コロナショック相場で個人の資産を守るために必要な3つの視点
プレジデントオンライン / 2020年3月25日 15時15分
■コロナで大混乱の今、投資家は何を考えどう動くべきか
中国湖北省武漢市に端を発した新型コロナウイルスへの感染は、欧州各国や米国に予想を上回るペースで拡大しはじめた。
各国政府は感染拡大を阻止するため、レストランの閉鎖などによって人々の移動=動線を強力に抑制している。それにともない、世界各国で“実体経済”が大きく混乱している。世界の金融市場参加者や経済の専門家の間では、世界経済を支えてきた米国の景気後退が迫っているとの危機感が出はじめ、急速にリスク削減が進んだ。
個人の投資家がこの状況に対応するには3つの視点が大切だろう。
まず1つ目は、大局的な視点を持つこと。世界経済がどう発展してきたかを抑えておくことは今後の展開を考えるうえで重要だ。2つ目は、今何が起きているかを客観的に把握する。3つ目は、今後の展開に関する自分のシナリオを持つ。
この3つは、投資家が今後のリスクに対応し、資産を守るために重要な取り組みを支える一部の要素となるだろう。同時に、自己の資産を運用するにあたっては、リスクを分散し、自己責任で行わなければならないことはいうまでもない。
■人の移動が活発化して実体経済は促進されたが……
大局的に新型コロナウイルスが世界経済に与える影響を考えると、感染の拡大とともに世界経済を支えてきた“グローバル化”に大きな変化が起きていることがわかるだろう。ポイントは、人の移動が大きく制限されていることだ。
グローバル化とともに、世界全体で人の移動が活発化した。その動線が整備され、各国で消費(需要)、生産(供給)、投資などが促進された。この視点が感染拡大による世界の実体経済と金融市場の混乱を考える基本となるだろう。
世界各国が相互の結びつきを強めたのは、冷戦終結後である。旧社会主義国は市場経済に移行し、多くの国が構造改革を進め海外から経営資源を呼び込もうとした。主要先進国は中国をはじめとする新興国に投資を行う。一方で、新興国は外資を誘致しつつ、インフラ開発を進め、工業化の初期段階を歩んだ。また中国は“世界の工場”としての役割を発揮し、自動車などの一大生産・消費市場として成長を遂げた。
そうして世界各国はより効率的な経営資源の再配分や貿易取引、規制の少ない競争環境などを目指して自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を締結した。欧州では独仏の利害対立を解消し平和と安定を目指してEUの拡大が重視された。
■機能低下した世界的なサプライチェーン網
こうしたグローバル化が冷戦後から今日に至るまでの世界経済を支えている。リーマンショック後、2009年7月から米国経済が景気回復局面に移行し、第2次世界大戦後最長の景気回復を遂げることができたのも、各国の連携によって経済運営の効率性が高まったからだ。
一例として、米国ではアップルがiPhoneなどの組み立てを台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に委託し、自社はブランド開発や先端テクノロジーの創出に注力した。それが需要を創出し、世界全体の景気を支えた。わが国企業にもアップルに部品などを供給して業績拡大を実現したケースが多い。
このようにグローバル化が進み、国境を越えた投資や人の移動、物流が促進されることで、より効率的に付加価値を生み出す体制が世界全体で整備されてきた。その中で、米国を中心に主要中央銀行が低金利環境を重視し、債務に依存した投資、生産、消費が支えられた。
ところが1月以降、中国を中心に新型コロナウイルスの感染が各国に拡大したことで、グローバル経済の運営が大きく乱れている。端的に、グローバル化は正念場をむかえつつあるといえる。
多くの国が感染対策のために人の移動を強く制限しはじめた。国境封鎖をはじめ、海外渡航を禁止する国が増えている。人が移動できなくなると、経済は停滞し、グローバル経済の運営には大きなブレーキがかかる。
米アップルが中国での需要低下、供給混乱から1~3月の業績目標の達成をあきらめたのは良い例だ。韓国のように、輸出によって世界のサプライチェーンに組み込まれてきた国はかなり厳しい状況を迎えている。
■金融政策は限界を迎えている
人の自由な移動を認めてきたEUでは国境が封鎖され、事実上、EU・ユーロ圏の単一市場が分断されつつある。イタリアやドイツなど欧州各国は自国の限られた資源を生かして当面の経済を支えなければならなくなっている。感染対策から工場は稼働できず、部品の調達も困難となり、経済の屋台骨である自動車生産が停止に追い込まれる国は増えている。
つまり、新型コロナウイルスが発生し人の移動が制限されたことで、世界経済運営の前提条件である、国境をまたいだ効率的な経営資源の再配分が困難になりはじめた。グローバルに需要と供給が混乱し、経済が麻痺しはじめている。モノが作れなければ需要は満たされない。消費が落ち込めば、企業の業績懸念も高まる。
米国では、航空機大手ボーイングの経営が苦しい。同社は737MAXの運航停止から業績が悪化した。そのうえに、新型コロナウイルスの発生による航空機需要の減少が重なり、同社は米国政府に支援を要請した。それはいかに各国の企業が世界各国の需要などと密接にかかわってきたかを確認する良い例だ。
米FRBをはじめとする世界の中央銀行が金融緩和を強化して経済を支えようとしている。ただ、今起きていることは実体経済にかかわることであり、金融市場では時間の経過とともにさらなる影響が顕在化する可能性がある。また世界的な低金利の中、金融政策は限界を迎えており、過度な期待は持ちづらい。
■世界経済が混乱に陥る最悪シナリオ
今後の展開を考えるにあたっては、複数のシナリオを準備することが重要だろう。そうすれば想定外の事態に直面した際、パニックになることは避けられる。“備えあれば患いなし”を目指すことと言い換えてよいだろう。
重要な論点は感染の影響が長期化するか否かだ。つまり、感染がいつ収束するかによって、今後の展開にはかなりの影響がある。
比較的短期間で感染が収束するなら、グローバルに景況感が幾分か持ち直す可能性はある。ただ、2018年以来、中国経済は成長の限界を迎えた。米国の景気も減速している。世界全体で急速かつ大きな景気の回復は見込みづらい。今回の新型コロナウイルスが世界経済全体の減速、あるいは停滞懸念を追加的に高める一つの要因との認識を持つべきだ。
一方、感染の長期化で人の移動制限が延長されると、事態がさらに深刻になることは避けられない。企業の業績、信用力などへの懸念は高まり、金融市場の価格発見機能が低下する展開も想定される。すでに世界的に金融政策が限界を迎えつつある中、ユーロ圏などで金融システム不安が発生すれば、世界の実体経済(需要と供給)はかなり混乱するはずだ。
■個人の資産を守るたった1つの方法
こうした展開を回避するには、世界各国が協調してグローバル経済を支えつつ、感染対策を徹底するしかない。言い換えれば、各国および国際社会における政治の実力が問われている。
主な取り組みとしては各国が協調して大規模な財政出動を行い、社会・経済を支えることが重要だ。また、各国で基準を統一した感染対策(検査、感染者の隔離に関する方針など)をまとめ、人々が少しでも安心して日常生活を送る環境を整備することも欠かせない。
新型コロナウイルスによる社会・経済の混乱を受け、日々、各国政府、中央銀行などが景気刺激策を発動し、株式をはじめ資産価格は乱高下している。個人が日々の変化に対応しつつ資産を守るためには、こうした大局観をもとに、今何が起きているか、今後どのような展開が想定されるかを常に考えることが大切だ。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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