトバンクがかなり急いで成長を追求してきたことがある。同社は、世界有数のIT先端企業を糾合することを目指している。ただ、成長にこだわるあまり、やや高値での株式取得が重なったことに加えて管理体制が甘くなってしまった。そうした事態は、いってみれば“急成長に対するコスト”といえなくもない。

また、ここへきて世界経済に関する不確定要素が増えていることもマイナスの要因として働いた。世界全体で非製造業は安定を保っているものの、米国の保護主義的な政策の影響もあり、サプライチェーンの分断などで製造業の景況感が不安定化している。

米中貿易摩擦の影響などを考えると、当面、短期間で投資家のリスク許容度が大きく高まる展開は期待しづらい。そうした状況下、ソフトバンクが成長エンジンのパワーを維持できるか注目される。

経営は「ボロボロ」

足許、ソフトバンクの経営は厳しい状況に直面している。7~9月期の業績は、孫氏自ら『ボロボロ』と評するほどだ。とくに、ソフトバンクが重視してきた事業戦略が、想定された成果を実現できなかった事態は深刻といわざるを得ない。

ソフトバンクは、未上場のスタートアップ企業に積極的に投資を行い、新規の株式公開(IPO)を実現して株を売却し、利得を手に入れることで成長(企業価値の増大)を目指してきた。具体的に、ソフトバンクは、創業者である孫正義氏の企業家(創業者)の「資質を見極める力=眼力」によって買収や新興企業への出資を重ね、業績拡大を実現した。

さらなる成長を目指し、ソフトバンクは10兆円規模の“ビジョン・ファンド”を設定し、IT先端企業やスタートアップ企業への出資などを積極的に進めてきた。

積極的な投資より大切なこと

やや気になることは、ソフトバンクが成長を追求するあまり、企業家の資質や新興企業の体制を冷静に見極めることを軽視してしまった部分があると考えられることだ。ソフトバンクは米オフィスシェア大手ウィーワークを運営するウィーカンパニーのコーポレート・ガバナンス上の問題点を十分に把握できなかった。

ウィーカンパニーのIPOが延期され、資金繰り懸念が高まり、企業価値が毀損された。この結果、7~9月期、ソフトバンクはウィーカンパニーへの投資から約82億ドル(約8900億円)の損失(評価引き下げ)を被った。

ソフトバンクの投資戦略は、利害関係者の不安も高めている。当初、ソフトバンクはサウジアラビア政府などから出資を募り、第2号のビジョン・ファンドの運営を開始しようとしたが、ウィーカンパニーのIPO延期などを受け、サウジアラビアは第2号ファンドへの出資を決められていないとみられる。

第2号ファンドはソフトバンクの資金を用いて投資を進めている。足許、ウィーカンパニーがリストラを進めていることなどを考えると、ソフトバンクの積極的な投資スタンスは冷静に見直されるべき時を迎えているといえるだろう。

ソフトバンクと世界経済の相関関係

ソフトバンクの業績悪化につながった背景の一つとして、「世界経済の基礎的な条件=ファンダメンタルズ」が大きく変化してきたことは見逃せない。

2017年5月にソフトバンクが第1号のビジョン・ファンドを設定した時、世界経済は比較的堅調に推移していた。とくに、米国のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)をはじめ、世界のIT先端企業の成長期待は高かった。

半導体業界の一部では、人工知能(AI)の開発と実用化に向けて、高性能のICチップやDRAMなどのメモリー需要が飛躍的に高まるという強い期待もあったほど、先行きへの楽観が多かった。

その中で、ソフトバンクはAIが人間の知性を超越する時代を見据え、先端テクノロジーなどに強みを持つ企業への投資を急速に拡大した。その考えは、ITを駆使して石油依存度を低下させようとしたサウジアラビア政府などの共感を得ることもできた。

同年12月に米トランプ政権が1.5兆ドル規模の減税を実施し、世界経済への楽観が追加的に高まったことも、ソフトバンクへの期待を高めただろう。

熱気に巻き込まれ、冷静さを欠いた

しかし、2018年に入ると、中国経済の減速が鮮明化した。共産党政権による景気刺激策にもかかわらず中国経済が持ち直す兆しは見られない。中国経済は成長の限界を迎えたと見られる。

また、米国は中国に制裁関税を賦課し、米中貿易摩擦が世界経済を下押ししはじめた。世界的にサプライチェーンが寸断され、製造業の景況感が急速に悪化した。世界的なデータセンター向けの投資減少なども重なり、世界の半導体市況も悪化した。

7~9月期の業績を見る限り、ソフトバンクには、一時の“熱気”に巻きこまれ、変化を冷静に見極めることが難しかった部分があったとみられる。そのため、冷静に投資先企業のビジネスモデルや創業者の資質を冷静に見極めるよりも、積極的な投資拡大を優先してしまったようだ。

それは、決算会見にて孫氏がウィーカンパニーへの出資が「高すぎた」と反省の弁を述べたことから確認できる。

■景気が一段と減速する可能性も

当面、ソフトバンクの業績がどうなるかは不透明の部分が残る。現在、個人消費を中心とする米国経済の落ち着きが、世界経済を支えている。今すぐに世界経済が大きく落ち込む可能性は低い。世界的に株価も高値圏を維持している。アリババをはじめとするソフトバンク保有株式の評価額は約28兆円にまで上昇している。

ただ、世界経済の先行きは楽観できない。米中の貿易摩擦にはIT先端分野での覇権争いや中国の産業補助金など、短期間での解決が難しい分野も含まれる。米国政府内には、米国企業などによる対中投資を制限すべきとの意見もあるようだ。米中間の制裁・報復関税がどうなるかも見通しづらい。

景気循環の観点から見ても、米国では企業の設備投資が鈍化している。景気が一段と減速する可能性は軽視すべきではない。中国では生産・投資・消費が低迷し、さらに景気が落ち込む恐れもある。当面、ソフトバンクを取り囲む事業環境の不確実性は高まりやすい。

一方、長い目で考えるとソフトバンクの成長期待が高まる展開もあるだろう。世界全体でAIが活用される分野は増えるだろう。企業や家庭など様々な経済活動の場において、スマートスピーカーやAIを搭載した機器が使われ、“IoT(モノのインターネット化)”に関する取り組みも加速すると期待されている。

不透明要素が残る今後の業績見通し

このように考えると、ソフトバンクが傘下および投資先企業の成長を取り込むには相応の時間がかかるだろう。それまで、ソフトバンクは安定的に収益を獲得し、事業や経済環境の変化といったリスクへの抵抗力をつけなければならない。

そのために、ソフトバンクは収益基盤の整った企業との経営統合を重視しはじめたようだ。ヤフーを運営する傘下のZホールディングスが、無料通信アプリ大手のLINEと経営統合に関して協議しているのはその表れといえる。

現時点で、そうした取り組みの実現を含め、ソフトバンクの収益にどのような変化があるかを予想することは容易ではない。同時に、ソフトバンクはスタートアップ企業などへの投資を重視する姿勢を崩していない。ソフトバンクの業績がどうなるか、不透明な部分は多いと考えられる。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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