「金のなる木」フジとテレ朝を股にかけ権勢ふるった「旺文社」創業者をご存じか
プレジデントオンライン / 2020年3月8日 11時15分
■メディアの支配権を巡る攻防を描く、骨太のノンフィクション
著者は前作『メディアの支配者』で、フジサンケイグループに君臨した鹿内家の盛衰を描き、講談社ノンフィクション賞、新潮社ドキュメント賞をダブル受賞。それからなんと14年ぶりに、続編ともいうべき本書を刊行した。
日本テレビ、TBSからかなり遅れて、テレビ朝日とフジテレビが開局したのは1959年。黎明期の民放テレビ局は「金のなる木」で、満州帰りの山師のような連中が群がった。小針暦二や萩原吉太郎といった「政商」も暗躍し、郵政を牛耳る田中角栄は電波利権をほしいままにした。
そのフジとテレ朝を股にかけて権勢をふるったのが、教育出版「旺文社」を創業した赤尾好夫だ。支配下の文化放送を通じて両局の大株主となり、複雑な二重らせん構造を作り上げる。フジは鹿内家と“棲み分け”、自身はテレ朝の代表権を死の直前まで手放さなかったのだ。
ところが後継者の長男・一夫は、家業に関心を示さず、文化放送社長に就任したはいいが、月に1回の取締役会に出席するだけ。株の価値には敏感で知識も豊富だったから、ひたすらマネーゲームにのめり込む。80年代後半の異常な株ブームに乗って、暴利をむさぼった。
■カネ目当てのワルが集まる
周辺には、カネ目当てのワルが集まる。怪しげな“祈祷師”の影響なのか、御茶ノ水に建てたタワービルの100畳ほどもある一夫の部屋には、金色に輝く3メートルもの仏像が鎮座していた。
一夫はフジの上場過程で巨利を得たうえに、96年6月にはテレ朝全株を418億円で売却してしまう。買い手にルパート・マードックと孫正義がいるとわかり、テレ朝と朝日新聞に激震が走る。対応に苦慮しながらも、朝日首脳陣はこの機に乗じてテレ朝支配の確立を目論む。その動きを活写した第三章は、本書前半の白眉といっていい。
98年末、一夫の強引な錬金術に、東京国税局が鉄槌を下す。テレ朝株売却に伴って250億円の申告漏れがあったとし、110億円を追徴課税。これを境に、一夫の威光は徐々に失われていく。
フジの状況はさらに深刻だった。赤尾家との厄介な交渉はもちろん、クーデターで追い落としたはずの鹿内家も、フジの親会社ニッポン放送の大株主として宏明が存在を誇示し続けている。そんな状況を打破すべく、日枝久社長がフジとニッポン放送の上場に舵を切ったことが、大波乱を招いてしまう。
村上世彰、堀江貴文。フジ買収を狙う簒奪者が名乗りを上げたのだ。謀略じみた村上の手口と、開けっ広げに正面突破を試みる堀江の圧力に、日枝は土俵際まで追い詰められる。いまも記憶に新しい攻防戦の内幕は、どんなテレビドラマよりも面白い。
骨太なライターの堂々たる「帰還」に拍手を送る。
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文藝春秋前社長
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)卒業後、74年文藝春秋入社。「諸君!」「週刊文春」、月刊誌「文藝春秋」編集長、第一編集局長などを経て2013年専務。14年社長、18年退任。
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(文藝春秋前社長 松井 清人)
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