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素手で便器掃除、黒髪指導、下着は白…ドイツ育ちの作家が驚く「校則」の謎

プレジデントオンライン / 2020年4月23日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/D76MasahiroIKEDA

なぜ日本の学校には「校則」があるのか。ドイツ育ちの作家サンドラ・ヘフェリンさんは「ドイツでは校則がなく、生活態度は基本的にノータッチ。学校は勉強をするところで、子どもの人間教育は家や親がやるものと考えられています。日本とは真逆のようです」という――。

※本稿は、サンドラ・ヘフェリン『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■ドイツで「ニッポンの学校」に恐れおののく

中学生の頃、私はドイツに住んでいて現地の学校に通っていましたが、毎週土曜日に通っていた日本人学校の友達の家で見た「ぼくらの七日間戦争」という映画は衝撃的でした。

毎朝スカートの丈やら前髪の長さなどを先生にチェックされるバリバリの管理教育の中学校生活が映し出され、その後生徒たちが学校と闘うというストーリーですが、初めて見た時は、これはあくまでも映画の中のことであり、まさかニッポンの中学校の現実だとは思ってもみませんでした。

しかしその後、日本から送られてきた中学生向けの雑誌で校則に関するすさまじい体験談を読み、ドイツにいながら「ニッポンの学校」というものに恐れおののきました。

載っていた記事は「強制的に髪の毛を先生に切られた」とか、「女子のスカートの長さが決まっている」だとかドイツの生徒たちからしたら信じられない内容のものばかりでした。

私が通っていたのは、ギムナジウムという将来は大学進学を希望する生徒向けの学校でしたが、同級生は成績優秀であっても、当時流行りの膝がビリビリに破れたジーンズを穿いて登校してましたし、イヤリングもサイズが大きい大人びたものをつけていました。

一方、日本から送られてくる中学生向けの雑誌には「校則に縛られる生徒たち」という別世界のことが描かれており、自分なりにいろいろと感じるものがありました。

■ドイツでは身だしなみ、学校外のことはノータッチ

日本の雑誌で読んだ衝撃的な校則についてドイツ人の同級生に話そうとしても、ドイツの学校には校則そのものがないため、上手く説明できませんでした。「日本の学校には細かいルールがあって……」と言いかけると、なんだか遅れた国の話を聞いているかのような目で見られ複雑な心境になったことを覚えています。

もしかしたらドイツの学校にも、規則が書かれた紙というか文書は校長室などに保管されているのかもしれません。

しかし、なんせ生徒手帳なるものがないため、私の知る限り生徒がそれを確認したことはありませんでした。校長先生などにお願いすれば、学校のルールが書かれた紙を見せてもらえるのかもしれませんが、大きな話になってきそうです。

結局、筆者がドイツでギムナジウムに通っていた9年間、「これが学校のルールです」と紙を見せられたことはありませんし、口頭で身だしなみ等に関するルールを告げられたこともありません。当然ながら、「学校の規則についてもっと知ろう」とワザワザ職員室に確認しに行く生徒も皆無でした。

もちろん無断の欠席が続いたり、宿題をやらなかったりといったことは記録に残るし、それに対する対応は厳しいのですが、生徒の身だしなみだとか学校の外での生活態度についてドイツの学校は基本的にノータッチなのです。

■日本は「家庭」と「学校」の住み分けが不十分

こういったことが可能なのは、ドイツでは「学校は勉強をするところであり、子どもの人間教育は家や親がやるもの」といういわば「住み分け」ができているからです。

日本の学校の給食といえば、単にランチを食べる、という意味合いだけではなく「食育」の要素もあります。実は私はこの日本のスタイルが好きなのですが、やはりドイツの学校で食事を通して生徒に食育をするのは難しいと思います。

というのも、ドイツでは食事について「個」や「各家庭の方針」が尊重されているため、全員の生徒に「好き嫌いなくバランスよく食べましょう」などと教えることは難しいからです。

ベジタリアンの家庭もあれば、宗教上の理由から子どもに牛肉や豚肉を食べさせない親もいます。そういったことに先生が対応するのは不可能であり、食事に関しては全て親や家族に責任があるという考えです。

食事に限らず、服装や身だしなみなどの生活態度についても責任は全て家庭にあるとされているため、学校がそういったことに「口出し」することはありません。

生徒にSNSを使うことを禁じたり、学校の中どころか「ドライヤーを使うことは禁止」と家庭の中にまで校則という名のもと介入しようとするニッポンの学校とは真逆です。

■「便器の素手掃除」が美談に仕立て上げられる

日本では定期的に「素手で学校の便器を掃除する中学生」の話がニュースになります。不気味なのはこれが「美談」として報じられることです。

たとえば17年に埼玉県の熊谷市立東中学校で生徒による「素手での便器掃除」が行われ、これについて報じたニュースでは、同様のトイレ掃除を8年続けている別の中学校の校長先生の言葉「無言清掃を通じて客観的に自分を見る目と心が育まれ、生徒たちはどうすれば人のために役立つかと自ら考えるようになった」を紹介しています。

しかし、相手はあくまでも「トイレ」です。どんな病原菌がいるかも分からず、生徒が感染症になったりする危険性は誰も考えなかったのかとショックを受けました。

一般社会でトイレ掃除がプロの仕事であるのは、「掃除を素手でしない」のは言うまでもなく、適切な対策とノウハウがあるからこそ求められるからであり、そのおかげで私たちも快適にトイレが使えて病気にもならずに済むのです。

ところが日本の教育現場では生徒の健康はどうでもいいと言わんばかりで、ニュースでも「素手にためらいもあったけど、便器がどんどん白くなり達成感でいっぱい」という感想を「生徒の声」として紹介し、この話を美談に仕立て上げているのです!

