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新型コロナ騒動で早まった「中国バブル崩壊」という巨大隕石の正体

プレジデントオンライン / 2020年2月22日 11時15分

政府が不動産価格の抑制策を導入しているものの、大都市で住宅価格が値上がりした。中国山東省仏山市の物件を内見する中国人たち(2018年12月24日) - 写真=Imaginechina/時事通信フォト

■新型コロナが不動産バブルを抱える中国経済に直撃

新型コロナウイルスによる肺炎の発生は、不動産バブルを抱える中国経済に衝撃を与える可能性がある。リーマンショック後、中国政府は主に公共投資によって景気を人為的に支えた。その結果、中国経済は高成長を達成することができた。

中国経済が高成長を続ける中、カネ余りと景気先行きへの楽観や強気心理の連鎖から住宅などの不動産価格が高騰した。それが中国の不動産バブルを発生させた。バブル膨張とともに債務残高も増えている。そうした状況下、共産党内部の改革派幹部は、わが国のバブル崩壊後の景気低迷の教訓をもとに構造改革を行うことを考えた。

しかし米中の通商摩擦などから景気減速が鮮明となり、保守派を中心に改革への批判が増えた。習近平国家主席は批判に配慮せざるを得ず、経済政策を総動員して景気を支えようと必死だ。そこに、今回の新型肺炎が発生した。これは中国経済の不安定性を一段と高める要因だ。

かつて2002年から03年にかけて、SARS(重症急性呼吸器症候群)が発生した。当時、世界全体のGDP(国内総生産)に占める中国の割合は3.6%だった。その後の成長により、昨年、世界のGDPに占める中国のシェアは16.3%に達している。それだけ中国経済が世界に与える影響度合いは大きくなっている。

近年、中国経済は明らかに成長の限界に差し掛かっている。成長力が低下すると、資産価格にも下押し圧力がかかりやすい。新型肺炎は、中国経済のハードランディングのリスクを高め、世界経済全体を下押しすると考える必要がある。今回の新型肺炎はそれだけのインパクトを持ち得るファクターだ。

■中国の主要70都市の住宅価格が上昇した理由

2018年以降、中国経済の減速がかなりはっきりしている。2019年、中国の実質GDP成長率は6.1%と29年ぶりの低水準に陥った。新型肺炎は、景気減速に追い打ちをかける可能性がある。

同時に、中国の不動産市場ではバブルが残っている。背景には複数の要因がある。一つに、地方政府が経済成長の実現を追求し、不動産開発など投資への依存度が高まった。地方政府は、住宅開発に加えてインフラや構造物(ハコモノ)に投資し、党が定める経済成長目標の達成を目指した。それが地方の共産党幹部の出世を左右する。

具体的な仕組みとして、まず、地方政府は「地方融資平台」と呼ばれる投資会社を設立する。地方融資平台は、債券の発行などによって資金を調達する。それを用いて不動産開発や公共事業などの投資が進む。

同時に、中国本土の市場参加者らは、共産党政権が景気の安定にコミットしていると考え、先行きを楽観したはずだ。彼らは、低金利環境の中で投資(投機)のための資金を借入れ、住宅などに投資した。2015年夏場、上海の株価が大きく下がって“株式のバブル”がはじけた後、資金は不動産市場に流入し、中国の主要70都市の住宅価格は上昇した。

■バブル崩壊後の日本経済を徹底研究

ただ、未来永劫、資産価格が上昇することはない。バブルが崩壊すると、バランスシート調整と不良債権処理という“バブルの後始末”が不可避となる。劉鶴(リュウ・ハァ)副首相をはじめとする共産党の改革派はバブル崩壊後の日本経済を徹底研究し、不良債権処理と構造改革を重視した。

当初、米中の通商摩擦が激化する中、習近平国家主席は改革派の意見を尊重した。2019年4月19日の党中央政治局会議において供給サイドの改革を深化させることが重要との見解が示されたのは、よい例だ。

同時に、中国は先端分野の産業振興策である「中国製造2025」を重視し、国家主導で人工知能や半導体などの生産能力の引き上げに取り組んだ。それは、ヒト・モノ・カネの経営資源を在来産業から先端分野に再配分し、中国経済のダイナミズムを高めるための改革の推進といえる。

■米中の通商摩擦で国民の不満が増大

2019年5月、米中は通商交渉をめぐり、7分野150ページに及ぶ合意文書案の作成に取り組んだ。文書案には補助金政策に関する記載など、踏み込んだ内容があったようだ。

