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伝説のコンサルが「目標と実績がズレるからいい」と語った真意

プレジデントオンライン / 2020年2月4日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NicoElNino

マスメディアに登場することは一切なかった、知る人ぞ知る伝説のコンサルタントがいた。5000社を超える企業を指導し、多くの倒産寸前の企業を再建した、一倉定氏だ。真剣に激しく経営者を叱り飛ばす姿から、「社長の教祖」「炎のコンサルタント」との異名を持った。そんな一倉氏は「社長の仕事」として、なにを最重要視していたのか――。

※本稿は、作間信司『一倉定の社長学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■社長の仕事は「魔法の書」を作ることだ

社長にとって最も重要な仕事である「経営計画書」の作成。それを作ったら、「経営計画書」の発表会を行うべきだと一倉定(いちくらさだむ)先生は常におっしゃっていた。全社員がホテルで一堂に会し、今期の社長方針、経営目標を1時間30分から2時間かけて社長自身が一人で説明し、社員に協力をもとめるのだ、と。

ゲストには、自社の顧問税理士、また社労士の先生方や、何といってもお取引をいただいている金融機関の支店長、担当者、なかには本店役員・頭取までお招きし、この一年間の実行を誓うのである。

先日お伺いした大田区の会社では、39回目の経営計画発表会を9年前に社長就任されたご長男さんが取り仕切り、創業会長は弊会の感謝の言葉を述べられ、懇親会にはOB社員の方々も応援に駆けつけておられた。

これからの季節は3月決算、4月新年度の会社の発表会が土曜、日曜に集中するので北海道から九州まで出張続きの日々である。

経営計画書のことを一倉先生は「魔法の書」と呼んでおり、わが社をいい会社にするのにこれ以上の方法を知らないと言い切るほど重要視し、経営指導に入った会社では必ず作成させ発表させたのである。確かに5年、10年と続けるうちに業績も向上し、社員の意識も実力も見違えるほどに伸びている。

■「未来の設計図」には8つの目標を書く

新規に迎える一年間の売上利益目標を経営計画に書くのは当然であるが、いったい「一倉式の経営計画書」の中味はどうなっているのか?

経営計画は社長が描く「わが社の未来の設計図」であり、トップダウンで激烈な企業競争を勝ち抜いていくため、また生き残りをかけた必達の目標を掲げている。

一倉先生の指導先の多くは中堅・中小企業であり、今日、東証一部上場になった企業も数多くあるが、当初は皆オーナー自らが筆を執り一言一句書き綴った計画からスタートしている。

なぜか? それは数字の表記、発表だけでは、社長の意思伝達を正しく行うことができず、社員が都合よく理解し、思い思いに行動してしまうからである。

目標設定と経営方針書として5~60ページ(A4版)で明文化させ、毎月の月次会議で、また朝礼で読み合わせを繰り返し徹底し、浸透を図るのである。なかには100ページを超える大作もある。

では社長として何を目標設定するのか? 大きくは8つ。

(1)市場の地位(シェア、業界内のランク)
(2)利益(代表的には社員一人当り経常利益額)
(3)革新(高収益を実現する事業構造への変革)
(4)生産性(量的な生産性と質的な生産性の両面から)
(5)人的資源(要員計画)
(6)物的資源(安定供給の体勢と固定資産、設備投資)
(7)資金(内部留保と短期、長期の資金調達)
(8)社員の処遇

すべてをここで解説する紙面はないが、普通であれば経営目標の一番初めに上がってくる利益目標より、(1)の市場の地位が先に出てくることについて少し述べておこう。

■危険極まりない経営計画を立てる会社

ほとんどの方は「限界生産者」と聞いても何を意味するのかわからないと思う。

「わが社の主製品が業界の中で4番手か5番手ぐらいで関東周辺の主要店舗に陳列され、それなりの取引を継続できて、経常利益も2%くらい出ている」

例えば、上記の会社が昨対比、売上伸長5%の計画を立てていたら?

決して悪い会社ではないが、市場の地位から考えると危険極まりない経営計画となってしまう。

もし、同業製品のヨーロッパのブランド品が日本に上陸してきたらどうなるか? 店舗のバイヤーとしては品揃え的に絶対欲しいと思えば、棚割りは限られているので現扱い商品の一番低いシェアの商品をはずし、新ブランド品を置いてしまう。店頭は活性化しても、わが社の商品は陳列されなくなり、市場から消えてしまい一気にピンチを迎える。

「いや、わが社は消費財ではなく生産財だ。法人取引だから大丈夫だ」、では済まされない。

■「昨対比」で経営計画を作ってはいけない

もし、わが社の主力納入先が大手企業であっても、得意先の「市場の地位」がわが社の未来を決めてしまう。

例えば10年前にコンビニチェーンと取引していて、主納入先が1000店の本部だったとしたら、当時としては中小企業からすれば優良得意先を持っていることになる。当時でもセブン‐イレブンを筆頭に大手は強かったが、今日ほど寡占状態ではなかった。

