フィンランドで34歳女性首相が誕生した理由
プレジデントオンライン / 2019年12月20日 9時15分
■閣僚19人のうち、女性が12人
国際連合の持続可能開発ソリューションネットワークが毎年発表する『世界幸福度報告(World Happiness Report)』の幸福度ランキングで2018年、19年と2年連続でトップを飾ったフィンランドから、驚きのニュースが飛び込んできました。同国の新たな首相に、サンナ・マーリンという弱冠34歳の女性が就任したというのです。しかも「若い女性」は彼女だけではありません。マーリン政権は5つの少数政党からなる連立政権ですが、マーリンが所属する社会民主党以外の4つの党の党首はいずれも女性で、しかもそのうち3人はマーリンと同じく30歳代前半の若さです。閣僚は全部で19人ですが、その内訳は男性7人、女性12人。年代別に見ると、30歳代が4人、40歳代が7人、50歳代が6人で、最年長が61歳となっています。平均年齢は47歳です。
■日本の女性閣僚は20人中3名のみ
ちなみに今年の9月に発足した第4次安倍再改造内閣の首相・閣僚合わせて20人の内閣発足時の平均年齢は61.6歳。安倍首相は65歳で、70歳代の閣僚は、79歳の麻生太郎副総理・財務大臣をはじめ6名。最年少の小泉進次郎環境大臣は38歳でした。女性の閣僚は高市早苗総務大臣と橋本聖子五輪、そして就任からひと月半ほどで辞任した前任者を受けて就任した森まさこ法務大臣の、わずか3人です。
■フィンランドの高齢化率が世界4位なのに
年齢のことを言うと、「日本はお年寄りが多いのだから、仕方ないだろう」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。確かに、日本における高齢化率(65歳以上の高齢者が占める割合)は2018年時点で27.6%と断トツの世界一です。しかし実はフィンランドの高齢化率は21.7%と、日本、イタリア、ポルトガルに次ぐ世界第4位の高さなのです。
こういった話をすると「いや、そもそも年齢や性別にこだわっているのがおかしい」という声も、よく聞こえてきます。もちろん、それはその通りです。けれども、男女の人口がほぼ等しく、国民の平均年齢が47~48歳である日本において、国民の代表たる政治家の性別・年齢構成がこれほど偏っているのを見ると、年齢や性別にこだわっているのは、むしろ日本ではないのですか、と言いたくなってしまうわけです。
■40歳以下の国会議員比率ランキング
さて、日本の女性議員の割合の低さとその理由については、本コラムの「なぜ日本の女性議員率は世界最低レベルか」ですでに示していますのでそちらをご覧いただくとして、今回は年齢にフォーカスしてみます。【図表1】は、OECD加盟国における40歳以下の国会議員の割合のランキングを示したものです。トップは同じ北欧諸国のノルウェーに譲っていますが、フィンランドは僅差の2位で36%。かたや日本は12.7%で、34カ国中の28番目です。
このランキングで日本の順位が低いのは、初めから何となく想像していましたが、ランキングを見て、その日本よりもアメリカ(11.5%、第32位)やフランス(7.6%、第33位)の方が低いというのは、少し意外でした。アメリカは高齢化率が先進諸国の中でも低く、その意味で比較的若い国ですし、フランスは39歳で大統領になったマクロン大統領の印象が強かったからです。とはいえ、今のアメリカ大統領や次の大統領選挙で候補者に上がる人々の顔ぶれを見れば、納得できるところではあります。
■自民党の「昇進システム」は当たり前なのか
もちろん、年齢が若ければいいというものではないでしょう。私の大学のゼミの学生たちとこのことについて議論した時にも、「正直なところ、若い女性のリーダーでは頼りないと感ずるところもある」という意見が、同じ女性の学生から聞かれました。
ただし「若いからこそ、過去の経験に頼らず、新しい発想を生み出すこともある」「若者たちが、政治をより身近に感じ、希望を持つことができる」といった声もありました。
前者について思い当たるのは、年功序列を基本とした自由民主党の「昇進システム」です。現在の第4次安倍再改造内閣で初入閣した12人のうち、小泉氏以外の11人は、衆議院での当選が5回以上、あるいは参議院での当選が3回以上の、いわゆる「入閣待機組」であり、当選回数が4回の小泉氏の起用は「異例」扱いでした。そして、そのような扱いは政治の世界では当然とばかりに、大手メディアの政治記者たちが記事を書き、テレビに出てくる大学教授や「政治アナリスト」たちが「政治というのは、そういうものなんですよ」とコメントするので、多くの人々が「あー、そんなものなんだ」と受け入れてしまっているのが現状です。
■若くて優秀な政治家がいない理由
けれども、民間企業の世界で「入社から20年経たない社員は、絶対に社長にしない」などというルールを公言すればどうなるでしょうか。結果としてそうなっているならともかく、初めからそんなルールを掲げていては、今後、若くて優秀な社員を獲得するのは不可能でしょう。このことは政治の世界でも変わらないと思います。
フィンランドのマーリン首相は、4年前、彼女が30歳の時の国政選挙で初当選し、今年の選挙での当選が2回目でした。彼女自身も勇気のある素晴らしい人物なのでしょうが、そんな彼女に首相の責務を託すことのできるフィンランドの国会議員、ひいては国民の勇気に、私は素直に拍手を送ります。
■貧しい家庭から首相に
最後にもう1つ、若者の希望ということで述べておきたいことがあります。報道によれば、マーリン氏は貧しい家庭の生まれで、幼くして両親が離婚し、父親はアルコール依存症。15歳の時にパン屋で働き、高校生の時には雑誌配達のアルバイトで生計を支えるという、厳しい少女時代を過ごしました。一家で高校、大学を卒業したのも彼女が初めてだったそうです。そんな彼女が大学、大学院を卒業して政治家になり、34歳で首相になるというストーリーは、ドラマのように痛快です。
これも、家庭の状況にかかわらず、勉強したい人は勉強を続け、能力を伸ばすことができる北欧のシステムのなせる業だと思います。日本も来年度より大学等への高等教育の「無償化」制度が始まりますが、これを出発点として、より多くの若者に希望を与えるシステムが発展していくことを願っています。
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明治大学国際日本学部教授・学部長
1992年東京大学法学部卒。英国ウォーリック大学で博士号(PhD)。97年から10年間、ストックホルム商科大学欧州日本研究所勤務。日本と北欧を中心とした比較社会システムを研究する。
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(明治大学国際日本学部教授・学部長 鈴木 賢志 写真=SPUTNIK/時事通信フォト)
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