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トランプ氏は北朝鮮の挑発に耐える精神を持て

プレジデントオンライン / 2019年12月18日 18時15分

ドナルド・トランプ米大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(韓国・板門店、2019年6月30日) - 写真=AFP/時事通信フォト

■「クリスマスプレゼントに何を選ぶかは、アメリカ次第」

12月に入って北朝鮮がアメリカを揺さぶり、挑発をエスカレートさせている。

一方的に交渉期限を「年末」と設定し、12月3日には北朝鮮の外務省高官が「クリスマスプレゼントに何を選ぶかは、アメリカの決心次第だ」との談話を発表した。

7日と13日には北西部の東倉里(トンチャンリ)のミサイル実験場で「重大な実験」を行い、朝鮮人民軍の朴正天(パク・チョンチョン)総参謀長が翌14日、「アメリカの核の脅威を確実に制圧するためのさらなる戦略兵器の開発に適用されることになる」との談話を発表した。

核抑止力の強化が目的だとの言い分だが、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、国際社会から批判されている自国の核・ミサイルの開発をどう考えているのだろうか。

問題の重大な実験は、アメリカ本土を標的にできる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の改良に向けたエンジン燃焼実験だった可能性が高い。これこそ非核化に逆行した問題である。しかも今年5月以降、短距離弾道ミサイルや大型のロケット砲、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を何発も発射している。

北朝鮮が「年末までに熟考するよう求める」と交渉の決裂を宣言したのは、10月5日にスウェーデンの首都ストックホルムで開かれた米朝実務者協議の場だった。この後から挑発と揺さぶりが続いている。

■「瀬戸際外交」と批判される北朝鮮のやり方

沙鴎一歩の憶測だが、金正恩氏は一方的に交渉の期限を区切ってミサイルを発射し、重大な実験を繰り返すことなどによって軍事的に緊張感を高め、それによってアメリカのトランプ大統領から制裁解除などの譲歩を引き出そうと考えているのだろう。

これこそが「瀬戸際外交」と批判される北朝鮮のやり方である。

トランプ大統領は昨年4月のICBM発射実験の中止表明を大きな成果としている。トランプ氏としては米下院で大統領弾劾訴追の手続きが進む逆風も吹くなかで、来年11月の大統領選を有利にするために、北朝鮮対策でさらなる成果を求めたいところだ。

そうかといって金正恩氏の挑発をこのまま放っておくわけにもいかない。トランプ氏は牽制球を投げ、金正恩氏に対抗姿勢を示している。

たとえば12月8日にはツイッターに「敵対的な行動に出れば、金正恩はすべてを失いかねないだろう。彼は大統領選に干渉したいとは思っていないはずだ」と投稿した。

■ポイントは12月下旬の「朝鮮労働党中央委員会総会」

トランプ氏は軍事行動も怠らない。12月に入って米軍は、無人偵察機グローバルホークや弾道ミサイル観測機「RC-135S」コブラボールを朝鮮半島周辺に投入した。B-52戦略爆撃機も日本の近くを飛行させるなどして北朝鮮を警告している。

12月下旬には、朝鮮労働党中央委員会総会が開かれる。重大なことを決定するといわれるこの総会で、金正恩氏は核・ミサイル開発をどう議題にするのか。そこを見極める必要がある。年末から年明けにかけてが、ひとつの山場である。

12月17日付の読売新聞の社説はこう書き出す。

「北朝鮮が非核化協議で米国の譲歩を引き出すため、軍事的緊張を高める動きを見せている。日米など関係国は挑発への警戒を怠らず、冷静に対処しなければならない」

要は北朝鮮の挑発に乗るなということだろう。

しかし沙鴎一歩はこう考える。挑発に乗った振りをしてあの不気味な北朝鮮をうまく操るべきだと。剣術で言うところの「肉を切らせて骨を断つ」だ。

ディール(取り引き)の成果ばかりを重視する、思考形態が割と単純なトランプ氏にこの高等テクニックができるかは疑問だ。だが、いまはトランプ氏に期待するしかない。

■北朝鮮はアメリカから制裁解除を引き出そうと考えている

読売社説は北朝鮮の動きをこう分析する。

「北朝鮮は、非核化協議の期限を年末までとし、米国に新たな提案を行うよう執拗に求めている。今回の実験は、米国が要求に応じなければ、核兵器の開発を再開するという揺さぶりだろう」
「今月下旬には、朝鮮労働党の中央委員会総会が開かれる。過去にも対米政策などで重大な決定が下されており、注意が必要だ」

