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日経平均「行き過ぎた下落」は本当に割安といえるのか

プレジデントオンライン / 2020年4月7日 15時15分

写真=AFP/時事通信フォト

コロナ相場で「落ちているナイフをつかむ」とケガをする

2月下旬以降、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、世界の株式や為替などの金融市場は大混乱に陥った。金融専門家の間では、今回のコロナウイルスによる混乱はリーマンショックを上回るとの予測もある。

最大の問題点は、いつまでウイルスの感染拡大が続くか、その収束にどれだけの時間がかかるか読めないことだ。先行きが読めない状況に不安を募らせた投資家は、一時、価格の変動リスクのある資産を一斉に投げ売った。

そうした状況下、3月中旬、日経平均株価の平均的なPBR(株価純資産倍率)が0.8倍台まで低下した。それを見た一部の投資家は、「PBRが1.00を下回るほどの株価下落は行き過ぎている」と考えた。PBRが1.00を下回るということは、株価が一株当たりの純資産の価値=解散価値(企業が倒産などで解散する際に残る資産価値)を下回っていることを意味する。

企業が事業を続けて利益を上げられるならば、理論上、PBRが1.0倍を下回ることはあり得ないことだ。ということは、株価は売られ過ぎということになる。

ただ、その判断は慎重に行うべきだ。2020年、世界経済が“マイナス成長”に陥る展開は避けられそうにない。GDP成長率がマイナスになれば、企業の収益は落ち込み、資産の価値にも下押し圧力がかかる。

今後の展開次第では、PBRにさらなる下押し圧力がかかる可能性は排除しきれない。欧米の市場の格言に、「落ちているナイフをつかむな」がある。机から落下するナイフを素手でつかむとケガをするという意味だ。

コロナショックでPBRが急低下した理由

3月6日、日経平均株価の平均PBRは1.00を下回った。3月12日にはTOPIX(東証株価指数)でも同じことが起きた。3月中旬、日経平均株価の平均PBRは0.8倍台前半にまで低下した。

PBR(Price Book‐value Ratio)とは、株価が、一株当たりの企業の純資産(資産総額から負債総額を引いた価値、企業の解散価値)に対して何倍であるかを示す尺度だ。計算式を示すと、PBRは株価を1株当たりの純資産で割ることによって求められる。この定義にもとづけば、今回のPBRの急速な低下は、株価の下落によってもたらされたと考えられる。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界経済は“開店休業”というべき状況に陥った。中国では感染が小康状態に向かいつつあるとみられはするものの、日米欧、さらには南米やアフリカ諸国など新興国において感染状況は深刻だ。

感染を抑え込むために、世界各国が国境を封鎖するなどし、人の移動を制限しなければならなくなった。需要が急速に落ち込むと同時に、感染者の増加や防疫のために生産(供給)活動も低下し、さらにはサプライチェーンも混乱している。

私たちの不安感が市場全体に伝染した

それは、企業業績を悪化させ、失業の増加など経済のファンダメンタルズを悪化させるだろう。また、ワクチン開発には12~18カ月程度の時間がかかるとされる。いつ、感染が収束するか先行きが読めないことへの恐怖心が増幅し、“売るから下がる、下がるから売る”という心理が連鎖し、世界各国で株価がかなり不安定に推移した。その結果、PBRが低下した。

重要なことは、資産の価格(価値)には人々の心理が大きく影響することだ。特に、日次、週次といった短期間の市場や経済の変化は、わたしたちの心理に影響されやすい。リスクに対する感覚、考え方は十人十色だ。

また、わたしたちは周囲の行動につられやすいという側面を持つ(群集心理)。今回、ウイルスの影響がどのように収束するか読めないという不安が市場全体に伝染し、価格変動リスクのある資産が投げ売られ、急速に現金化が進んだ。

