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もしあなたが西郷隆盛なら、江戸城への総攻撃を中止できますか?

プレジデントオンライン / 2020年4月12日 11時15分

西郷隆盛、最大の偉業「江戸城無血開城」●慶応4(1868)年3月13~14日、江戸・田町で行われた西郷と勝との会談で、15日に迫っていた江戸城総攻撃の中止が決まる。「国の存続」をブレずに考え続けた西郷ならではの偉業だった。(AFLO=写真)

■もしあなたが西郷なら、江戸城への総攻撃を中止できますか?

『命もいらず 名もいらず』執筆にあたり、『大西郷全集』などの資料を読み込みました。その過程で再認識したのは、西郷隆盛は私が思っていた以上に偉大な人物だということです。

ものに動じない胆力、私利私欲を持たない無私の心、人をひきつける人間力、徹底した情報収集と分析力、情報に裏打ちされた先見性、目先にとらわれない大局観、果断な決断力、間違ったと感じたら修正できる素直な心、敵を赦す慈愛の心、挙げればきりがありませんがそのどれもが一級品なのです。

彼のすごさを一番実感できるのが江戸城無血開城です。ご自分が西郷だったら、あの状況で江戸城総攻撃中止の命令を出せるかを是非考えていただきたいのです。

そもそも天皇は徳川慶喜討伐の詔勅を下しています。総攻撃中止は命令違反です。過激な公家も多かったし、自分の配下だって旧幕府勢力を一掃しようと考えている者がほとんど。そもそも西郷自身そう考えていたわけです。だが彼は、命がけで総攻撃中止と慶喜の助命を訴えてきた山岡鉄舟の言葉に耳を傾け、幕府を代表する勝海舟との会談を受け入れた。そして勝も大したものです。彼は西郷に語るわけです。維新のそもそもの目的は何だったかを。

明治維新は日本史上最大のソーシャルイノベーションですが、その目指すところは、植民地化の危機から国を守り、欧米列強から一流国と認識されるだけの国力を持つこと。それを考えれば、江戸の町を火の海にすることや優秀な幕臣の命を奪うことが、いかに本来の目的に反するかを説いたわけです。

■優れたリーダーかどうかは、君子豹変できるかどうかが試金石

現代に通じることですが、イノベーションの目的は変わることではありません。変わることは手段であり、本来の目的は生き残ることであるはずです。変わることは苦痛を伴います。明治維新では大量の血が流れました。だんだんヒステリー状態になってクールヘッドでものを考えられなくなり、本来の目的を忘れてしまった。だが、西郷は踏みとどまりました。優れたリーダーかどうかは、君子豹変できるかどうかが試金石です。西郷は勝の助言に従い、独断で江戸城総攻撃中止を決定します。これは立派な越権行為です。

しかしこのとき、部下は「あの西郷さんが言うのだから」と、一も二もなく従います。そのまま西郷は京にのぼり、過激な公家を説得し、最終的に明治天皇の大御心まで変えてみせます。おそらく反対が出たら、彼は自分の命など鴻毛ほどにも思わず、ただちに腹を切ったでしょう。

そして西郷のリーダーシップは、徹底した情報収集に裏打ちされたものなのです。西郷は若いころ、名君の誉れ高い島津斉彬の庭方役を務めています。このとき、リーダーのあるべき姿と情報の大切さを知ったのでしょう。積極的に藩外の人と交流し、人脈を拡大させています。島津斉彬のような優れたリーダーにひきたててもらえた強運も、彼のすごさなのかもしれません。そして自らも参禅で胆力を磨き、遠島などの苦難に耐えて巌のような精神力を身につけた。西郷隆盛――先人に学ぶなら私の一押しの人物です。

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北 康利(きた・やすとし)
作家
1960年、愛知県生まれ。東京大学法学部卒業後、富士銀行(現みずほFG)入行。2008年にみずほ証券を退職し、作家に。『白洲次郎 占領を背負った男』で第14回山本七平賞を受賞した。

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(作家 北 康利 構成=山口雅之 写真=AFLO)

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