埼玉県民が愛用「ぎょうざの満洲」に揚げ物が1種類しかない理由
プレジデントオンライン / 2020年3月6日 9時15分
■ラーメン420円の安さで健康志向
ぎょうざの満洲は、同名の中華料理チェーン「ぎょうざの満洲」を運営する企業だ。埼玉県を中心とした関東地区に84店舗、そのほか関西地区(大阪府、兵庫県)にも10店舗がある(2019年12月現在)。売り上げは83億6455万円(19年6月期)で従業員は約2000名(19年12月現在)となっている。
わたしが訪ねたのは東武東上線北坂戸駅を最寄りとする同チェーンの坂戸にっさい店だ。都心から1時間はかかるし、北坂戸駅からも車で10分はかかる。平日だったけれど、店は10時半に開店するとすぐに満員になった。なんといっても値段が安い。
焼餃子(6個、ボリュームあり)とライスで410円。チャーハン450円、満洲ラーメン(醤油味)420円。全国チェーンとなった同業の「餃子の王将」とほぼ同じ価格帯だ。
だが、「ぎょうざの満洲」は個性的なチェーンだ。同じ中華料理チェーンの「餃子の王将」「日高屋」「幸楽苑」とはまったく違う。競合にはならないと思う。
そのメニューは徹底した健康志向だ。同社創業者の長女で、2代目として代表取締役社長を務める池野谷ひろみは「自分が食べたいもの、家族に食べさせたいもの、ヘルシーなものだけを提供する」と言う。
■国産野菜を使用、カロリーは控えめ
その言葉通り、メニューに載っている品目はいずれもカロリーを抑えめにしてある。食べ終わった皿に、大量の油が残っていたりはしない。そして、健康的なメニューを提供し続けるための企業努力をしている。
例えば使っている野菜だ。中国由来のザーサイ、メンマなどを除いて、野菜はすべて国産。しかも、自社農場で作った野菜が全体の3割を占めている。
米、小麦粉、豚肉、鶏肉も国産。牛肉だけはオーストラリア産だ。麺に使う小麦粉は栃木県産で、餃子の皮の小麦粉は北海道産だ。
グランドメニューに載っている揚げものは鶏の塩唐揚げだけ。これも以前は唐揚げにこってりした甘酢あんがかかっていたとのことだが、池野谷が「カロリー過多だから」と提案し、あんをかけない塩味の唐揚げに変えた。
チャーシューは蒸して作ったもの。脂は落ちている。餃子の具として使用されるひき肉も脂身の多いそれをやめて、赤身肉を増量した。
極めつきはライスだ。白米と玄米があり、客は好きなほうを選ぶことができる(一部の店は白米のみ提供)。チャーハンに至っては、白米と玄米を半分ずつ使用して提供している。
■玄米を選ぶのは圧倒的に男性が多い
飲食チェーンで健康志向を謳うところは少なくない。しかし、玄米をここまで前面に押し出して、健康の重要性を主張しているのは「ぎょうざの満洲」だけだろう。
池野谷は「最初は従業員から『玄米はダメ』と言われました」と語る。
「私どもの店で、玄米を選ぶお客さまは4割です。それも女性でなく、圧倒的に男性が多い。きっと食生活の片寄りを気にしている方に喜ばれているのかな? と思います。
そうそう、私が『玄米にする』と言ったとき、店長はほぼ全員、反対でした。『中華に玄米は求められてない』『中華に玄米は合わない』とか。みんなに反対されたけれど、『テストで一軒やってみようよ』と決めたんです。そうしたら、お客さまの評判がすごくよかった。それで提供する店舗を徐々に増やしていき、今、9割方のお店が玄米取扱店になりました。
面白いんですよ。一番人気のダブル餃子定食というメニューがあるんですけれど、『ダブル餃子定食、玄米大盛り』と注文される方が結構多い。『がつんと食べたい、でも健康が気になる』方は、ライスを玄米にすることで罪悪感がなくなるんでしょうね。実際に、白米ではなく玄米を選ぶことでメニューの総カロリーは減り、多くの栄養成分を摂取できます」(池野谷)
■毎日食べても太らないものを提供する
池野谷社長は、昼には毎日必ず自社商品であるラーメンと餃子を食べるという。しかし、全量ではない。半分だ。ラーメン、餃子という食生活を続けても、ちゃんとスタイルを維持している。
「当チェーンで提供する料理は、毎日食べても太らないものをと考えています。食材の鮮度や、素材を煮出したスープを活かして、料理の味付けもあまり濃くないようにしています。
私は、この仕事を始めてもう31年、社長になって約20年なんですけれど、自分らしく経営をしています。急速に業績を伸ばしたりはせず、無理をしないで、ちょっとずつちょっとずつ日々のことをやって、その結果、店舗が増えている。