信用不安から実体経済が痛んだリーマンショック

PBRが0.8台に低下したあたりから、わが国の株価は不安定な動きをしながら徐々に持ち直しの兆しを示した。一部の市場参加者は、先行きの展開を警戒しつつも、過去のPBRの推移をもとに株価に割安感のシグナルが出はじめたと考え徐々に株を買い戻した。

リーマンショック後、日経平均株価のPBRは1.00を下回った。2009年3月上旬にはPBRが0.8台前半まで低下した。ほぼ同じタイミングで、日経平均株価も最安値を付けた。

そうした経験則にもとづいて、3月中旬から下旬にかけて、わが国の株式市場全体で株価が割安に放置されていると考え、株式に資金を振り向ける市場参加者が増えたと考えられる。この見方は、3月中旬以降の米国株の反発などをもたらした一因と考えられる。

PBRは株価の割安、割高を考える尺度の1つではある。それをもとにするなら、“これまでの状況に変化があるか否か”を冷静に考えなければならない。リーマンショックの際、金融システム不安を発端に、世界全体で株価、債券などの価格が急速に下落し、信用不安が高まった。

その結果、実体経済が痛み、生産、消費などが落ち込んだ。企業の保有する資産価値も引き下げられた。そうした状況が現れた上で2009年3月上旬、世界全体で株価がリーマンショック後の安値を付けた。

今、株価は本当に割安なのか

一方、今回の新型コロナウイルスの影響を考えると、金融市場よりも先に実体経済が痛みはじめている。欧米の感染状況は深刻化し、世界各国で企業業績の悪化懸念は高まっている。それにより企業が保有する資産の評価価額は引き下げられる可能性がある。その際の株価の水準にもよるが、状況によってPBRにさらなる下押し圧力がかかる展開は排除できない。言い換えれば、過去のパターンにもとづいた投資の判断が適切か否か、不確実性は高い。

3月中旬の時点で、PBRが0.8台をつけた日経平均株価を割安と判断することは難しい。見方を変えれば、先々の経済環境を楽観する市場参加者はいまだに多いといえるだろう。

今後の展開を考えたときに重要なことは、いつ、感染が収束するかだ。それには、ワクチンの開発が欠かせない。開発までの時間を考慮すると、当面の世界経済には下押し圧力がかかりやすいといえる。

すでに、米国では失業率が20%、あるいはそれ以上に達するとの警戒が出ている。米国の個人消費が近年の世界経済を支えてきた。米国の雇用環境の悪化は、世界全体にとって大きなリスクだ。その影響がどの程度に達するかは予想がかなり難しい。さらに、人の移動が寸断されたことにより、中国経済の減速は避けられない。欧州地域ではマイナス成長が2四半期超続く、本格的な景気後退のリスクが高まっている。

不透明感高まる世界経済の先行き

市場参加者の中には、3月中旬から下旬にかけての日米などの株価反発は“浮かれすぎ”と指摘する者がいる。米国が2兆ドル(約220兆円)の経済対策を発動し、主要国を中心に世界の中央銀行が市場に流動性を供給したことがリスクテイクを支えた可能性はある。

同時に、多くの人が自由に外出できない状況の中で現金給付などの対策を打ったとしても、消費が増えるとは言いづらい。さらに、各国は国境を封鎖するなどして自国中心の経済運営を目指さざるを得ない。新型コロナウイルスの発生以前に比べ、効率的に経済を運営することは難しくなっている。そう考えると、雇用、企業経営などが一段と不安定化するリスクは軽視できない。

世界経済を取り巻く不確定要素は増大している。長い目で考えると、徐々に資産の価値は経済の基礎的な条件=ファンダメンタルズなどに収斂すると考えられる。ただ、2月下旬以降、世界の金融市場では先行きが読めないという恐怖心が急速に高まり、過去に例を見ないほどの勢いで現金化が進んだ。そのため、資産価格の変化を理屈で説明することは難しくなっている。

今後の資産運用を考える上で、過去のパンデミックの発生事例、その際の経済の変化などを把握するなどして変化への対応力を高める必要性は増している。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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