49歳で有働由美子が居心地いいNHKを辞めた訳
プレジデントオンライン / 2020年1月8日 11時15分
■成長するため自分を追い込む
気がつけばフリーになってから1年半がたちました。なんだか不思議な感じがします。というのも、私は若いころからずっと、「自分はたとえ定年を迎えても、いられる限りはNHKにいるんじゃないか」と、当たり前のように考えていたからです。
NHKで働くのはとても快適でした。とりわけある程度のキャリアを重ねてからは、自分の意見は通りやすくなるし、周囲は気心の知れたスタッフばかりになるし、とても居心地がよかったというのが本音です。辞める理由なんて見つかりませんでした。
ただ、40代も半ばを過ぎると、組織の中でこの先自分がどうなるのかがある程度見えてくるのも事実です。そのころから常に心に引っかかっていることがありました。
《遠からず、現場を離れて管理職になる日が来る》
それが組織人の宿命だと頭ではわかっていても、いざ内示が出たときに、まだアナウンサーとしてやりたいことが残っていたら……。「仕方がない」とおとなしく受け入れられるほど、私は欲を捨てきれていませんでした。
だとしたら、自分は現場でアナウンサーを続けたいと訴えるのか。
もしかすると、そういう希望も口にしてみれば通ったかもしれません。でも、そのせいで後輩たちが活躍の場を得られず、割を食うような形になったらどうしよう。ベテランの私が若い世代の芽を摘むようなことをしていいのだろうか……。
一方で、仮に気が済むまで現場にいることができたとしても、結局は、これまでの「貯金」を使って楽にこなせるようなやり方を繰り返すだけなんじゃないか。そして、このままではもう成長できないかもしれないという不安もありました。
《キャリアを終える前に、もう1度自分の新たな可能性を切り開きたい》
ある時期から、そんな思いが頭をもたげてきました。「新たな可能性」と言えば聞こえはいいのですが、実現のためには泥くさい努力が必要です。あえて強い言葉を使えば、それは自分を「追い込む」ことです。
しかし、居心地のいいNHKにいたままでは自分を追い込むことはできません。だから「独立するしかない」。それが逡巡した末の結論でした。
なぜ、そんなことができたのかと自問自答することがあります。とくに独立志向が強かったわけではない私が、そんな勇気を奮えたのはなぜなのか。
行きついたのは、30代後半にアメリカ・ニューヨークで直面した悪戦苦闘の記憶です。あのころ経験した「追い込まれる」感覚。それがいま必要だと、50歳を目前にした私は痛烈に感じていたのです。
■トラックに当たりケガでもすれば
2007年。私はNHKのアメリカ総局特派員としてニューヨーク勤務を命じられました。ついに憧れの海外勤務! そんな浮かれた気分は渡米後すぐに吹っ飛びます。
まず言葉が通じない。英語は日本で十分勉強してきたつもりでしたが、仕事で使えるレベルにはまったく達していませんでした。他の特派員は帰国子女など在外経験が豊富な人が多く、日本の学校教育しか受けていない私だけが「蚊帳の外」の状態です。
また、それまでの仕事のやり方がまるで通用しませんでした。日本では場の空気を読んで、皆の総意となりそうな言葉を選べばよかったけれど、ニューヨークではささいなことでも「私はこう思う」と、自分オリジナルの意見を言わないと相手にされないし、取材の仲間にも入れてもらえません。
そのうえ、これまで悩みや愚痴を聞いてくれた人も近くにはいない。どこにも逃げ場がないのです。生まれて初めて味わう絶望的な孤独の前に、私は茫然と立ちすくんでいました。
トラックにぶつかってケガでもすれば、みんなに同情されながら体よく日本に帰れるんじゃないか。そんなことまで本気で考えていたくらいですから、精神的にはかなり追い詰められていたと思います。体は正直です、生まれて初めて円形脱毛症になりました。
その代わり、言葉が通じないからこそできる深い取材もあることや、嫌がられても話を聞き続けることで、最後には相手のためにもなる場合があると知ったり、周りが全員反対しても自分が正しいと思ったことをやり続けるタフなハートが身に付いたり、それまでの自分にはなかった多くの貴重な武器を手に入れることができました。
■自立した強い「個」のつながり
それまでのやり方や常識が通用しない環境に置かれると、自分の等身大の実力がわかるし、必要な能力も見えてきます。「仕事に行き詰まったら思い切って海外にひとりで1、2年行ってきたら?」。以前はそういうアドバイスをいっさい信じていなかったんですけど、いまは相談されたら私も同じことを言うと思います。
フリーになって、私はNHKという組織にどれだけ守られていたかということが痛いほどわかりました。それまでも自分の番組は自分が背負っているんだという覚悟でやってはいましたが、いまはその10倍以上の責任と覚悟が自分の背中に乗っているといっても過言ではありません。
また、NHKと民放では演出の仕方や視聴者の受け取り方などに「違いがある」ということは覚悟していましたが、その違いは想像以上でした。私の感覚で言えば、剣道とフェンシングくらい離れています。NHK時代のスキルでなんとかなるだろうという甘い考えはすぐに吹き飛び、日本テレビ系の「news zero」は文字どおりゼロからのスタートになりました。
番組を持たせてもらって1年。溺れないように必死に手足をバタバタ動かしていただけですが、それでも振り返ると、仕事面だけでなく人間的に相当成長できた気がします。
たとえば、「うまくいかないのは会社のせい」といった自分の中の甘えはなくなりました。また、相手が自分に何かしてくれることを期待しないままに「つながる」ということが、うまくできるようになったのも最近のことです。
つながりや絆を維持するのは、それほど簡単なことではありません。夫婦だから、友人だからこれくらいのことをしてくれるのは当然だろうと思っていると、それが返ってこなければマイナスの感情に襲われます。逆に、相手の期待に応えられなければ自己嫌悪に陥ります。だったら最初から多くを期待しなければいいのです。
一人一人が自立した強い「個」となり、決してもたれ合うのではなく、緩やかにつながり合いながら、必要なら互いに救いの手を差し伸べる。仕事でもプライベートでも同じです。少し上から目線で恐縮ですけれど、私たちの世代はそういう「孤独」に慣れ、精神的に自立していく時期を迎えているのではないかと思います。そしてその先に、本当の意味での「居心地のよさ」が待っているような気がします。
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フリーアナウンサー
1969年、鹿児島県生まれ。兵庫県および大阪府で育つ。府立北野高校、神戸女学院大学卒業。91年、NHK入局。ニューヨーク特派員を経て2010年から「あさイチ」キャスター。18年に退職し、現在は日本テレビ系「news zero」のキャスターなどとして活躍中。
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(フリーアナウンサー 有働 由美子 構成=山口雅之 撮影=市来朋久)
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