通信キャリア社員33歳の「月5万円副業」に密着
プレジデントオンライン / 2019年12月14日 11時15分
■「日本酒大好き素人」の目線で
少し前まで「隠れてこっそりと」やるものだった副業が、ふつうの会社員でも「届け出て堂々と」やる仕事に変わってきた。1人で取り組む例も多く、「いずれ本業に」を目指す人もいれば、「人生のバランス」と思う人もいる。
以前なら何かの強みを活かしたい場合でも、頼れるつてが少なかったが、インターネットが基本インフラとなった現在、支援する環境も整ってきた。
「ストアカ」という、スキルシェアを掲げたネットサービスがある。「個人対個人が対面形式で気軽に教える・学べる」ができ、運営するストリートアカデミーによれば、登録先生数は2万3000人以上、掲載講座数は3万5000件以上、登録生徒数は36万人以上だという。
2019年10月4日、東京都内でストアカの「先生」による講座が開かれた。この日の参加者は15人(女性10人・男性5人)。プロジェクターに投影された資料の冒頭には「日本酒の基礎を楽しく学び、自分で選べるようになろう!」と掲げてあった。
講師は原田裕一さん(33歳)。大手通信キャリアの会社員だ。山形県出身で千葉大学工学部卒業。新卒で入社後に秋田市に配属となり3年間は秋田勤務。仙台の支社を経て、2017年4月から東京本社勤務となった。
「秋田で暮らすようになり『日本酒はこんなにうまいのか』と関心を持ち、以来、個人店を中心に飲み歩きました。東京に戻り、日本酒の魅力を人に伝えたいと思ったのです」
講座開催まで、自分で飲む、銘柄を覚える、知らないことはネットで調べる――を繰り返した。
「利き酒達人を目指すのではなく、『日本酒大好き素人』の目線を大切にしたい。参加者にも『勉強になる』より『楽しい』と思われ、笑顔で帰ってほしいのです」(原田さん)
講座を受講して気づいたことがある。原田さんの「横から目線」だ。一般にセミナー講師は立ったまま話すことが多い。立ち位置も、講師に向き合う参加者と対峙する形が多いだろう。
今回は違った。原田さんは参加者と同じ列に加わり、座ったまま話をし続けた。先生が話すというより、「飲み会で、飲食にくわしい同僚が説明してくれる」ようなスタイル。講座開始当初は立ったまま・対峙型だったが、途中で現在のスタイルに変えたという。
それもあって、20代から40代が大半の参加者は、興味津々で耳を傾け、日本酒の試飲時はラベルを確認しながら飲み、笑顔になる。どの講座も1人での参加が多いという。
ところで、この日の収支を勝手に計算させてもらうと、売上高は参加費2980円が15人分で4万4700円。ストアカの手数料(基本は20%)が最大8940円、試飲用の日本酒が1本1500円として5本で7500円、会場のレンタル代が3000円とすると、少なくとも2万5000円強が原田さんの取り分となる。
この調子で月2回開催できれば、月収5万円となる計算だ。
■起業相談は50代が中心に
副業として起業を選ぶ人も少なくない。小規模ビジネス向けのレンタルオフィス「アントレサロン」の運営で知られ、中高年の起業支援などを行う銀座セカンドライフの代表取締役・片桐実央さん(38歳)は、サラリーマンの起業事情をこう語る。
「私が起業支援を始めた08年頃は退職後の60代の相談者が多かったのですが、現在は50代が中心で40代後半の方もいます。当社の事業の追い風となったのが13年に施行された改正高年齢者雇用安定法です。希望者全員を65歳まで雇うことを企業に義務づけましたが、『早めに第二の生き方を考えたい』と思う人が増えたのです」
片桐さんは新卒で花王に入社後、大和証券SMBCに転職し、27歳の若さで起業した。大企業で培った実務経験に加え、行政書士とファイナンシャルプランナーの資格も持ち、「事業計画書作成」といった実践的なアドバイスも行う。現在の売上高は約7億円。『「シニア起業」で成功する人・しない人』などの著書もある。
「シニアの方はカタイ事業を始める人が多く、『ゆる起業』も目立ちます。早期に事業を拡大するのではなく、やりがいを持って楽しめる事業追求型です。総じて、成功するタイプは軌道修正が柔軟な人です。たとえば大手企業の元研究者は、当初『高齢者向けの移動支援サービス』を手がけたが売り上げが伸びません。そこで『中高生向けのプログラミング教室の運営』に切り替え、売り上げも拡大しました。20年度からプログラミング教育が小学校で必修化されるというタイミングもあり、この事業のほうが本人の持ち味も生かせたようです」(片桐さん)
■まずは全員「さんづけ」で若手にも接する
特に中高年男性は、現職・元職に関係なく「社名や肩書」を引きずる人が多い。自分の立ち位置、人生のステージの変化を認めたくないのだろう。以前よりは減ったが、「アイツは年下(元部下)だから」とお互いが中年以降になっても、先輩風を吹かせるタイプがいる。この姿勢では、第二の人生やセカンドキャリアの充実はむずかしい。
大切なのは「イコールパートナーシップ」の精神だろう。具体的には、まずは全員「さんづけ」で若手にも接すること。筆者はプレジデント誌13年の新年号で「40歳を過ぎたら“後輩モテ”を心がけましょう」と提案した。手前味噌で恐縮だが、重要性は強まっていると思う。
【心得】先生然とするのではなく「横から目線」で
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経済ジャーナリスト
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト 高井 尚之 撮影=永井 浩)
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