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なぜ私は「公益資本主義」のために闘い続けるか

プレジデントオンライン / 2020年2月8日 11時15分

原 丈人氏

■父と祖父から教えられたこと

――原さんが考古学者からベンチャーキャピタリストに転じたのは、留学先のスタンフォード大学で若手起業家と、彼らを支えるベンチャーキャピタルの存在を知ったからだそうですね。

はい。たとえばスティーブ・ジョブズなど大きな事業を成し遂げる若者の背景にはベンチャーキャピタルの存在があります。彼らは資金と経営力を提供し、無から有をつくる製造業そのものです。しかも技術を発掘し事業化するのですから、考古学との共通点を感じ私の天職だと思いました。

――世界的な企業に育った投資先も多いですね。

1つ具体例を挙げれば、サイバーセキュリティー市場で現在世界最大級のフォーティネットという会社があります。スタンフォードで博士号を取ったケン・ジーの考え方が、私がつくったパーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズと呼ぶ開発思想に合致したので創業期に出資し、私も取締役となって大きくした会社です。

しかし技術がいくら良くてもフォーティネットが力を発揮する広帯域通信の時代がなかなか到来せず、米国での事業化には苦戦しましたが、ブロードバンド環境で先行していた韓国へ私がトップセールスに行き必要性を説いて第1号の売り込みに成功しました。こうした地道な努力が花開き、2009年に株式上場を果たしました。同じようなやり方で世界的企業に成長した出資先会社は十数社に上りますが、時代が追い付かず挫折した会社も多くあります。ちなみに、私は売り抜けることを目的としないので投資ではなく「出資」、投資先ではなく「出資先」と呼びます。

■「会社は株主のもの」と洗脳されています

――そんなベンチャーキャピタリストが「公益資本主義」を打ち出したのはなぜですか。

私は1990年代半ば以降、出資会社を次々に上場していったのですが、公開後に株主になったファンド株主が問題でした。短期的に株価を上げて売り抜けるだけが目的で、会社が持つ潜在的な成長力を長期にわたって支えようとしないのです。たとえば将来の研究開発のため内部留保を積んだら、「そんな金があるなら配当に回せ、自社株を買え」という。これでは中長期のイノベーションはできません。このような資本主義は人類社会に害を与えます。彼ら株主資本主義者は、「会社は株主のもの」と洗脳されています。しかし委任状争奪合戦を繰り返して争っても、負けるのはいつも私です。

そんな理不尽な状況の中で、公益資本主義の概念が出来上がってきたのです。株主資本主義は実体経済を金融経済化し、世界を崩壊させる。利益重視の人にとっても長期的には公益資本主義のほうが大きな利益を得られるのだとはっきり認識してもらうには、資本主義の基幹制度を変えるしかないと思い、00年からは、それまで依頼があっても辞退していた米国や日本、国連などのいろんな公職をうけることにし、公益資本主義の世界的な実現を目指し始めました。

――公益資本主義の定義とは?

公益とは「私たちや私たちの子孫の経済的および精神的な豊かさ」のことを指します。そして会社は社会の公器であって、事業を通じて社会に貢献すべきものです。「社会に貢献」とは、社員、顧客、仕入れ先、地域社会、株主、地球といったすべての「社中」に、会社が生み出した付加価値を分配することです。その分配は持続的に行われなければならず、それを可能にする経営の中長期視点、新事業に挑戦する企業家精神が必要です。

この積み重ねの結果、公益を増進することができます。すると関わる人たちがすべて報われる社会が出現します。社中分配と中長期視点と企業家精神。それが公益資本主義を実践するうえで必要な原則です。大会社同様に中小企業にとっても大切な考え方です。

――その考えの源流は何でしょう?

小さいころから父や祖父に教えられた精神がもとになっていると思います。父はコクヨの技術部門をゼロからつくり上げた人物です。父がいなければいまでもコクヨは中小企業でしょう。子供のころよく会社の工場に連れていかれました。夏場はたいへん暑く、機械油や汗の臭いが立ち込めます。事故防止の掲示板があり、「死亡」はゼロだけど、「ケガ」がいつも1人とか2人とか書いてある。「お父さんの仕事は何?」と聞いたら、「社員に事故が起きないようにすることだよ」というのです。

ある日、工場に行くととても涼しく、ケガの欄が「ゼロ」になっていました。父は、空調機を会社に初めて導入するにあたり、社長室や重役室でなく、真っ先に工場に入れたのです。「会社のために現場で働いてくれる人たちを優先すべき。事故が減れば社員が喜び生産効率も上がる」と考えたそうです。

一方、祖父は富山から大阪に丁稚奉公に出て、明治末にコクヨを創業した人です。祖父は常にコクヨ一社だけでなく社会全体を気にかけていました。「競合相手の会社をつぶすような寡占はいけない、それぞれ持ち味を生かし共存共栄することが大切だ」という信念の持ち主でした。こうして子供のころから公益資本主義を学びました。

■トヨタ自動車は公益資本主義の会社だ

――日本の経済界にも公益資本主義の考え方が浸透してきています。

そう思います。長期的な経営戦略で知られる東レの日覺昭廣社長は、随所で公益資本主義の重要性に言及しています。関西経済連合会(関経連)や中部経済連合会、九州経済連合会などが機関決定した「四半期開示の義務付けを廃止すべき」といった意見は公益資本主義そのものですし、関経連の松本正義会長も「私は社会全体の利益を考える公益資本主義に賛成だ」と公言されている。トヨタ自動車の豊田章男社長にも「トヨタ自動車は公益資本主義の会社だ」という発言があります。日本を代表する企業・団体にこうした動きがあるうえ、上場企業の創業者や若手起業家、歴史の長い同族企業経営者など賛同者は多いと思います。

――資本主義を公益資本主義の方向へ変えていくのは日本の責務だと述べていますね。

年々その気持ちが強くなっています。

いま地球上でグローバル企業の力が途方もなく大きくなっています。世界の国の歳入と会社の収入(売上高)を大きい順に国と会社を交ぜて並べると、半世紀前は上位100位の中に企業は3つしか入りませんでしたが、いまは70が企業です。国家以上の影響力を持つグローバル企業群が「会社は株主のもの」という思想で株主利益だけを追求すれば、格差はますます広がり、世界が歪むのは明らかです。株主資本主義の「勝者総取り」の考えは一神教社会の競争思想に根付いており、かつての帝国主義、植民地支配に通じます。

まずは国内で公益資本主義の理念を活用した政策で勤労所得を倍増することから始めたいと思います。そして寿命を全うする最期のときまで、すべての国民が元気で生きることができる世界最初の独立国家にしたいと思います。さらにわれわれ日本人が、公益資本主義を世界中に広め、教育を受けた健康な中間層を地球上のすべての国々でつくる。そんな流れを起こそうではありませんか。

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原 丈人(はら・じょうじ)
1952年、大阪生まれ、慶應義塾大学法学部卒。財務省参与、国連政府間機関特命全権大使、ザンビア共和国大統領顧問、米共和党ビジネスアドバイザリーボード名誉共同議長など国内外で公職を歴任。2013年から日本の内閣府参与。

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(ジャーナリスト 山崎 博史、原 丈人 撮影=永井 浩)

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