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1兆ドル男ビル・ゲイツの「手書きメモの魔力」

プレジデントオンライン / 2020年4月18日 11時15分

マイクロソフトの創始者 ビル・ゲイツ氏(時事通信フォト=写真)

個人資産は約1000億ドル、創業したマイクロソフトの時価総額は約1兆ドル。そんなビル・ゲイツ氏の成功の鍵は、ペンとメモ帳だった! 米在住ジャーナリストが、欧米の最新情報をレポート。

■みんな手書きのメモで成功者になった

ビジネスにおけるメモ取りのメリットや効果的なメモ取りのノウハウについては米国のビジネス界やメディアでも話題になる。その際によく引き合いに出されるのがマイクロソフトの創始者ビル・ゲイツ氏である。本人もインタビューで自分がメモ魔であり、綿密なメモを取る人には一目を置き、本を読むときにも反論点などを余白にびっしり書き込むと語っている。

ビジネス支援ソフトで世界を制覇したゲイツ氏だが、会議にはノートとペンだけ持って出席し、部下任せでなく自ら綿密なメモを取るそうだ。その様子をつぶさに観察した社員のブログによれば、ゲイツ氏はメモを紙面の上から下に書くのではなく1ページを4分割して疑問点を各ページの一番下に記していたという。

英国拠点の多国籍企業ヴァージン・グループの創設者リチャード・ブランソン会長も、講演会で同席したゲイツ氏が演台に上がるとジャケットのポケットからクシャクシャになった紙を取り出し、紙を伸ばしながらメモを読み、みごとに講演をしたのを見てうれしく感じたと証言している。

高校を中退後に起業、独自の発想と実行力で今も資産5700億円を誇るブランソン会長もまた自ら認めるメモ魔で、「メモ取りをヴァージンの企業文化にした」とし、ブログに次のように記している。

「思いついた途端に、自分の(そしてもっと重要なのは他人の)アイデアを書き記すペンがなかったら、どうなっていたかわからない。……ヴァージングループで最も成功した会社は意外な瞬間に生まれた。我々に自分のメモを見る習慣がなかったら、いずれも実現していなかった」

「ビル・ゲイツのメモの取り方」に関しては、製薬開発会社メドペイスの副社長で神経科学者でもあるジェームス・ヴォルノフ博士が、自身のブログで詳細に解説している。ヴォルノフ博士によれば、紙面を分割して使うゲイツ氏のメモ取りはおそらく「コーネル式」をベースにしたものだという。「コーネル式」はアイビーリーグのコーネル大学のウォーター・ポーク教育学部教授が試験に備える学生向けに、効果的な講義メモの取り方として1940年代に開発したものだが、いまだにメモ取りの王道として多くの大学が学生に推奨している。

ビル・ゲイツ氏のメモのルーツ「コーネル式」

基本的には図のように、ノートの各ページの左端から4分の1程度のところに縦線を引き、線の右側にメモを記し、左側にはそのメモについての自分の疑問点などを書く。そして紙面の下5センチ位に余白を設け、そこにはそのページにメモした概要を記す。

ヴォルノフ博士は、自らが「コーネル式」の愛用者で、以前は左端余白に決定事項や行動計画を記していたが、今はゲイツ氏に倣って下部の余白に疑問点をメモして次の会議に備えるようにしたという。博士は、会議中のメモが他の出席者へのパワフルなメッセージになることも強調する。会議に集中しているというシグナルになるからだ。また周囲のメモの取り方で、どの発言が重要視されたかもわかる。

■メモは脳の情報処理能力をフル回転させる

メモ取りには脳の記憶を助ける外部記憶保存装置としての効果と脳へのプログラミング(編集情報の入力)効果があるが、重要な利点は後者だというのが多くの研究者の見解だ。つまり、認知科学的に見ればメモの役目は後で思い出しやすくするというだけではない。メモでは見聞きしたすべては書ききれないから、脳はその場で情報処理を強いられる。このため、単なる理解だけではない深い考察が生まれるということなのだ。見聞きした内容をそのまま記すのではなく、自分の言葉にし直すことでこそ、メモの価値は高まる。

米国におけるメモ取りの研究のほとんどは大学生の学習能力アップを目的としたものだが、心理学者のマイケル・フリードマン博士は、ハーバード大学の研究報告「メモ取りに関するメモ」の中で、メモ取りはビジネスマンにとっても意思決定、問題解決、そしてチームワークの効率化に役立つとしている。

フリードマン博士によれば、メモ取り法は大別すればリニア式(一般的な文字による書記)とノンリニア式(スケッチの利用や本人独自の分類、マッピング化など)があるが、その効果にあまり差はないという分析だ。一方で、ノンリニア式のほうが効果的だとする研究報告もある。多くの大学が推奨するコーネル式には両者をミックスできるという利点がある。

■メモの効果の比較

メモ取りに関する研究者の近年の議論の的は、手書きのメモとノートパソコンや携帯端末のキーボードにタイプするメモの効果の比較だ。研究者の間でも意見は分かれているが、プリンストン大学とUCLAの共同研究が3種の実験の末に出した結論は「ペンはキーボードより強し」だ。

同研究ではまず、学生を手書き組とパソコン組に分け、学生が知らない内容の約15分間の講演をビデオで見せ内容をメモさせた後に、記憶を要する別の作業を5分間させてから講演内容の理解度をテストした。

手書きのほうがより理解度が高まる!

その結果、講演で述べられた事実関係に関する質問では両者にほとんど差はなかったが、考察を要する概念的な質問では手書き組が優った(グラフ)。この結果を見て、「パソコン組の理解度が低いのは、パソコンでは聞いた通りの言葉をタイプしがちになるのが要因ではないか」という推察に基づき、実験2ではパソコン組に自分の言葉でメモするよう指示したところ、パソコン組のテスト結果はさらに低下した。メモできる文字量はパソコン組のほうが多いことに注目した実験3では、メモを見直して試験に備えるよう指示して1週間後にテストしてみたが、やはり点数は手書き組が優っていた。

この論文の著者のP.A.ムラー博士(プリンストン大学)とD.M.オッペンハイマー博士(UCLA、現カーネギー・メロン大学)の見解によれば、パソコンへのメモでは聞いた言葉のタイプに追われ、内容を理解し脳にプログラミングするというメモの本来の利点がなくなる可能性があるというのだ。

(エリコ・ロウ 写真=時事通信フォト)

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