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1箱3800円の高級グミ「グミッツェル」がバズっている理由

プレジデントオンライン / 2020年3月7日 11時15分

撮影=プレジデントオンライン編集部

のど飴などで知られるカンロの製品「グミッツェル」が好調だ。東京や大阪の店舗では1箱3800円の商品が人気の手みやげに選ばれている。経済ジャーナリストの高井尚之氏が人気の背景に迫った——。

■ポップで洗練された新店舗が登場

2020年2月19日、東京・新宿駅に直結した商業施設でイベントが行われた。

(提供=カンロ)
(提供=カンロ)

2月20日から5月31日の期間限定で運営する「ヒトツブカンロ ポップアップストア 新宿ミロード店」のメディア内覧会。店を運営するのは「カンロ飴」で知られるカンロだ。新型コロナウイルスの影響で個別取材に変わったが、メディア関係者が次々に訪れた。

若い世代を意識したであろう、ポップなディスプレーとアップルストアのような洗練された店内。この空間にこそ、カンロの決意が込められている。老舗の皮を脱ぎ捨てるという決意だ。

長年続く企業ほど、時代に合わせて事業活動の中身を変えていく。今回は同社の「グミ」への取り組みに焦点を当て、企業の「来し方行く末」を中長期の視点で分析したい。

■お土産ランクのトップ10に入る高級グミ

「ヒトツブカンロは、2012年6月に1号店を東京駅グランスタ(GRANSTA)店にオープン。2015年4月には大阪ルクア イーレ(LUCUA 1100)店もオープンしました。東京駅と大阪駅に直結した両店とも好調で、出張帰りのギフトでもご利用いただいています。今回の新宿ミロード店は初の路面店で、お店の人気ナンバーワン商品『グミッツェル』に注力しています」

カンロの執行役員・内山妙子氏(コーポレートコミュニケーション本部長)はこう話す。グミッツェルは焼き菓子のプレッツェル型のグミで、パリッとした食感が特徴だ。新宿ミロード店は、グミッツェルのイラストを店舗外面にも描いた。内山氏ら関係者の襟元にも、同商品を模したピンズ(徽章)が光る。

「ヒトツブカンロ」の店名には、1粒のキャンディをギフトや自分買いで楽しんでほしい思いを込めた。その代表例であるグミッツェルは、東京駅グランスタのお土産ランキングトップ10に入り、現在まで累計約600万枚を販売。最も高いものは30個入り3800円で、新宿ミロード店では1個から購入可能だ。

1個 140円(税込、以下同)
6個入り 800円
12個入り 1550円
30個入り 3800円
30個入りBOX
提供=カンロ

新型コロナウイルスの影響以前は、観光客や出張帰りの会社員がお土産で買うことが多く、小分けのものは若者が購入するケースも目立ったという。

■「アメ」の会社が、なぜグミにも進出するのか

1991年に入社した内山氏は、もともとデザイナーだった。その後にマーケティング畑を歩み、2012年に創業100周年を記念した直営店事業「ヒトツブカンロ」立ち上げにも参加。新CI(コーポレートアイデンティティ)導入のプロジェクトリーダーを務め、2018年1月から現職に就いた。関係者一丸となった活動だろうが、随所に「デザイン視点」が組み込まれている。

後で述べるが、拡大するグミ市場の大半は小売店で気軽に買える「ふだん使い」。カンロも「ピュレグミ」というブランドで訴求を行う。

これに対して、グミッツェルは贈答用だ。屋台骨であるアメ(飴)にも注力しつつだというが、なぜカンロ飴の会社が、アメとムチならぬ「アメとグミ」なのだろうか。

■アメの売り上げが減る一方で、グミ市場はぐんぐん拡大

菓子市場における「飴菓子」は大きく、(1)飴、(2)グミ、(3)錠菓に分かれる。錠菓とは「ミンティア」(アサヒグループ食品)などのタブレット菓子だ。

飴菓子としての市場規模は、小売り金額で約2680億円、生産金額で約1950億円となっている(全日本菓子協会調べ。2018年)。近年の市場動向は(1)が減少、(2)は伸長、(3)は拡大したが伸びがとまりつつある――と聞く。

その内訳は調査結果で異なるが、ここでは調査会社のインステージ(SRI 組成別市場 販売金額)の数字を紹介しよう。それによれば、2007年と2019年を比較すると、(1)が899億円→777億円、(2)が237億円→424億円だった。12年で、(1)の飴は約14%市場が縮小し、(2)のグミは約80%市場が拡大した。この大半は、一般小売店で買える商品だ。

ちなみに競合も含めた「グミの売れ行きベスト3」はこうなっている。

(1)「果汁グミ」(明治/シェア15.2%)
(2)「ピュレグミ」(カンロ/同9.8%)
(3)「フェットチーネグミ」(ブルボン/同7.5%)

※2019年4月 インテージSRI:SUPER+CVS+DRUG/全国の調査データ

グミの好調さを実感するのが、コンビニの売り場だ。一等地と呼ばれる“レジ前”でも陳列幅を広げた。社会人が仕事中の小腹を満たす、“大人おやつ”としても人気だ。この成長市場の風に乗り、さらなる事業拡大の思いもあるだろう。

