年収1253万小池百合子vs2800万安倍晋三vs1900万蓮舫
プレジデントオンライン / 2020年5月13日 11時15分
■議員報酬返納は、国民の生活苦に寄り添う覚悟を示す
経済危機に国民があえぐ一方、政界では20%議員報酬返納や10万円一律給付金の使途を巡る議員の給与に関する議論が発生した。議員報酬返納という行為については、今後もますます厳しい経済局面を迎える中で度々議論が起きるものと思う。
議員報酬返納は、国民の生活苦に寄り添う、という覚悟を示し、政府が進めようとする経済的に厳しい政策に対する社会的コンセンサスを醸成するという点では意味がある。逆に民が塗炭の苦しみを味わう中で、国会議員等だけが巨額の議員報酬にあぐらをかいている状態であれば、国民からの協力が得られずに政策の効果が落ちる可能性がある。議員報酬返納は国会議員が政策を進めるうえでの上手なカードの1つと言えるだろう。
他方、現在予測されている巨額のGDPマイナスの未曽有の不況の中で、お金を使うべきではなく節制すべき、というメッセージを国民に送る可能性も指摘されている。議員報酬は議員自らが決めることではあるものの、国民に自ら給与を削る姿を見せることは財布の紐をさらに固くする社会イメージを作り出すことになるかもしれない、という意見だ。これも一理ある主張であり、どのような政治的な行為にもメリット・デメリットは存在しているものだ。
■報酬に対する日米政治家の大きな意識の違い
米国のドナルド・トランプ大統領は「1ドルしか受け取らない」と選挙期間中に公言し、実際にその給与の大半を寄付に充てている。同大統領は様々な批判を受けてはいるものの、米国大統領の年収・約4500万円を丸ごと溝に捨てて大統領としての職務に邁進(まいしん)しており、本来受け取るべき給与の寄付先は定期的に公表されている。このほかに米国での過去の政治家で、年俸1ドルで働いた人々として、ニューヨーク市長時代のマイケル・ブルームバーグ、カリフォルニア州知事時代のアーノルド・シュワルツェネッガーなど多数の事例が存在している。これらの人々の存在は公のために働くという米国特有のボランタリー精神を体現したものと言えるだろう。
一方、日本では4月27日に可決した国会議員の歳費を1年間20%削減する改正歳費法によって、月額歳費129万4000円の20%、つまり約25万円程度を毎月減らすことが決まった。ボーナスである期末手当約320万円はそのままであり何ともずるい対応ぶりだ。先ほどの議員報酬返納の功罪から考えると、このような「やった感」だけを出す無駄なパフォーマンスが最も害悪と言えるだろう。
■議員報酬20%返納で全会派が一致してお茶を濁す日本
まず、国民と共に苦難の道を歩むならば、「歳費は数カ月間ゼロ、秘書給与の一部は雇用調整助成金と同額を支払う」「政党助成金や立法事務費等の支給停止」「期末手当は当然に廃止」「持続化給付金200万円受領」「事務所運営費用は政府系金融機関から貸付」が当然だろう。これこそが政府が自粛を要請している民間企業の現状だからだ。議員事務所というものは、中小零細企業と変わらない規模であるため、これで運営できるなら自ら実践してやってみたらいいと思う。
筆者はいずれかの政党がこの程度のことは自主的に実施するかと密かに期待していたが、議員報酬20%返納で全会派が一致してお茶を濁したことは残念でならない。実際、議員報酬の20%返納のみで、期末手当まで貰う人々に心から共感する国民などほとんど存在しないだろう。
ところで、政治家に支払われる報酬について、日本の基準は根本的に疑問に思うところもある。コロナウイルスによる社会危機、緊急事態宣言による経済危機が起きている現在でも、すべての国会議員の仕事量が同じであるわけではない。まして、政権入りしているか否かによっても職務・責任も大きく異なることになる。ところが、日本の政治家に対する報酬システムは連日のように働く内閣総理大臣とその他の国会議員の間に大きな差が存在しない状況になっている。
たとえば、安倍晋三首相の年収は月額240万円で期末手当なども入れると約4000万円だ。内閣総理大臣は2012年の野田内閣時代から給与も期末手当も30%返納しているため、実際の安倍首相の受け取り年収は約2800万円ということになる。一方、今回の歳費法改正に伴い、国会議員は約2200万円のうち月額20%・年間約300万円を引いた報酬を受け取る。連日のように激務をこなす安倍首相と、たとえば議場で呆れた質問をする蓮舫氏などの国会議員の給与差が、今回の返納後は1000万円程度しかない。政府全体の運営を担う責任者の給与と重箱の隅をつつくスキャンダルを議論する人に与えられる報酬の差異として些か疑問がある。
今回のコロナウイルス対策で目立った活躍をしている各都道府県知事の所得は幾らだろうか。毎日新聞が報じた都道府県知事の2018年の所得報告書(給与以外も含む)によると、対象となった42都道府県の給与所得の平均は1876万円だった。最高額は神奈川県の黒岩祐治知事の2491万円で、千葉県、宮城県、群馬県、埼玉県などがトップ5だ。
■最も所得が低い知事は小池百合子知事だった
最も所得が低かったのは東京都の小池百合子知事である。東京都の小池知事の給与は1253万円しかなかった。これは約2900万円の東京都知事の給与を小池都知事が自ら減額してきたことによる。これは知事給与の受取額を50%以上減らした国内では驚異的な事例と言えるかもしれない。今回、知事の所得額を改めて調べた際に少々驚きを覚える数字であった。
ちなみに、海外では地方議員給与は無報酬かそれに近いものも多く、日本の中堅都市以上の地方議員のように、地方議員を専業として暮らすことは必ずしも一般的な姿ではない。地方議員は地域のことを扱う立場であり、市井の人々と近い感覚でまちづくりにボランタリーで寄与するイメージなのかもしれない。
もちろん、退職金、年金、支給経費なども別途考慮する必要があるが、このような給与削減額の数字を並べてみると、現状で国民が味わっている経済的な苦しみとは比較にならないものの、日本国内の各政治家が国民に対して自らの政治姿勢を表す指標としては面白い物差しだと思う。
トランプ大統領のように日本も大金持ちや世襲議員が自らの給与を1円として職務に邁進する姿を見せた場合、その政治家の支持率が上昇することは間違いないだろう。それがたとえポピュリズムと呼ばれるものであったとしても、国民に自粛要請という負担を求める現状において正しい政治家の姿勢ではなかろうか。
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早稲田大学招聘研究員
国内外のヘッジファンド・金融機関に対するトランプ政権分析のアドバイザー。
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(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉)
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