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薬代の約15%がお得になる「セルフメディケーション」の使い方

プレジデントオンライン / 2020年2月27日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/adisa

医療費控除の特例として、2017年から始まったセルフメディケーション税制。元国税調査官で税理士・産業カウンセラーの飯田真弓氏は、「通常の医療費控除よりも適用条件が緩く、多くの人が対象となる制度なのに、知らない人が多い」という――。

■そもそも医療費控除とは

サラリーマンにとって、一番身近な確定申告といえば医療費控除だろう。給与所得者の還付申告は年が明けると同時に受付が始まる。既に令和元年の還付申告を済ませたという方もいるのではないだろうか。

実は、この医療費控除、かつては税務職員泣かせの事務だったのだ。どんな点が税務職員泣かせだったのか。今回は、医療費控除について考えてみたい。

そもそも医療費控除とはどういうものなのだろうか。わが国の医療費控除制度は、シャウプ勧告を受けて、昭和25年度の税制改正で設けられた。

シャウプ勧告を受けて設けられた上記医療費控除規定の要点は、
①総所得金額の合計額の10%という足切限度額が設けられていたこと
②最高控除額10万円という控除限度額が設けられていたこと
③自己だけでなく扶養家族に係る医療費も控除対象とされていたこと
④支払った医療費から保険金等により補てんされる部分を控除した実額での控除が認められていた

出典=赤木葉子「所得税法上の医療費控除に関する一考察

■筆者もかつては領収書を1枚1枚検算していた

現行の医療費控除については、国税庁のサイトで確認することができる。

医療費控除とは
申告する方やその方と生計を一にする配偶者その他の親族のために、令和元年(平成31年)中に支払った医療費がある場合は、次のとおり計算した金額を医療費控除として、所得金額から差し引くことができます。

出典=国税庁「令和元年分確定申告特集」

大きな手術や慢性的な病気などで、支払い能力に支障をきたす場合には、所得控除をすることで、税金の負担を少なくしようという趣旨は、原則、引き継がれてきたと考えてよいだろう。

少し古い話で恐縮だが、2011年2月27日「ガッチリマンデー」という番組で国税庁の仕事が紹介されたことがあった。その際、上野税務署の職員が還付申告の検算をしている映像が放送された。

かつては、筆者が働いていた大阪国税局官内の税務署でも、還付申告を提出した納税者に少しでも早く税金の還付をするために、残業命令を出して還付申告の検算をするという日が設けられていた。申告会場では申告書を完成させ受付するのが精いっぱいだから、チェックは後日行うのだ。

「本当に1枚1枚検算するんですか?」

番組の中でもそんな質問がなされていた。

■歯科矯正は医療費控除になるのか?

給与所得者の還付申告については、各税務署ですべて検算をしていた。計算や添付書類に誤りが見つかった場合は、速やかに「還付留保」担当に引き継がれ、申告書を提出した本人に連絡をとる。

その対象は、サラリーマンの場合が多いので、昼休みも電話の前から離れられなくなる。筆者は毎年、「還付留保」の担当に当たらないように祈ったものだ。

医療費に該当するかどうかという部分で気を付けないといけないのは、医師が行った行為でもそれが治療かどうかという点である。例えば年頃の娘さんが歯科矯正を行った場合、美容のためでなく、医学的に歯科矯正が必要であったことを医師に証明してもらわなければならない。

病院で処方してもらう薬では治らなかったが、民間療法を行っている道場に通ったら症状がなくなったというようなケースもあるだろう。しかし、この場合は、医師による処方でないと医療費控除には該当しないのではないかという理由で「還付留保」となるわけだ。

なぜそのようなことが起こるのかというと、国税の職員は医療の専門家ではないからだ。それが医療行為かどうかは判断することができない。歯科矯正の場合、歯科医師に「この歯並びのままだと消化器官への影響もあるので、歯科矯正の必要があります」と一筆書いてもらえばOKということになる。