■100年以上前に創業して以来、「飴玉」の代名詞に

現在、カンロの業績は順調だ。2019年12月期の売上高は240億円を超え、3期連続で過去最高を記録した。

事業全体に占める飴の割合は約65%(156億円)で、グミは同29%(70億円)、これ以外に「茎わかめ」などの素材菓子が同6%(14億円)となっている。まだ事業の3分の2を「飴」が占めており、これは同社の祖業だ。

カンロは1912年に山口県で宮本政一氏が「宮本製菓所」として創業。世間一般の認知度を得たのは、戦後に同氏が手がけた「カンロ飴」販売(1955年)で、1957年には東京での販売を開始。1960年代から70年代にかけて、“飴玉”の代表商品となった。

今回、筆者も小売店で購入した「カンロ飴」を口にし、イメージを高めながら本稿を執筆した。砂糖と水飴、しょうゆ、食塩を原材料にした日本人にはなじみ深い味だ。ロングセラーブランドだが、最近の若者には「聞いたことがある」「親が好きだった」といった存在か。前述の原材料にリニューアルしたのを機に、新たな顧客を開拓する段階だろう。

同社は“カンロ飴一本足打法”ではなく、1981年にはハーブのパッケージデザインで知られる「健康のど飴」も発売(2018年に刷新)し、ハーブ事業は柱のひとつとなっている。

その会社が「ピュレグミ」でグミ市場に参入したのは2002年。2008年にはグミ市場のトップにたったこともあったが、現在は前述のように2位ブランドだ。

■働く女性に支持される「仕事のおやつ」

グミは、1920年ごろにドイツのハリボー社が発売した。子どもにしっかりとかむ力をつけさせようと開発したといわれ、世界中で愛される同商品は、硬い歯応えが特徴だ。

日本におけるグミ市場は、明治(当時は明治製菓)が開拓した。1980年の「コーラアップ」がさきがけで、1988年に現在もシェア1位の「果汁グミ」が発売された。

果汁グミは当初から女性に訴求し、果汁由来、コラーゲン、適度な噛(か)み心地などが支持された。今もグミの愛用者の7割が女性だという。以前の取材でこんな声も聞いてきた。

「実は私、あらゆるおやつの中で、グミが一番好きです」(30代の女性会社員)
「机の引き出しに、非常食としてグミを常備しています」(医療機関勤務の女性)

昔は子どものおやつだったが、大人が楽しむようになり若い女性も支持する。カンロの「ピュレグミ」は果肉食感も打ち出し、食事の後にデザート感覚で楽しめるという声も聞く。

残された市場は中高年世代と男性だが、若い女性に人気→中高年や男性が関心を持つ、という商品の鉄則も多く、徐々に浸透していきそうだ。

なお、東京五輪もあり、日本のグミは「訪日外国人客への訴求」も注目されていたが、こちらは新型コロナウイルスの影響で、先行きが不透明となった。

■「糖質」に厳しい目が向けられる時代

気分転換や小腹満たしのお菓子として、グミには次の優位性がある。

(1)健康イメージがよい
(2)一定の腹持ちで、後ろめたさが少ない
(3)手が汚れにくい
(4)パパッと簡単
(5)1回当たりのコスパがいい

例えば(1)は、果肉や果汁由来の品が多く、メーカーも訴求に力を入れる。「ピュレグミ」のパッケージにも「ちゃんと果実な、甘酸っぱさ。」「コラーゲン&ビタミンC入り」といったコピーが踊る。特に女性の場合、小腹満たしに「健康」や「美容」がつくと、内なるエネルギーになる――という人が多い。

一方、アメも(2)から(4)はすぐれているが、(1)はどうだろう。

現在の消費者が糖質やカロリーに注ぐ目は厳しい。例えば清涼飲料水でも無糖の「炭酸水」が市場を拡大し、最近の調査では国内飲料市場の「無糖飲料製品」構成比は、平成の30年間で8%から49%(全国清涼飲料連合会調べ)と伸びている。

また、筆者が女性に大人おやつの愛用品を聞いた際に出てきた「やわらか黒おしゃぶり昆布」(ローソン)は1袋で26キロカロリー。これはカンロ飴1粒と、ほぼ同じだ。

カンロもそこは認知しつつ、糖は人間にとって大切な栄養源という姿勢だ。今回は紙幅の関係で詳述しないが、コーポレートスローガンに「糖から未来をつくる。」も掲げる。

■パリパリという咀嚼音のASMRで一躍人気に

こうして考えると、同社の取り組みには「今日のメシ」と「明日のメシ」という言葉が当てはまる。大黒柱の飴が健在なうちに、グミを拡大させようという取り組みだ。2019年2月には松本工場(長野県松本市)に「新グミライン」も稼働し、生産体制も強化した。

「グミッツェル」に象徴されるように、「グミには形状や味わいなど、さまざまな可能性があります」と内山氏は話す。パリパリという五感での訴求も興味深く、新宿ミロード店では、グミッツェルを噛む自分の咀嚼音(そしゃくおん)「ASMR」(聞いて心地よいと感じる音)も体験できる(※)。

※コロナウイルス感染対策のため、3月2日より一時中止している。

「新宿ミロード店」は、住宅に例えれば、新たなモデルハウスだ。ここでさまざまな取り組みを行い、成功事例は、社内の次なる活動に組み込む。老舗の母屋がやっていることは店名(カンロ)にチラリと示すだけ。感性を集める場所でもあるのだろう。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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