スタバが最多出店する千代田区にコメダがひとつもない理由
プレジデントオンライン / 2020年3月13日 15時15分
※本稿は、榎本篤史『東京エリア戦略』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■セブン‐イレブンの出店戦略はどうなっているか
大手チェーン店が出店を考えるとき、企業ごとのエリア戦略や業態にはどんな違いがあるのでしょうか。セブン‐イレブンとスターバックスの事例で考えてみましょう。
セブン‐イレブンは、現在国内に2万1000店近く出店しています。ファミリーマートとローソンは1万5000店ほどです。
注目したいのは、1日のお店の日販です。セブン‐イレブンは約66万円、ファミリーマートとローソンは約54万円です。この10万円以上の差はいったい何なのかということです。
売上は、商品や接客などさまざまな要因が絡んでくるものですが、商品の美味しさやサービスの良し悪しは感覚によるところが大きく、人によって異なるため、数値化することが難しいところです。そこで、普遍的に数値化してはかれるものが「商圏」です。
■コンビニ3社の出店傾向と人口の関係
図表1は、東京都におけるセブン‐イレブン、ファミリーマート、ローソンの出店数を一次方程式で計算し、相関関係を出したものです。相関関係とは、統計的に比例関係にあるかを調べるものです。横軸が市場規模=人口数、縦軸が店舗数になっています。
セブン‐イレブンを見ていただくと、0.7641となっています。これは、人口が多いところに出店している確率が76%くらいということを表しています。同じく、ファミリーマートが35%、ローソンが25%となっています。この数字を見ればわかるように、セブン‐イレブンはコンビニチェーンの中でも、人口量を非常に重要視していることがご理解いただけると思います。
■単純な人口比ではもう成功できない
一方、スターバックスが多く出店しているエリアも見てみましょう。スターバックスが重視しているのも人口量なのですが、セブン‐イレブンとはちょっと違います。
スターバックスの出店について、図表2のような相関図で表しました。昼間人口の量を横軸に、店舗数を縦軸に線引きするとこのように分かれます。
単純な人口量だけで考えれば、世田谷区が一番多い都市になります。しかし、スターバックスの店舗数が多いのは千代田区と港区、渋谷区です。
ここからわかるのは、スターバックスが重視しているのは“夜間人口”ではなく、“昼間人口”だということです。実は、スターバックスはセブン‐イレブンと逆で、人が「流入してくる街」に出店しているのです。
■セブンが重視しているのは“夜間人口”
セブン‐イレブンが出店の際に重視しているのは、人口量は人口量でも“夜間人口”の市場規模です。夜間人口とは、いわゆる居住人口で、そのエリアに住んでいる人の数を指します。その人口量に比例させて、出店数を増やしているわけです。
都内でセブン‐イレブンが一番多いエリアは足立区、世田谷区、大田区などで、出かける街というよりは、住む街のイメージがあるエリアです。セブン‐イレブンはお惣菜にも相当力を入れており、夕飯の助けとしている人も多いのではないでしょうか。
また、人口の「質」の差に加えて、イメージを重視しているところも2社の大きな違いです。スターバックスが多く出店しているのは、千代田区(45店舗)、港区(40店舗)、渋谷区(38店舗)、新宿区(31店舗)、中央区(23店舗)など、人口が多いだけではなく、青山や麻布、六本木、丸の内や渋谷、代官山など、スターバックスのドリンクを手に持って歩くと格好がつくような場所を選んで出店しているのです。
■荒川区には23区で唯一スタバがない
実は23区で唯一、荒川区だけにはスターバックスの店舗がありません。荒川区のメインエリアと言えば、日暮里、南千住、町屋など、魅力ある街はあれど、流行に敏感でオシャレな若者が大勢行くようなところではない気がしますよね。昭和の雰囲気の残る下町エリアなので、年を重ねた方のほうが楽しめるエリアだと思います。
今、このように「イメージ」や「感性」を重視したエリア戦略を取る企業は増えています。図表2を見ると、スターバックスが好きな街、エリアの傾向が、すぐにハッキリとわかりましたね。市場性が高く、店舗数が多いエリアは右上に配置されますが、千代田区、港区、渋谷区、新宿区、中央区と、いかにスターバックスが「人が集まる人気のエリアでお店を展開する」という出店戦略に忠実かがわかります。
このように、セブン‐イレブンは夜間人口が多いエリア順に出店を、スターバックスは昼間人口の多さ+街のイメージとブランドがマッチしたエリアから出店を進めています。大手企業の出店傾向を比較するだけでも、それぞれの商圏に関する考え方、エリア戦略の違いがわかります。
■テイクアウトを含めて考えるスタバの出店
飲食店において、イートインとテイクアウトのどちらを重視するかも、エリア戦略を読み解くヒントとなります。都心部のスターバックスは、店内で飲食するイートインと持ち帰るテイクアウトがほぼ半々くらいと言われています。すると、店舗の席数が50席でも、テイクアウトを入れると100席分が売れるというわけです。
同じくコーヒーチェーンの上島珈琲店は、テイクアウトが非常に少なく、8:2か9:1で圧倒的にイートインが多いのです。そうなると、同じ広さの店舗であれば、スターバックスは上島珈琲店より売上を倍とれるということです。
テイクアウトを利用するお客様が多ければ、必ずしも広いイートインスペースにこだわって出店する必要はありません。オフィスビルの小さな一角、イートインスペースがほぼないようなところに出店しているスターバックスを、みなさんも見たことがあるかもしれません。コーヒーをテイクアウトしてオフィスに戻る、そんな使い方をする人も多いはずです。
■コメダの「エリア戦略×ビジネスモデル」
そんなスターバックスと真逆の店舗展開をしているのが、コメダ珈琲店です。コメダ珈琲店は、ファミレスくらいの大きな店舗を構え、広い駐車場を完備しています。客席を多くして、ゆっくり過ごしてもらう戦略です。
そういう意味では、コメダ珈琲店のビジネスモデルは都心などのエリア向きではないと言えます。1日をかけてゆっくり人が入れ替わるスタイルを都心に持ってこようとしても、うまくいかないでしょう。
まず、広い店舗を確保するのがなかなか難しいです。確保できたとしても、広い分、賃料も高くなります。さらに、滞在する人のスタイルもさまざまです。みんながゆっくりと滞在するわけでもありません。あるいは、ゆっくり滞在したい人が多いけれど席数が少ないため、お客様が入れ替わらずに長い列ができてしまうことも想定されます。
ですから、スターバックスが最も出店している千代田区には、コメダ珈琲店は1店舗もありません。同じコーヒーチェーンでも、これだけ出店戦略、選ぶエリアに違いがあるのです。
以上を見て、同じ大手でもそのエリア戦略には明確な差があることがおわかりいただけたと思います。
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ディー・アイ・コンサルタンツ代表取締役
2004年、ディー・アイ・コンサルタンツ入社。小売業、外食、サービス業、生活関連サービス・娯楽業など、流通全般の成長支援プロジェクトに参画。2017年より現職。著書に『立地の科学』(楠本貴弘との共著、ダイヤモンド社)、『すごい立地戦略』(PHPビジネス新書)などがある。
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(ディー・アイ・コンサルタンツ代表取締役 榎本 篤史)
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