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エリート共働き夫婦の末路「タワマンを買った人は五輪後、本当の地獄を見る」

プレジデントオンライン / 2020年3月6日 15時15分

武蔵小杉駅周辺に林立するタワマン群。

■「タワマンだから価値が高い」は本当か?

日本人の生活にマンションという居住形態が誕生しておよそ60年になる。現在ではマンションストックは全国で約650万戸にも及び、いまや日本人にとってごくありふれた住宅になったともいえよう。中でも最近脚光を浴びているのがタワーマンションと呼ばれる超高層のマンションだ。

首都圏(1都3県)でタワーマンションはどのくらいできているのだろうか。タワーマンションという定義はないが、不動産経済研究所では20階建て以上のマンションを超高層マンションとして、分譲用に供給された戸数について集計・発表をしている。

それによれば、2004年以降18年までの15年間に首都圏で供給された超高層マンションは累計で599棟、18万5803戸に及ぶ。同期間に首都圏で供給されたマンション戸数(80万1686戸)の、なんと4戸に1戸が、いわゆるタワマンなのだ。

タワマンはこれまでは「庶民の憧れ」とされ、デベロッパーの販売担当者も「タワマンは資産価値が高い」と公言してきた歴史がある。だが、この15年間で4戸に1戸供給されてきた首都圏のタワマンが「タワマンだから価値が高い」というのは本当だろうか。

■タワマンで目立ち始めたのが雨漏りの問題

19年10月に首都圏を襲った台風19号は川崎市の武蔵小杉駅周辺にあるタワーマンションが水害に脆弱であることを露見させた。水害に限らず、実は築15年から20年を迎えるタワマンで目立ち始めたのが雨漏りの問題である。首都圏におけるタワマンの多くが、湾岸エリアに立地している。工場や倉庫の跡地といった広い敷地を活用したものが多いからだ。海沿いは潮風が強い。そして高層であるために強風を受け、常に微小な揺れが生じている。また日本は地震の多い国なので、建物はしばしば強い揺れにも襲われている。

この「潮と風と揺れ」は意外に曲者だ。コンクリートの継ぎ目や窓枠の目地には元来コーキング剤などが充填されているが、経年とともに劣化する。タワマンのとりわけ湾岸エリアはその度合いが通常のマンションなどとは比べものにならないほど激しいのだ。強風によって吹きつけられる潮はコーキング剤の劣化を早め、小さな揺れの連続は亀裂を促進させるからだ。タワマンは、高層であるために修繕にあたって足場を組むことすらできない。したがって雨漏りが起きても、必要な修繕を施せずに放置状態が続くことになる。タワマンで窓枠等から浸水する被害に悩まされている住戸が多いのはこうした要因によるものといわれている。

00年以降に建設されたマンションの多くが、東京五輪以降は築20年を超えて大規模修繕の時期を迎える。外壁の修繕には足場が組めないために、屋上からゴンドラをつりさげての工事になるが、湾岸部で高層建物ともなれば、上空は常に風が強く、作業日は限られ工期は通常マンションの数倍かかるといわれる。

また、多くのタワマンでは大地震等での停電に備え、非常用発電装置が備えられている。いざというとき安心の設備であるがこれも経年劣化が激しい。築15年から20年程度で交換するにあたっては、一基数千万円程度の負担となる。しかもメンテナンスをしっかりと施さないと、その「いざ」というときに役に立たない。あるビル会社が東日本大震災のあと、運営管理しているビルの非常用発電装置を実際に動かしてみたところ、多くの設備が規定通りの時間作動しなかったという。それだけメンテナンスが難しい設備であるということだ。

タワマンに装備されているエレベーターは、超高速のもので、高性能であるぶん、更新工事をする場合、大変な金額となる。今後、これらの問題をすべて負っていくのは、分譲したデベロッパーではなく、一人ひとりの所有者だ。こうしたメンテナンスコストについてデベロッパーが販売時に丁寧に説明する姿をあまり見ることはない。残念ながらタワマン購入者の多くが自分の生涯にわたっての住処を手に入れたと考えたのかもしれないが、このタワマンという住処は高級外車を買ってしまったも同然で、その高額なメンテナンス費用を永遠に負担していくことを覚悟せねばならないのだ。

それでも高級外車と同様に、将来的に高値で売れればタワマンは資産価値が高いといえるかもしれない。だが、人が考えることはみな同じだ。投資の世界でもよく見られる現象だが、価値が上がり始めれば投資家の多くがどこかで利益を出そうと売りに走る。また価値が下がり始めれば、狼狽して売りに出す投資家が増えて価値の下落に拍車をかける。

