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死亡者が多発する「究極の3K」…中国・配達ドライバーの恐ろしすぎる実態

プレジデントオンライン / 2020年4月23日 11時15分

中国の配達バイクが並ぶ… - 筆者撮影

■「あー⁉ すんませんじゃねえだろ! サンダルなんかで来やがって」

コロナ蔓延による緊急事態宣言の発令を受け、日本でもウーバーイーツや出前館などのフードデリバリーの需要が高まっている。スマホを使ったサービスが盛んな中国では、日本より一足先にフードデリバリーが普及しているが、ドライバー同士の競争は激しく、悲惨な話も聞こえてくる。

少々前の話だが、2016年夏には、到着時間が遅れた男性配達員に対し、男性客が玄関先にて大声で不満をぶつける動画がニュースで流れた。監視カメラに偶然映っていたようだ。動画を見ると、薄暗い廊下で次のような会話が記録されていた。

「てめえ、病気か! 頭おかしいんじゃねえの? 遅すぎんだろ、1時間半も遅れやがって。どういうつもりだ?」
「今日は雨で大変だったんです。道も混んでいて……」
「俺には関係ねえだろ、何時に注文したと思ってんだよ!」
「どうもすみません。すみません」
「あー⁉ すんませんじゃねえだろ! サンダルなんかで来やがって」
「水たまりが多くて、サンダルでないと動きにくかったんです」
「だったらケツまくって来いよ、雨だったから家から泳いで来たんか?」
「今日はすごい遠回りして来たんです」

■中国のデリバリー産業の取引量は9兆円を超す

「だから何だよ、おまえ損害賠償しろよな! さもないとクレームつけてやるぞ! それ、俺のもんだよな? 見せてみろ」(配達員が持ってきた段ボール箱のようなものを指差す)

配達員が箱を手渡すと、男性は受け取ってドアを閉めようとした。だが次の瞬間、男性はドアを開けて箱を地面へと叩きつけ、配達員の顔を指差しながら「ノックすんじゃねえぞ!」と捨て台詞を吐き、バン! と勢いよくドアを閉めた。配達員は箱を拾い上げ、トボトボと去って行った。

この動画を紹介した女性ニュースキャスターによると、男性客は「おまえは一生メシの配達しかできねえんだ!」などの罵声も浴びせていたという。ネット上には「かわいそう、抱きしめてあげたい」「ひょっとしたら、男性客は友人たちを招いてみんなで食事しようとしていたのに、デリバリーが遅れてみんな帰ってしまってメンツが丸つぶれになったのかもしれない」などの声もあったという。

中国のインターネット調査会社Trustdataによると、19年の中国のデリバリー産業の取引量は6035億元(約9兆6560億円)に達しており、前年より30.8%増加。また、配達員の人数は、デリバリーのサービスの二大巨頭である「美団(メイトゥアン)」は270万人、「餓了麼(ウーラマ)」は300万人の登録があるとされ、500万人前後が働いていると見られている。

■警察に払う罰金より、配達遅延の罰金のほうが高い

美団はイエロー、餓了麼はブルーが企業カラーとなっていて、中国の都市部ではこの2色の色のバイクが常に道路上を行き交っている。スマホアプリで注文するのだが、非常に使い勝手がよく、割引キャンペーンも頻繁に行われおり、人気が高い。

市場の拡大とともにデリバリースタッフによる事故が頻発しており、中国ではすでに一種の社会問題となっている。浙江省杭州市の地元メディア杭州日報はデリバリースタッフたちを取材。彼らは交通違反を繰り返す理由について、こう答えている。

「お客さんは注文したらすぐに届けてほしいと思っているので、遅れると罵声を浴びせられたり、にらみつけられたりする。会社からも規定時間内に届けるよう指示されていて、遅れると厳しく処分されるんです」

ニュース映像では、警察官が困惑した様子で背景を説明していた。

「デリバリースタッフたちは、命がけで配達しているというのが実情です。交通違反をして警察に支払う罰金よりも、配達が遅れて会社に支払う罰金のほうが高い。違反をしてでも速く届けようという考えになるのです」