■かつては医療費控除だけ領収書の添付が必要だった

医療費控除は、納税者の意向を加味しながら変遷を遂げてきた。筆者が職場に入った当初は、市販薬は医療費控除として認められていなかった。領収書は一部しか残していないので、代わりに「医療費のお知らせ」で受け付けてもらえませんかといってきた納税者にも、これでは受け付けられませんと突っぱねていた。

平成29年から、医療費の領収書が添付用件ではなくなった。このことは、所轄の税務署の職員にとっては画期的なことだったのではないだろうか。

耐火倉庫には、年分ごとに「あ行」から医療費控除の領収書が保管された段ボール箱が場所をとっていたが、そのスペースも必要なくなったと思われる。

筆者は、新米調査官だった頃、なぜ医療費だけ領収書の現物を添付させるのかと不思議に思っていた。それは、給与所得者は年末調整を終えており、所得控除である医療費控除の部分だけしっかり確認すれば事足るからだった。

それが、平成29年から、領収書の添付は不要になり、医療費控除の明細書に記載すればよいことになった。給与所得以外で申告する納税者と同じ扱いになったのだ。

■漢方薬やビタミン剤は個別の検討が必要だ

確定申告では領収書の現物を確認することなく、縦の計算に間違いがなければ所得税が還付される。医療費の領収書は5年間、自宅で保管しておけばよいことになった。このことは、裏を返せば、5年間は税務署が確認にくる可能性があるということを表しているのだろう。

ここで医療費控除について網羅することはできないが、レーシック、不妊治療、人工授精、心臓病患者が医師の指示・処方箋に基づいてのAEDの購入又は賃貸費用、公益財団法人日本骨髄バンクに支払う骨髄移植のあっせんに係る患者の負担金も含まれる。

漢方薬やビタミン剤の購入費用、介護に関する費用、血圧計など医療器具の購入費用など、個別に検討しないといけないものもあるが、医療費控除の範囲は広まってきているといえるだろう。

常に新しい情報を納税者に伝えるため、調査官たちは分厚い問答集を購入し手元に置いていた。『医療費控除と住宅借入金等の特別控除の手引』(大蔵財務協会 )だ。

質疑応答は131問にわたり、根拠条文や必要書類などが網羅されているので、一般の方でも使いやすい書物だと思う。

興味を持たれた方は、一度手に取って読んでみるのもよいだろう。

■セルフメディケーションとは何か

平成29年、医療費控除に特例が加わった。セルフメディケーション税制だ。ある一定の取組を行えば医療費控除が受けられるというものだ。

セルフメディケーション税制の概要
健康の保持増進及び疾病の予防として一定の取組を行っている方が、その年中に自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族のために12000円以上の対象医薬品を購入した場合には、「セルフメディケーション税制」(通常の医療費控除との選択適用)を受けることができます。

出典=国税庁「令和元年分確定申告特集」

「一定の取組」というのは以下の通りである。

1.保険者(健康保険組合、市区町村国保等)が実施する健康診査【人間ドック、各種健(検)診等】
2.市区町村が健康増進事業として行う健康診査【生活保護受給者等を対象とする健康診査】
3.予防接種【定期接種、インフルエンザワクチンの予防接種】
4.勤務先で実施する定期健康診断【事業主検診】
5.特定健康診査(いわゆるメタボ検診)、特定保健指導
6.市町村が健康増進事業として実施するがん検診
 なお、申告される方が「一定の取組」を行っていることが要件とされているため、申告される方が取組を行っていない場合は、控除を受けることはできません。

出典=国税庁

そして、「対象医薬品」とは、一定の有効成分を含むとして厚生労働省から指定を受けた「スイッチOTC医薬品」のことである。スイッチOTC医薬品にはレシートに★や●などの印がつくので一目瞭然だ。

■「健康診断の受診」などが要件

本来、健康診断は予防としての取り組みであるため、医療費控除には該当しない。健康診断を受けて病気が見つかった場合に限って、その費用も医療費控除に含めてよいということになっていた。