投資家の購入、所有が多いタワマンはこうしたマーケットリスクには敏感だ。そしてタワマンは普通のマンションと異なり、一棟の戸数が数百戸から1000戸を超えるものもある。つまり希少性は低いのだ。投資家たちが同じ行動をするということは、同じタワマンで一気に売り物件が増えることを意味する。一時にたくさんの売り物件が供給されれば、価格暴落時期などはとりわけ売りづらくなってしまうのは自明のことなのである。

■団地とタワマンが重なって見える

タワマンを買った多くの投資家は当初、東京五輪による価格上昇を狙ったとされるが、賢い投資家はすでに売却し、大きな利益を得ている。五輪終了後に景気が悪くなり、あわてて売ろうにも思惑通りにいくとは限らない。

本来不動産が価値を有するのは土地であって豪華な建物ではない。東京のブランド住宅地の多くが実は河川流域や海岸沿いを避けて高台に発達していることは、まさに「台風や地震との闘い」を避けようとする人々の知恵だったのである。そうした意味で麻布や広尾、青山、六本木といったブランドエリアの不動産価値は今後とも保たれていくだろうが、本来高い価値のなかった土地に林立したタワマンの価値が上昇していくとは、少子高齢化が深刻になっていく日本においてはおよそ考えにくい。

かつて憧れの存在だった団地は高齢化・過疎化が進んでいる。
かつて憧れの存在だった団地は高齢化・過疎化が進んでいる。

むしろ、これらのマンションを買った区分所有者や住民はやがて年をとる。そして建物も老朽化していく。やがてコモディティ(汎用品)と化したタワマンにも空き住戸が目立つようになると、資産価値を保ち続けていくことはますます難しくなっていくだろう。

それではタワマンは将来どんな資産となっているだろうか。日本は高度成長期から平成初期にかけて住宅はどんどん郊外へと拡散した。大量に首都圏に流入する地方からの人々の受け皿として建設されてきたのが団地だった。首都圏の多摩、愛知県の高蔵寺、大阪府の千里などがその役割を果たしてきた代表的なニュータウンだ。当時の企業エリートたちにとって、公団(現在のUR都市機構)などが開発した団地は「憧れの街」だったのである。

■今のエリートたちは夫婦共働きが基本

現代のニュータウンこそがタワマンだ。今のエリートたちは夫婦共働きが基本。夫婦ともに大企業に勤めるため郊外に住むことは難しく、通勤に便利な都心のタワマンを買い求める。子どもは保育所に預け、仕事が早く終わったほうが迎えに行く。こんなライフスタイルに応えるのがタワマンだ。

都心はマンション価格が高くなってしまうが、以前と決定的に異なるのは夫婦共働きであるがゆえに世帯年収が高いことだ。パワーカップルといわれる所以である。

だが、こうして無理を重ねて手にしたタワマンは実は災害に弱く、建物維持コストに膨大な負担を強いられ、いざ売却しようにも同様な住戸が多いだけに価値を保ちづらく、資産性が高くないということが露呈するとどうなるのだろうか。

昔のエリートがこぞって住んだニュータウン内の団地が築40年以上の歳月を経て誰からも見向きもされない存在になったのと同じような結末が見えてくるのではないだろうか。夫婦で膨大な借金をしてやっとの思いで手に入れたタワマンが将来、団地化するリスクに実は多くの人たちは気付いていない。

不動産の価値のほとんどは土地にある。タワマンは希少性があったころはともかく、これだけコモディティ化すると、かつての郊外の団地と同じく、やがて価値のない代物になっていく可能性が高いのだ。

かつて表参道にあった同潤会アパートと呼ばれた建物は、それそのものに価値があったわけではなく、表参道にあったからこそ現代になっても価値が保たれていた。ゆえに、ビンテージと呼ばれ、建て替えの際にも高額の評価をされたのである。この法則は将来、タワマンにも間違いなくあてはまることであろう。

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牧野 知弘(まきの・ともひろ)
オラガ総研社長
1959年生まれ。東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て、89年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し、ホテルリノベーション、経営企画、収益分析、コスト削減、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。09年株式会社オフィス・牧野設立およびオラガHSC株式会社を設立、代表取締役に就任。15年オラガ総研株式会社設立、以降現職。著書に『なぜ、街の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)『老いる東京、甦る地方』(PHPビジネス新書)『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)『2020年マンション大崩壊』『2040年全ビジネスモデル消滅』(ともに文春新書)など。テレビ、新聞などメディア出演多数。

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(オラガ総研社長 牧野 知弘 撮影=プレジデント編集部)

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