■飲酒で無免許。配達員が業務中に死亡する

結果、スタッフたちは猛烈に急いで配達をこなすことになる。私(筆者)も中国でフードデリバリーを注文したことがあるが、ドアを開けるとスタッフはほぼ無言でビニール袋を手渡してきて、受け取るとせわしなく去って行った。

後日、スタッフに連絡を取って話を聞くと、「規定時間を1秒でも過ぎるとタイムオーバーと見なされる。12分以上の遅れで30元(約480円)、苦情が入ったら200元(約3200円)が給料から引かれてしまいます」と教えてくれた。ピーク時には、6分に1件という凄まじいハイペースで注文をこなしているという(詳細は拙著『ルポ デジタルチャイナ体験記』に記載)。

デリバリースタッフの交通事故は日々伝えられており、江蘇省の地元紙・楊子晩報には、こんなニュースがあった。

「餓了麼のドライバーが3月31日11時ごろ、赤信号を突破したためその場にいた警察から大声で注意を受けたが、無視して逃走。警察はバイクで追跡し、ドライバーは車両ごと倒れ込んで逮捕された」
「餓了麼のドライバーが3月20日21時ごろ、配達中に運転を誤り転倒。ヘルメットをかぶっておらず、意識不明となった。体内からはアルコールが検出されたほか、無免許運転だったことがわかった」

■「死んだんです! 配達はできません!」

動画サイトでは、事故直後と見られる動画もアップされていた。

浙江省温州市で、若い配達員がタンクローリーと衝突。救急車が駆けつけたが、救助の甲斐なく、その場で死亡した。配達員の母親と見られる家族が現場に駆けつけ、変わり果てた姿を見て泣き崩れてしまった。野次馬たちが見守るなか、配達員の携帯電話が鳴り、母親が出ると「まだ届かないんですか?」と客からの催促の電話だった。母親は「事故があって、配達できなくなりました」と伝えたが、電話は鳴りやまない。母親はとうとう感情を抑えられなくなり「死んだんです! 配達はできません!」と叫んだという。

上海市政府の発表によると、19年1〜6月の半年間で、宅配便やデリバリーによる事故は325件発生し、5人が死亡、324人が負傷した。企業ごとの割合を見てみると、餓了麼34.2%、美団33.5%、ネットスーパーの「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」8.9%、宅配便の順豊3.4%、その他20%となっている。全体の3分2を大手2社が占めている計算だ。

1分1秒を惜しんで配達に励むのは、スタッフたちが金銭的に必ずしも裕福ではないことにも原因がありそうだ。

■「急いでいるときは、逆走しないと間に合わない」

新民晩報によると、上海市内でキャッシュレス決済を悪用した盗難事件が発生した。

「19年11月、上海市内のレストランで働く女性のもとへ顔馴染みのフードデリバリースタッフが来店し、店内で休憩していた。スタッフは女性が目を離したスキに、テーブルの上に置いてあったスマホを操作し、知人の口座に3万元(約48万円)を送金。知人には『間違えて送金したから返金してほしい』と電話で伝え、3万元を騙(だま)し取った。

スタッフは金を騙し取ったあと、ネット上のギャンブルで、わずか10分程度で3万元を浪費。冷静になって自身の愚かさに気づき、自首した」

テレビ局・北京電視台がデリバリースタッフたちを取材したところ、「急いでいるときは、逆走しないと間に合わないし、赤信号を突破することもあります」「会社との契約書は特にありません」などと回答。事故が起きても十分な補償が得られないという。

こうした状況に対応すべく、警察ではドライバーに対してオンラインでの安全講習を行うなど、安全運転を心がける誓約書にサインさせるなどの対応を講じている。

日本でも都市部を中心に増え続けるフードデリバリーだが、安全運転でお願いしたい。

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西谷 格(にしたに・ただす)
フリーライター
1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。主な著書に『この手紙、とどけ! 106歳の日本人教師歳の台湾人生徒と再会するまで』『中国人は雑巾と布巾の区別ができない』『上海裏の歩き方』、訳書に『台湾レトロ建築案内』など。

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(フリーライター 西谷 格)

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