■便器を磨けば、精神も磨かれる……

感染症はもとより、こんな教育を続けていては、素手で便器磨きをやらされ続けた女子中学生が将来大人になり、「セクハラする男性上司」に堂々と「ノー」が言えなくても不思議ではありません。

素手でのトイレ掃除に対し子どもに「ノー」を言うことを許さないニッポンの教育。本当にいつの時代のことかとこの手の話を聞くとめまいがします。

さらに驚くのは、日本では素手でのトイレ掃除が「精神も磨かれる」とか「日本を美しくする」などとちょっぴり右翼的な思想ともつなげられることが少なくないことです。その思想自体は自由かもしれませんが、学校でやることではないと思います。

■外国人にとってニッポンの学校の校則は「未知の世界」

先ほど「ぼくらの七日間戦争」の話を書きましたが、あれから30年以上経った今でも、多くの外国人にとってニッポンの学校の校則は「未知の世界」そのものです。

日本人男性と結婚し、子どもが日本の中学校に通っている外国人女性に関してもそれは同じで、いかに日本のことをよく知っていても、子どもを日本の学校に入学させたらその校則に親がビックリ! というケースは多いのです。

80年代の後半に日本に来て、日本人の男性と結婚した3人の子どもがいる東京在住のスウェーデン人女性は、日本語がペラペラで、仕事も持ち地域にもなじんでいます。

子どものPTA活動などを通して日本の教育とも関わってきた人物ですが、そんな彼女でもビックリ仰天したのが「日本の校則」だといいます。

彼女自身は金髪で、日本の中学校に通っていた娘さんは「ハーフ」だと分かる容姿です。もともと教育熱心であるため、学校に顔を出すことも多く、関係者も「生徒の母親が外国人である」という事実は把握しています。

それにもかかわらず、ある時、彼女のもとに学校の先生から電話がかかってきて、先生にこう確認されたのだといいます。「失礼ですが、お子さんの髪の色は子どもの時と同じ色ですか?」と。

■「茶髪証明」で幼少期の写真を求められる

初めは質問の意味が分からず、「はい、そうです」と答えると、先生は「念のために幼少期の写真を提出していただけないでしょうか」と言われたというのです。

他の母親や娘と話す中で、ようやく彼女は「日本の校則では黒髪のみが許されていて、他の色の髪の場合は、生まれつきその色であることを証明しなくてはいけない」というトンデモ校則があることを知ったとのことでした。

こんなにもくだらない校則があるのかと母親としてショックを受けたそうですが、面白いのは、彼女が先生からの電話を「はい、もともとその色です。それ以外に何か用ですか? 切りますよ」と電話を切ったことです。

改めて考えてみると、人に対して「あなたのお子さんの容姿について確認します」と告げること自体が失礼です。ところが「校則」という名のもと、この手の行為がまかり通ってしまうのがニッポンの教育現場です。

■「頭髪指導」や「地毛証明書」がまかり通る愚

生まれつき髪が茶色の高校生が、「教師から黒染めを強要され精神的な苦痛を受け不登校になった」として17年に裁判を起こしました。この裁判をきっかけにメディアでも髪にまつわる理不尽な校則について話題になりました。

全国的な調査で明らかになったのは、「生まれつき茶髪や金髪の高校生の2割が黒染めをさせられている」という事実です。

少女が裁判を起こした大阪府では、17年当時府立高校の9割が何らかの「頭髪指導」を行っていることが分かりました。朝日新聞の東京都内の調査によると、都立高校の6割が髪の色が黒ではなかったり直毛ではない生徒に対して「地毛証明書」の提出を求めていました。

訴えを起こした少女も高校生でしたが、不思議なことに「髪の色」に関しては「中学校」よりも「高校」のほうが厳しいようです。全国の高校生の2割が黒染めを経験していますが、中学生は1割程度です。

■「制服の時の下着の色は白とする」という謎校則

ただし、髪の色に限定せずに「校則全般」を見ると、やはり中学校のほうが厳しいようです。スカート丈の規定や、眉毛を整えてはいけない、整髪料を使ってはいけない、など勉強とは関係のない「生徒個人の身なり」について細かく決められています。

サンドラ・ヘフェリン『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)
サンドラ・ヘフェリン『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)

そんな中でも鳥肌が立ったのが「下着」に関する校則です。

学校によっては「制服の時の下着の色は白とする」という校則があります。また体育の授業の際、体操服の下に肌着をつけてはいけないといった、どう考えても人権侵害としか思えない規則のある学校も見られます。

指導する先生側が生徒の下着の色をどのようにチェックするかと考えると、かなり気持ち悪いです。たとえそれが制服の上からの「目視」であっても、先生が変な犯罪を起こす可能性があると思います。実際に近年、先生による盗撮事件が多発しています。

犯罪と校則は関係ないという声が聞こえてきそうですが、校則の名を借りて現場の先生に、下着の色に言及しても良いというお墨付きを与えること自体にリスクがあると思うのです。

もしも会社の社長が部下の女性の下着の色について言及したら、エロオヤジとして総スカンを食らう上、ヘタをしたらニュースになることでしょう。ところがニッポンの学校ではこのような人権侵害がまかり通っています。

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サンドラ・ヘフェリン 著述家
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから‼』(中公新書ラクレ)、『満員電車は観光地⁉』(原作、漫画・流水りんこ/KKベストセラーズ)、『爆笑!クールジャパン』(原作、漫画・片桐了/アスコム)など。ホームページ「ハーフを考えよう」

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(著述家 サンドラ・ヘフェリン)

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