どうしてこうなった「世界の歴史的珍兵器」列伝
プレジデントオンライン / 2019年12月19日 11時15分
※本稿は、世界兵器史研究会『ざんねんな兵器図鑑』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■撃つ前に首を鍛えないと気絶する銃
第一次世界大戦ではさまざまな近代兵器が発明されましたが、なかには「ヘルメット銃」なる珍兵器もありました。この銃は、文字通りヘルメットと銃が合体してしまったヘンテコ兵器です。
1910年代にアメリカで設計されたこのヘルメットの特徴は、ヘルメットの上の部分に銃が付いていることで、かぶった人の目線に合うように照準器も付けられています。撃ち方は簡単で、ヘルメットから伸びる細いチューブを口に含み、息を吹くだけ。するとチューブから空気が送られ、自動的に弾が発射される仕組みになっています。
このヘルメットを使えば、目標を正確に撃ち抜くことができます。頭を向けて目標を見ることが、そのまま銃の狙いを定めたことになるからです。しかし、そこには致命的な欠点がありました。銃を撃ったときの衝撃がダイレクトに首に伝わり、間違いなく首を痛めることになるのです。だから、実用化はされませんでした。
■武器がイラストだったハリボテ戦車
戦車の開発は、第一次世界大戦で起こった塹壕戦からでした。強力な塹壕を突破するために、各国はこぞって戦車を開発しようとします。1915年にフランスで開発されたフロト・ラフリーは、そんな最初期の戦車の1つです。
この戦車は全長7メートル、高さ2.3メートルで、とにかく壁のように大きく細長いのが特徴。計画では前と後ろに機関銃4門を搭載し、さらに左右それぞれに大砲2門、機関銃6門を載せたとても強い戦車になるはずでした。
しかし、実はこの戦車、あまりに開発を急いだので、武器を載せるのが間に合いませんでした。テスト走行でお披露目されたフロト・ラフリーは、左右に載せるはずだった大砲と機関銃を、実物に近い「絵」でごまかしてしまったのです。なので、実際に載っているのは車体前後の機関銃だけ。こんなだまし絵みたいな戦車で性能も悪かったので、当然、不採用となりました。
■どこに飛んでいくかわからない爆弾大車輪
パンジャンドラムは、1940年代にイギリスが開発した走る爆弾です。敵のトーチカに突っ込ませて爆破する使い捨て兵器でしたが、完成したのは爆薬を詰めた本体を巨大な車輪で挟んだだけのシロモノ。車輪についたロケットモーターの力で、車輪を回して前進するようになっていました。
さて実験してみると、ロケットの力がバラバラでうまく前進できずに横転したり、それどころか急に向きを変えて味方のいるところに突っ込んだりといっためちゃくちゃな動きをしたため、不採用となりました。この見た目とインパクトから、今日では珍兵器の王様としてよく知られています。
■全長600メートルの氷でできた巨大空母
第二次世界大戦中、連合国はドイツの潜水艦Uボートによる攻撃に悩まされており、反撃する方法を探していました。この話を聞きつけたイギリスのジェフリー・N・パイク博士は、とんでもない計画をまとめあげました。氷でできた巨大な航空母艦、通称「氷山空母ハボクック」です。
この空母は全長約600メートルもあり、空母というより人工島に近い性質を持っています。搭載できる航空機の数も150機と桁違いです。そして材料はというと、ほぼ全て氷の塊。パイク博士は氷と木材を混ぜたコンクリートならぬ「パイクリート」を自作して、船に使おうとしていました。氷はいつか溶けてしまいますが、内部に冷却器を大量に追加することで船の形を保ち、もし敵の攻撃で損傷しても、海水を凍らせてくっつければ修理できるので、「絶対に沈まない」というのがこの空母のウリでした。
早速アメリカ、イギリス、カナダの3ヵ国が協力して計画が始まりましたが、試作してみると運用にものすごいお金がかかることがわかり、計画はたった1年で「凍結されて」しまいました。
■交代制で飛行中に休憩できる戦闘機
B‐29などの戦略爆撃機は、長い距離を飛んで爆撃任務を行います。爆撃機を守る護衛戦闘機のパイロットは、その間ずっと1人で機体を操縦しなければならないため、非常に大変です。こうした事情からアメリカ軍は、パイロットの負担が少なくて済むように、2人交代で操縦できる戦闘機の開発を求めました。その結果、普通の戦闘機を横に2つつなげるという、とてもおかしな形の飛行機が1946年に登場してしまったのです。
F‐82ツインマスタングは、P‐51マスタングという戦闘機の翼同士をつなげた形をしています。コックピットもちゃんと2つあり、どちらか一方のパイロットが休憩中でも、もう片方のパイロットが操縦できるようになっていました。
一見すると合理的な考え方ですが、さすがに2つの機体を直接くっつけるのはうまくいかなかったようで、翼を再設計したりエンジンを調整したりと、普通に造るより余計に手間がかかってしまいました。
■ドイツの鬼才フォークト博士の珍作
普段はあまり意識しませんが、飛行機は左右対称が当たり前。なぜなら、そうしないと機体のバランスが崩れて墜落してしまうからです。しかし、そんな飛行機の常識を超える左右“非対称”機にこだわった設計者がいました。その人物はドイツのリヒャルト・フォークト博士。彼が考えた飛行機で最も有名なのがBV141です。
BV141はエンジンとコックピットが別々に分かれたヘンテコな形をしています。これは「見晴らしのよい偵察機を造る」という考え方から生まれたもので、確かにこの形ならエンジン部分が邪魔にならず、とてもよい視界が得られます。問題はその性能ですが、実際に飛ばすと思いのほか安定しており、軽やかに飛ぶ姿は関係者を驚かせました。
結局BV141は採用されませんでしたが、フォークト博士はこの経験から、斬新すぎる形の飛行機をどんどん設計していくようになります。そのなかからほんの一部をご紹介しましょう。
■なぜそんなに左右対照がイヤなのか
次にご紹介する飛行機はBV P.111というもので、前と後ろのパーツが左右にずれてしまっています。飛行機を真ん中で真っ二つに切ってしまったら、こんな形になるのでしょう。性能についてはよくわかっていませんが、果たしてこの飛行機は本当に飛ぶことができたのでしょうか。それすら疑ってしまうほどヘンテコな形をしています。
最後に、フォークト博士が考えた珍飛行機のなかで、最もヘンテコなものを紹介します。BV P.163は、一見するとコックピットがどこにも付いていません。ではどこにあるのかというと、なんと、主翼の両端。こんなヘンなところにコックピットを付けて、パイロットはちゃんと飛行機を動かせるのでしょうか。主翼が左右に広がっているのでコックピットも2つあり、左側が操縦担当で、右側は機関銃担当になっていました。こんな飛行機を本当に飛ばそうとしていたら、パイロットだってたまったものではなかったでしょう。
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ジャーナリスト
1960年生まれ。雑誌編集者を経て独立、安全保障関係の書籍等100作品以上を企画。近作に『航空自衛隊写真集SCRAMBLE!』『精強なる日本艦隊』(講談社)、『自衛隊最新装備』(学研プラス)、『国防男子』『国防女子』(集英社)、『航空中央音楽隊55周年アルバム』『ニコニココレクション陸上自衛隊中央音楽隊』(ユニバーサルミュージック)。ファーイーストプレス代表。
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(ジャーナリスト 伊藤 明弘)
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