相続した売れない「負動産」と毎年腹が立つ固定資産税軽減法
プレジデントオンライン / 2020年4月18日 11時15分
■売れない「負動産」と毎年腹が立つ固定資産税
相続したものの、何だかんだと厄介になるのが、親が住んでいた実家の相続。その厄介ごとの1つが実家にかかってくる相続税への対策だ。土地・建物に対する減税特例をいかに活用するかがポイントで、その代表格なのが「小規模宅地等の特例」である。要件さえ満たせば、土地の評価額を80%減らせることから、多くの人が利用している。
「自宅の土地、個人・会社の事業用の土地、アパート、駐車場の貸付事業用の土地について減額できます。たとえば、自宅の土地については、配偶者、同居していた親族、別居していても自宅を所有していない親族が相続する場合に限り、330平方メートルを上限に土地の評価額を80%軽減できます」
こう語るのは、リーガル・アカウンティング・パートナーズ代表の水本昌克税理士だ。そのほか、個人や会社の事業用の土地について親族は上限400平方メートルまで評価額を80%軽減でき、その結果、自宅と事業用の土地について合算して最大730平方メートルまで評価額を80%軽減できる。しかし、水本氏は「注意が必要である」として、次のようにアドバイスする。
「実はこの特例措置は、しばしば改定されます。新たに、被相続人が老人ホームに入居していた場合でも適用されるようになったのですが、要介護認定、もしくは要支援認定を受けている必要があり、さらに都道府県知事への届け出がされていない老人ホームに入居していた場合は適用外になるなど、実に細かな要件があります」
また、ハウスメーカーなどのセールスでよく聞くのが、生前、親から住宅購入資金のうち2500万円までの一括贈与が非課税になる「相続時精算課税制度」である。ところが贈与による取得になるため小規模宅地等の特例適用がない。これは二世帯住宅を建てて「同居」の要件を満たしている場合に見落としがちで、「この2500万円は相続財産に当たり課税対象となります」(水本氏)。そうであるなら、小規模宅地等の特例を選択したほうがよかったというケースも出てくるだろう。
逆に、要件が適用されるにもかかわらず「適用外」と自分で判断し、80%軽減を逃してしまうケースもある。別居であっても、亡き親に配偶者も同居の親族もいない場合は適用されるケースだ。ただし、これもなかなか複雑だ。相続の3年前までに「自己または自己の配偶者」「3親等内の親族」「特別の関係がある法人」の国内の持ち家に住んだことがなく、相続した宅地を相続税の申告期限まで保有することに加え、相続開始時に居住している家屋を過去に所有していたことがないという要件を満たしている必要がある。
また、親と別居であっても、定期的な仕送りをしていれば、「生計を共にする親族」とみなされるケースもあるという。複雑な制度だけに、自分だけで判断するのは禁物だ。また小規模宅地等の特例以外にも節税の手はあるので、1度はプロである税理士に相談したほうがいいだろう。
■倒壊寸前の空き家は自治体が強制撤去も
総務省の住宅・土地統計調査では、2018年の空き家は846万戸で、売る予定も貸す予定もない空き家が、5年間で29万戸増え、347万戸に達している。相続した実家が空き家になっても、離れて暮らす人が多いことから、なかなか手をつけられないことが、この数字を押し上げているともいえる。
しかし、売ろうにも売れない“負動産”となった実家の空き家を何の管理もしないまま放置していると、周辺住民の迷惑になるばかりか、重いペナルティーを受けることになる(図参照)。
「所有者の義務である空き家の適正な管理をしないと『空家等対策特別措置法』で、所有者に対して、市町村が助言、指導、勧告といった行政指導、そして勧告しても状況が改善されなかった場合は、命令を出すことになります」
こう注意を促すのは、都会に住み、遠く離れた実家の相続の手続きをサポートするリーガルアクセス司法書士事務所代表の辻村潤氏だ。
管理が不十分な「特定空家等」に指定された後に改善を勧告されると、その状況が改善されるまで、200平方メートル以下の小規模宅地なら、固定資産税を6分の1にする優遇措置の適用外になる。しかし、どの場合も固定資産税が6倍になるわけではない。国土交通省の空き家対策の担当者が解説する。
「『特定空家等』に指定されると固定資産税が6倍になると解説する記事や企業の広告などを見かけますが、あれは誤りです。指定された時点で『住宅用地』ではなくなり、駐車場や倉庫などと同じ扱いになるので、200平方メートル以下の小規模宅地の場合なら約4.2倍に上がることになります」
結局、特定空家等に指定されると、毎年の固定資産税は跳ね上がるわけだ。「しかし、土地に家でも立ってさえいれば固定資産税の優遇措置が得られると思っている人はいまだに多い」(辻村氏)との指摘もあり、決して他人事とは考えずに注意が必要だ。
さらに空き家を放置し続けて、倒壊など危険な状態の場合、市町村が「取り壊して更地にせよ」と所有者に対し命令できる。それを拒否すれば50万円以下の過料が課せられる。最終的に自治体は空き家の撤去を強制的に代執行でき、その費用は持ち主に請求することになる。小規模住宅でも300万円に迫ることもあり、痛い出費になる。
■特定空家等を回避する裏技とは
相続した実家を空き家にした人すべてが、そんな落とし穴にはまるのかというと、決してそうではない。すべての空き家が特定空家等に指定されるわけではないからだ。適正に管理されていれば、何の問題もないのである。
「月に1度は実家に帰り、掃除をしたり庭木の整備をしていれば特定空家等に指定されることはないでしょうし、本人ではなくアウトソーシングしても何の問題もありません」と辻村氏は言う。地元のシルバー事業団や空き家対策のNPO法人、そして最近では空き家の見回りや管理を代行してくれる業者も増え、よほどの過疎地でない限り対応してくれるので、実家が空き家になっている人は、それらの活用を考えてみたらどうだろう。
一方、空き家を有効に活用するために「空き家バンク」を充実させている自治体も増えてきた。これは、空き家を貸したい、売りたいという人と、借りたい、買いたいという人を結ぶ自治体のサービスで、全国の約1700自治体のうち3分の1にあるとみられ、自治体のホームページで物件を公開している。また、国交省の後押しで、大手不動産情報サービス企業が全国版を展開している。
この先、少子高齢化が進めば、住宅として売ったり貸したりすることは、さらに難しくなるだろう。そんななか、空き家の活用法として、店舗、ゲストハウスなどに転用する動きが注目されている。自治体が空き家を借り上げて、低額で貸し出し、支援している事例もある。やはり相続した後の実家の扱いについても、自分だけで解決しようと思わないことが大切なようだ。
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ジャーナリスト
1959年、東京都生まれ。明治大学文学部卒業。「マネージャパン」副編集長、富裕層向けマネー誌「バケーションアセット」編集長などを経て独立。フリージャーナリストとして雑誌に寄稿するほかムック・単行本を編集。著書に『親の家のたたみ方』『田舎の家のたたみ方』ほか。
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(ジャーナリスト 三星 雅人 写真=AFLO)
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