ところが、市場が満杯になるにつれて上位3社の寡占化が急速に進み、わが社の主力納入先が、もし上位3社のいずれかによってM&Aされてしまったら……。

国内市場でみれば、自動車はT社系が圧倒的になり、ガソリン元売も2強、スーパー、ドラッグ、製鉄、セメント、都市銀行、家電と、本当に多くの業界で再編というキレイな言葉であるが寡占化が進行している。業界内で下位シェアの企業、すなわち「限界生産者」の将来は今どんなに利益が出ていても厳しいものにならざるを得ない。

そこにアマゾンに代表される黒船が世界中から上陸してきたのだから、一倉先生が40年前から警鐘を鳴らし続けている「昨対比の経営計画は絶対ダメだ!」を無視してきた企業はひとたまりもない。

ファーストリテイリングCEOの柳井正氏の口癖は「世界で3位内に入らなければ潰れる」だが、いつの時代も上位3社以内に市場は集約されてしまうのである。

■「長期事業構想書」から逆算して短期計画を立てる

もうひとつ。例えば(3)の革新は、「長期事業構想」という書式一枚にまとめる。

長期事業構想書は、全社員に発表はするが固定的で定量的な長期計画ではなく、「客観情勢の変化と社長のビジョンの発展により、絶えず前向きに修正されなければならない」という注意書きがある通り、自社を高収益の事業構造に作り替えていくための考えを常に書き加えていくものである。

そうして、逆算として○○年後に、わが社をこう革新するために今期の単年度計画(短期計画)を立て実行に移していくのである。

だから、わが社の生き残りを賭けた戦いであり、先に書いた昨対比率での売上利益計画や、ボトムアップで出てきた数字をまとめただけの短期計画では一倉先生のカミナリが落ちる。「社長の職務怠慢、仕事放棄である」と徹底的にやられるのである。

■「目標と実績がズレるからいいんだ」

こう言うと次のような質問も出てくる。

「これだけ変化が激しく、業界外からも突然ライバルが参入してくる時代にあって、長期計画は当たらないし、作る意味自体がないのでは?」
「ウチは中小企業だからシェア自体もよくわからないし、そんな分析ができる社員もいないから……」
「銀行さんを招いて発表した以上、全然達成できなかったらカッコ悪いし、かえって評価が下がるんじゃないの?」

そんな相手に対する一倉先生の答えは、「やりもしないで、やらない理由、言い訳、自分のメンツを守るとは何事だ!!!!」

さらに続けて、「そもそも計画は、特に短期計画は目標を下方修正したり変更して一致させようとすること自体が根本的に間違っている。目標と実績がズレるからいいんだ」と。

「そのズレの原因は、社長の先見力・計画立案の甘さか、実行力・行動力不足かの原因究明を毎月繰り返し考え、手を打ち続け、翌期に目標精度を徐々に上げていけばいい」というのが、それが一倉先生の考えである。

■数字を盛って社員を奮起させるのは怠慢だ

一倉式の「経営計画書」の売上利益計画は、この数字を達成した12か月後、期末のバランスシート計画が事前の目標数値で作成され、セットで発表されるのである。そのためには税金支払い、借入金の返済、設備投資計画とそこから上がる減価償却費、新規の借入、さらに運転資金の増減、在庫の目標数値まで計画を立てるのだ。

作間信司『一倉定の社長学』(プレジデント社)

実際に発表するのは通常1計画であるが、名古屋の優良企業K社の発表会では、好調、横ばい、景気後退の3通りの経営環境下での目標PLと目標BSが計画書にファイルされており、金融機関からの評価は絶大である。

単年度の売上利益計画を相当に盛った数字で作って、全社員にプレッシャーをかける社長が時々いる。聞けば、これくらい大きな目標にしておかないと数字が伸びないからと言われるが、この考え方も一方向からしか経営計画を考えていないこととなってしまう。

数字を盛って社員の奮起を促していては、経営目標で一番大切にしなければいけないBSの作り込みを考えていないということであり、「現状のROA◯◯%を将来どこまで上げていくか?」という社長の意思は全く見られないのだ。

中堅・中小企業の社長は、赤字が続いたとしてもオーナーである以上、引責辞任などできない。また好調が続いていても好不調の波は必ず再度襲ってくる。

だからこそ利益を確実に出し、資金を潤沢にしておかなければならないし、いざとなったら誰も助けてはくれない。一倉先生が、利益のことを「事業継続経費」という所以である。

しかしながら、経営計画書の方針書を書くことが苦手、ましてや数字はもっと苦手という場合、よくエクセルのソフトで作成できるといって手を出す社長がいらっしゃるが絶対にやめたほうがいい。

カタチは何となくできているので、できた気にはなるが肝心要の資金運用というお金の使い方が腹落ちしていないから、好調なときに墓穴を掘ってしまうからである。

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作間 信司(さくま・しんじ)
日本経営合理化協会専務理事
1959年生まれ。山口県出身。1981年、明治大学経営学部卒業後、大手インテリア会社にて販売戦略など実務経験を積んだ後、1983年、日本経営合理化協会入協。事業の企画・立案を担当するかたわら、会長牟田學の薫陶を受け、全国の中堅・中小企業の経営相談に携わる。協会主催の社長塾「地球の会」「事業発展計画書作成合宿セミナー」などの講師を歴任し、現在「佐藤塾~長期計画~」副塾長、「JMCA幹部塾」塾長を務める。

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(日本経営合理化協会専務理事 作間 信司)

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