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夫の実家の墓には入りたくない妻が「墓じまい」を焦るワケ

プレジデントオンライン / 2020年4月19日 11時15分

■離檀料400万円請求トラブルも!

父親の田舎にあるお墓には、両親と祖父母が眠っているものの、長男の自分は都会に住み、墓参りもなかなかできないでいる――。

こんな悩みを抱える人が増えるなか、日本人のお墓に対する意識も大きく変化しているようだ。大阪で墓石販売や霊園運営を手がける霊園・墓石のヤシロが2018年に49~74歳の男女・約2万5000人を対象に行ったネットアンケートによると、先祖代々のお墓を継承したいと考える人は全体の40.5%にとどまった。その継承を望んでいる人でも、お墓を自分の子どもに継いでほしいと願うのはわずか17.1%。つまり、2万5000人のうち6.9%の1700人強しか、お墓を子どもの代までつなぎたいと考えていない。

こうした意識の変化を反映して近年増えているのが「墓じまい」である。これは従来の、古いお墓を処分して新しいお墓を建て直す「建て替え」や、田舎にあるお墓を新しい墓地に移す「引っ越し」に次ぐ、「第三の改葬」とも呼ばれている。前者2つとの大きな違いは、いまあるお墓を撤去してしまい、新しいお墓を建てないこと。お墓から出した遺骨については、他の複数の人の遺骨と一緒に埋葬する「合祀墓」や「共同墓」に葬る人が多い。そして「墓じまい」というネーミングを考案して世に広めたのが、先述のヤシロの社長の八城勝彦さんなのだ。

■景気が悪くても安く安心して納骨できる

「墓じまいのニーズに気が付いたきっかけは、08年のリーマン・ショックの頃でした。前年の07年に開園した北摂津池田メモリアルパークに、まったくお客様が来なくなったのです。そして、景気が悪くても安く安心して納骨できる施設があればお客様に来てもらえるのではと考え、もともと霊園の中央に設けていた合祀墓をリニューアルして合祀永代供養墓『なごみ霊廟』として前面に押し出してPRしました」

先に触れたように合祀墓は複数の人の遺骨を一緒に葬るもので、個別にお墓を設けるよりも格安な価格で提供できる。当初、八城さんが想定した顧客は、自分たちで建てたお墓を継承してくれる子どもがいない人だった。しかし意外なことに、子どもはいるけれども遠く離れた東京や名古屋で暮らしていて、田舎にある実家のお墓の継承はとても無理そうであるし、その子どもたちにお墓の管理の負担をかけたくないといった問い合わせが相次いだ。

「たとえ自分たちで田舎のお墓を大阪に引っ越しさせても、いずれ無縁墓になりかねないわけです。それならば、自分の代で責任を持ってお墓を閉じてしまい、遺骨を合祀永代供養墓に葬ったらどうかというご相談が数多く寄せられました。そこで、取引のあった墓石の施工業者と、お墓の撤去に関するビジネスプランを立てました」

そして、09年3月に生まれたのが「ヤシロの墓じまい」の基本プラン。お墓の規模に応じた基本料金が設定され、そこにはお墓の撤去や廃石材の処分などが含まれている。

具体的には、基点となる霊園から片道2時間、作業時間3時間程度、2トントラック1台で積んで帰って来られることを基準において、お墓の規模が2平方メートル(約1畳)までだと19万8000円(税別)、2~4平方メートル(約2畳)になると24万8000円(同)、そして4~6平方メートル(約4畳)までなら29万8000円(同)。距離が遠かったり、お墓が大型だったり難工事をともなう場合などは別途見積もりをとる。墓じまいを行っている業者は日本全国にいるが、これまで1000件を超える実績のあるヤシロの基本料金が業界標準になっているので、目安にするといいだろう。

併せてヤシロでは墓じまいした後の遺骨のアフターフォローとして、自社の霊園にある合祀永代供養墓の活用を提案している。定期的な合同供養祭による永代供養が行われるなごみ霊廟の場合、一人分の納骨と永代供養の費用が別に10万円(同)が必要になるものの、利用する人が多いそうだ。

実際の墓じまいの流れは図の通り。八城さんは「住民票を移すのと同じイメージです。役所の手続きは形式的なもので難しくありません。改葬許可申請書も、現在は大半の自治体でホームページからダウンロードできるようになっています」と説明したうえで、「ただし、スムーズに行ううえで大事なポイントが2つあります」と指摘する。

こう進んでいく墓じまい

■前に進まない一番のネックが親戚の存在

1つ目は親族とのコンセンサスを得ることだ。ヤシロでは先の実績の何倍もの相談を受けてきた。いざ墓じまいしようとしても、前に進まない一番のネックが親戚の存在なのだという。

「特に問題なのは、長男が亡くなった後、その奥さんが墓じまいを考えるケースです。嫁であるために発言権が弱く、義理の弟や妹の反対意見に押されてしまい、にっちもさっちもいかなくなることが多いのです。当の奥さんには『田舎の義理の実家の墓には入りたくない』という思いもあって、次第に気持ちが焦っていきます。ですから長男である夫が元気なうちに、親族間で話し合っておくことが大切です」

そして2つ目の注意点は、菩提寺などの寺院墓地にお墓がある場合にお寺の理解を得ること。改葬許可申請書には「埋葬事実証明」を添付する必要があり、墓地の管理者の署名・捺印が必要になるからだ。

「共同墓地や公営墓地は問題ないのですが、特に古くから墓地を管理している菩提寺の場合は特に気をつけないといけません。お寺さんの立場からすると、先祖代々のお墓を墓守してきたという思いがあります。それがある日突然、電話で『墓じまいをします。長い間お世話になりました』といわれたのでは、『ちょっとお待ちなさい』という気持ちになるのも無理はないでしょう。

それだけに、お盆やお彼岸のお墓参りの際のご挨拶など、普段からのお付き合いが大切になってきます。墓じまいの際は直接出向いて、『高齢になって毎年のお墓参りが辛くなってきた』とか、『後を継ぐ子どもがいない』とか、きちんと理由を示しながら墓じまいについてご相談することをお勧めします。丁寧に説明することが大切です」

よく「離檀料」でトラブルになるという話を聞くが、「実際はそれほど大きな問題になる例は多くありません」と八城さん。それでも、400万円の離檀料を請求されたといった事例もあるそうなので、どうしても話し合いがうまくいかない場合は、弁護士や行政書士に相談して内容証明を送るなどの措置も必要になることもあるという。

「離檀料には法的な義務はありませんが、墓じまいではお墓の魂を抜く『魂抜き』をお寺さんにしていただかなければいけません。長年お世話になったお礼も含め、お骨1人分で5万円くらいをお布施として包むのがよいと思います」と八城さんはアドバイスする。

「墓じまいは『親の子孝行』だと考えています」と話す八城さん。残された家族や親族へ負担をかけないためにも、自分の代できれいに処理したい。

(ジャーナリスト 田之上 信 撮影=熊谷武二)

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