北朝鮮はアメリカから制裁解除を引き出そうと考えている。揺さぶりに左右されないよう、アメリカは北朝鮮情勢の正確な把握に努めなければいけない。

そして読売社説はトランプ氏をこう批判する。

「トランプ米大統領は以前、短距離ミサイルの発射を容認する発言を重ねていた。今月上旬に、『敵対的な行動に出れば、すべてを失いかねない』と、ようやく警告を発した。北朝鮮に対する認識の甘さを自覚すべきだ」

■トランプ氏の対北朝鮮外交は、個人的な友好関係に依存している

トランプ氏が北朝鮮に対し、短距離ミサイルの発射を容認したのは、大陸間弾道ミサイルに気を取られ、潜水艦発射弾道ミサイルの開発が進んでいることを理解していなかったからだ。アメリカ本土近くまで潜水艦で侵入し、専用のミサイルで核攻撃する技術など、北朝鮮にはないと高を括(くく)っていたのである。

「トランプ氏の対北朝鮮外交は、金正恩朝鮮労働党委員長との個人的な友好関係に依存しており、あやうさがつきまとう。北朝鮮の完全な非核化を達成するには、粘り強い実務者協議が欠かせない」

「あやうさがつきまとう」と批判するところなど、読売社説もトランプ氏を信用していないのだ。

さらに読売社説は日本の安倍政権に対しても「ICBMに加え、日本を射程に入れる北朝鮮の中距離ミサイルも廃棄対象に含めるよう、日本は米国に働きかけねばなるまい」と要望する。当然のことである。

■短距離ミサイルを問題視しなかったのは失態だった

次に産経新聞の社説(主張、12月17日付)。見出しは「北朝鮮の挑発 『攻め』の交渉で押し戻せ」である。

「追求すべきは、北朝鮮の核・弾道ミサイルの廃棄である。挑発抑止や交渉継続のため、贈り物を差し出すことなど論外である」と書いた後、産経社説もトランプ氏を批判する。
「トランプ米大統領は、北朝鮮の核実験、ICBM発射中止を首脳外交の成果として挙げる。問題なのは、これを守ろうと正恩氏に無用の配慮をしてきたことだ」
「日本への脅威であり、国連安全保障理事会の決議違反である短距離弾道ミサイル発射をトランプ氏が問題視しなかったのは失態ともいえる。この結果、北朝鮮は短距離ミサイル発射を繰り返し、技術を向上させた。核実験、ICBM発射の中止撤回の構えが正恩氏の外交カードとなった」

「無用の配慮」「失態」という指摘は同感だ。トランプ氏はしたたか極まりない金正恩氏に手玉に取られてきた節がある。

■アメリカの国連大使のほうがずっとしっかりしている

そのうえで産経社説は「トランプ氏に求められているのは『攻め』の姿勢ではないか。北朝鮮の完全な非核化に向け、状況を前に進めることである」と主張する。これも正論である。

核を搭載したミサイルがアメリカ本土に届かなければ問題ないという考え方は、自国第一主義そのものである。自分の国さえ安全であればいいという論理は、国際社会では通用しない。同盟国の日本や韓国が短距離ミサイルのリスクに晒されている現実をトランプ氏はどう理解しているのか。

産経社説は続ける。

「その意味では、安保理協議に消極的だった米国が主導し、公開会合を開催したのはよかった。米国連大使が、短距離弾道ミサイルも『安保理決議違反』と断じ、さらなる挑発には『安保理が行動を起こす』と表明した」
「新たな決議違反があれば安保理として一致して非難の声を上げ、制裁強化の準備に入る。その意思表示と受け止めたい」

大統領選ばかりを気にするトランプ氏に比べ、アメリカの国連大使のほうがずっとしっかりしている。トランプ氏はこの大使の発言を耳に刻み込んでほしい。

■「ただし、過剰な配慮はあってはならない」と産経社説

最後に産経社説はこう訴える。

「米朝交渉の完全な決裂は双方が望むまい。『柔軟に対応する準備がある』(米国連大使)と協議復帰を促す言葉も必要だろう」

「柔軟に対応する」とは、北朝鮮にいつも強硬な産経社説にしては珍しい言葉である。そう思って読み進めると、産経社説はこう適度な配慮を求める。

「ただし、過剰な配慮はあってはならない。安保理で予定されていた北朝鮮の人権状況に関する会合は、米国の意向でキャンセルされた。日本人拉致の非道を世界に知らしめる貴重な機会が、米朝交渉の駆け引きで奪われたとすれば、容認しがたい」

かつて北朝鮮による日本人拉致事件をスクープした産経としては、米朝交渉の駆け引きの在り方を厳しくアメリカに問いたいのだろう。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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