それが一転して、医療費控除の中のセルフメディケーション税制を受ける要件になったのである。サラリーマンであれば、健康診断はほとんどの人が受けているはずだ。

セルフメディケーションとは、WHOの定義で「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てをする」ことをいう。

しかし、このセルフメディケーション税制、なんだかわかりにくい。筆者が風邪のひきはじめによく服用する薬は、漢方が主に処方されているため、スイッチOTC医薬品ではなかった。M‐1グランプリ2019で優勝したミルクボーイが「名前を忘れてた薬がある」といって掛け合いをする「湿布」は、スイッチOTC医薬品のリストにあがっている商品もあれば、あがっていないものもあった。

■元来の医療費控除よりずっとハードルは低い

筆者のオフィスの近くにあるドラッグストアの売り場では、個々の医薬品には表示がなされているが、セルフメディケーションを推進する告知はされていなかった。厚生労働省は、本気でセルフメディケーションを浸透させようとしているのだろうか。

いろんなしがらみがあるだろうが、本気で国民の健康を考えているのであれば、ドラッグストアに「セルフメディケーションしましょう!」という、のぼりくらい立ててもよいと思うのだが……。

誰でも、好んで病気やけがはしないだろう。そうはいっても、1年の間には、どんなことが起こるかわからない。スイッチOTC医薬品に該当しない市販薬も、医療費控除として使える場合がある。

まずは、薬を購入した領収書は専用の箱を作って、そこにためておくのがよいだろう。サラリーマンであれば、毎年、人間ドックなどの健康診断を受けるはずだ。

1年の薬の領収書を合計してみて、医療費控除にするのか、セルフメディケーション税制で申告するのか検討する。

元来の医療費控除を受けようとすると、10万円(または合計所得金額の5%のどちらか少ない額)を超えなければ該当しない。一方、セルフメディケーションの場合は、12000円を超えれば該当する。

■セルフメディケーション税制の「お得感」はその人次第ではある

年間12000円を1カ月にすると、1000円だ。1カ月の1000円くらいは市販の薬を買うのではないだろうか。

例えば、1カ月5000円スイッチOTC医薬品を1年間買ったとすると、

5000円×12カ月=60000円
60000円-12000円=48000円

この人の所得税の最高税率が20%であれば、

48000円×20%=9600円

の還付となる。

住民税も所得控除され、その分手取りが増えることになる。

1年間、60000円を医薬品に使うと、その16%程度にあたる9600円が戻ってくるというわけだ。手間はかかるが、やってみる価値はあるかもしれない。

しかし、ドラッグストアで医薬品が定価で販売されていることは少ないのではないだろうか。筆者は、実際にドラッグストアに足を運んでみたが、スイッチOTC医薬品に該当しない医薬品のほうが割引率が高いような気もした。

ドラッグストアも商売だ。同じ様な効き目が得られそうな風邪薬がいくつかあり、スイッチOTC医薬品のほうがよく売れているとなれば、割引率を低く設定しているかもしれない。

知識として、セルフメディケーション税制を知っておくことはよいだろう。しかし、割引率のことや手続きの手間を考えると、実際に得した気分を味わえるのかどうかは人それぞれなのかもしれない。

かの頭痛薬の半分は優しさでできているとCMで言っていた。税に関する手続きも、もっと人に優しくあってほしいものだと感じている。

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飯田 真弓(いいだ・まゆみ)
税理士
元国税調査官。産業カウンセラー。健康経営アドバイザー。日本芸術療法学会正会員。初級国家公務員(税務職)女子1期生で、26年間国税調査官として税務調査に従事。2008年に退職し、12年日本マインドヘルス協会を設立し代表理事を務める。著書に『税務署は見ている。』『B勘あり!』『税務署は3年泳がせる。』(ともに日本経済新聞出版社)、『調査官目線でつかむ セーフ?アウト?税務調査』(清文社)がある。

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(税理士 飯田 真弓)

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