普通の主婦なので、それ以上のことはできません。私のいいところは、消費者目線を持っているところだと思います。ですから、自分が食べたいもの、自分の家族に食べてもらいたいものを提供したい。玄米もそうですし、濃くない味付けや油っこくない料理もそうです。会社が伸びているのは、主婦として普通に感じたことをそのまま店舗で実現したことが、お客様からの評価を得られたためだと思います」(池野谷)
■野菜の3割は自社農場で栽培
前述のように、「ぎょうざの満洲」で提供される料理に使われる野菜の3割は、自社農場からのものだ。わたしが池野谷にインタビューした日、その伴侶であり、取締役副社長を務める池野谷高志は、“野菜の収穫”のため畑に出ていた。経営幹部が自ら畑に出て、野菜を育てている会社である。そして、店舗にあるメニューには使用された野菜の重量が書いてある。
「自社で農場を経営するのは、少しでも鮮度のいいものを提供したいから。ほんとは豚と牛も自社で飼いたいのですけれど、さすがに反対されています。でも、お豆腐は手作りしたいと思っています。マーボ豆腐や冷奴として提供しているお豆腐が自家製だったら、いいんじゃないかと思って。近い将来、お豆腐の手作りは実現します」(池野谷)
■「生麺1袋55円」スーパーより安いテイクアウト
わたしが訪ねた坂戸にっさい店では、レジの前に冷凍ケース、冷蔵ケースがどんと置いてあった。同チェーンの店舗では、生餃子、生麺、スープ類など冷蔵品、冷凍品を販売している。加えてネットでの通販も行っている。同社の売り上げの約4割は、これらのテイクアウト、通販といった外販が占めるという。
池野谷は「テイクアウトも重要です」と語る。
「うちの料理は、やっぱり出来立てが一番おいしいんです。それで始めたのが生餃子や生麺のテイクアウトです。調理したものをお持ち帰りになるよりも、生餃子を買って、おうちで一手間かけて調理し、焼き立てを食べていただきたい。絶対、そのほうがおいしいです」(池野谷)
テイクアウトのメニューを見ると、生餃子は20個で430円、生麺は1袋55円(160g)。ラーメン用の醤油タレは30円。スーパーで買うと、生麺は90円から100円はする。ラーメン用のタレだって60円は取られる。
「ぎょうざの満洲」で買うほうが、スーパーで生餃子や生麺を買うよりも安い。しかも、保存料が入っていない安全な食品ときている。
■原材料費は「きっちり3割かける」
こうした商品価格の設定は、池野谷が主婦だからできることであろう。プロ経営者だったら、スーパーの値段と同等、もしくは少しだけ安いくらいにするのではないか。
池野谷はうなずく。
「当社の看板には『3割うまい!!』と書いてあります。それは『原材料費として、きっちり3割かけていれば、飲食店というのは継続できる』と創業者の父が申していたからです。いつの時代も、どれほど会社が大きくなっても、原材料費はきっちり3割かける。うちはその原則をかたくなに守っています。
逆に言うと、儲けすぎていないんです。だって、うちの生麺の原料は、国産小麦粉とかん水と塩だけです。保存料などほかに何にも入れてないため、早く食べないといけないけれど、それで55円でやっていけます。原材料費はちゃんと3割です」(池野谷)
「ぎょうざの満洲」の店舗で実際に食事をして、経営者に会って話を聞いて思うのは、実に正直な会社だということ。「原材料費が3割」というのは本当だろうと感じさせるものだ。そして、店舗での提供価格を安くできるのは、メニューの種類をむやみに増やさず、製造などをすべて自社で行っているからできることではないか。
それにしても、90店舗強あるチェーンで毎日、食事をしている人たちの4割が玄米食になっているなんて……。今、日本人が気にしているのは健康に生きるということなんだとあらためて思った。
取材を終えての帰り際、池野谷は自信たっぷりに言った。
「うちの店は3回食べるとファンになると思います」
取材に同行した既婚の女性編集者は「わが家のそばにも、ぎょうざの満洲に出店してほしい」と言っていた。わたしも横でうなずいた。(敬称略)
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ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)
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