それは、保守的な考えを持つ共産党幹部にとって、容認できないものだっただろう。構造改革は、共産党の保守派にとって既得権益の喪失を意味する。地方の幹部にとっても痛手だろう。同年4月下旬には、習体制に対する保守派からの批判が激化した。

背景には、米中の通商摩擦などを受けた景気の減速がある。それにともない、人々の不満は増し、共産党の求心力は低下しつつある。共産党内部ではその状況への危機感が高まり、徐々に指導部への批判が勢いづいたとみられる。

習国家主席は構造改革に反対する保守派からの突き上げにあい、それを抑えることが難しくなった。習氏は文書案を105ページに圧縮・修正し、一方的に米国に送り付けた。それは、中国経済の運営のイニシアチブが改革派から保守派にシフトしたことを示唆する出来事だった。

■景気減速とともに債務問題が深刻化

その後、中国政府は中国人民銀行を通して資金供給を行い、資産価格のサポートをはじめとする景気刺激策を強化した。それは、バブルの延命措置に等しい。同時に、中国では景気減速とともに債務問題が深刻化している。2019年6月末の時点で中国の民間非金融部門の債務残高はGDPの約209%だ。

この状況は、1991年のわが国と酷似している。1991年3月末、同じ基準で見たわが国の債務残高はGDPの209%だった。同年7月、日銀は金融緩和に転じた。それは不動産バブルが崩壊し、景気の減速に対応するための措置だった。1997年度までわが国は整備が一巡した公共事業によって景気を支えようとしたが、大きな効果は見られなかった。

また、不良債権処理は先送りされ、1997年11月には金融システム不安が発生した。わが国の教訓は、大きなバブルが崩壊した後で景気回復を目指すには、構造改革と不良債権処理が不可欠だということだ。

■新型肺炎で中国バブル崩壊のリスク

現在、中国はわが国の教訓を重視して改革に取り組むよりも、減税や公共事業などによる経済運営に、再度傾注しつつあるとみられる。このタイミングで新型肺炎が発生した影響は大きい。

真壁 昭夫『ディープインパクト不況 中国バブル崩壊という巨大隕石が世界経済を直撃する』(講談社+α新書)
真壁 昭夫『ディープインパクト不況 中国バブル崩壊という巨大隕石が世界経済を直撃する』(講談社+α新書)

中国の経済活動にはかなりの混乱が生じ、生産、物流、消費などへの影響が顕在化しつつある。景気は一段と減速する可能性がある。その展開が鮮明となれば、中国の企業・家計・地方政府などの資金繰りは悪化するだろう。不動産バブルの延命は難しくなり、徐々にバブル崩壊のリスクも増すはずだ。

それは、世界経済にとっても無視できないリスクだ。2004年から2018年までの間に、世界の製造業が生み出す付加価値全体に占める中国のシェアは9%から28%まで増えた。中国の生産活動に支障が出ると、世界のサプライチェーンはかなりの制約に直面する。

一例として、わが国の自動車業界では部品の調達が困難になり生産を一時停止する企業がある。米国ではアップルが1~3月期の業績目標の達成が困難と表明した。

巨大隕石の衝突にたとえた「ディープインパクト不況」とは、この不動産バブルと、それにともなう金融システムの崩壊が世界経済に与える深刻な影響のことだ。

■世界経済が大きく混乱する

新型肺炎の発生による中国の景気減速や不動産バブルのリスクに世界経済が耐えられるか否か、先行きは見通しづらい。世界経済は米国の個人消費に支えられ、どうにか安定を保っている。ただ、米国の労働市場では求人件数が減少するなど、鈍化の兆しが出ている。さらに、中国経済の減速などからドイツや韓国では先行き懸念が高まっている。

昨年10~12月期、消費増税などの影響からわが国の実質GDP成長率は前期比年率でマイナス6.3%だった。中国経済の減速から工作機械受注などが減少する中、新型肺炎により観光や生産活動などの面でわが国経済には下押し圧力がかかりやすい。

新型肺炎は、中国の不動産バブル崩壊のリスクを上昇させるなどし、世界経済全体にかなりのマイナスの影響を与える恐れがある。状況によっては、新型肺炎が中国経済のハードランディング懸念を高め、中国からの資金流出圧力が高まる展開も想定される。その場合、中国の不良債権問題などが深刻化すると警戒する市場参加者が増えるなどし、世界経済が大きく混乱する可能性は軽視できない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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