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「夜の街で感染再拡大」の韓国が、「われわれは世界をリード」と自慢する矛盾

プレジデントオンライン / 2020年5月13日 15時15分

ソウルの韓国大統領府で演説する文在寅大統領=2020年5月10日、韓国・ソウル(写真=AFP/時事通信フォト)

■日本は韓国の事態を参考に出口戦略を進めるべきだ

これほど「他山の石」という故事がピッタリ当てはまるケースも珍しい。韓国で起きた新型コロナウイルスの感染再拡大の問題である。

他山の石とは、中国最古の詩集『詩経』にある「よその山から出た粗悪な石でも己の宝石を磨く砥石として役に立つ」との記述に基づくもので、つまらない他者の言動でも自分を向上させる糧となるという意味だ。

5月10日、韓国政府は首都ソウルのナイトクラブを訪れた客を中心に新型コロナウイルスのクラスター(感染集団)が発生したと発表した。韓国では、ウイルスの感染拡大を抑止できたと判断し、6日に制限を緩和したばかりだった。

日本でも感染者数の少ない地方都市で外出制限の緩和が始まっている。政府は緊急事態宣言を解除するにあたり、韓国の感染再拡大を他山の石とするべきである。

一般的に新種のウイルスは人口の6割が感染して抗体(免疫力)を獲得しない限り、終息はしない。外出制限の緩和についてWHO(世界保健機関)も「緩和をゆっくりと着実に行うことが、経済活動の再開と感染の再拡大への対応の両面で重要だ」としている。

■20代男性がソウルの5軒の飲食店をはしごして感染を広める

ソウルからの報道を総合すると、まず5月6日に20歳代の男性客の感染が最初に確認された。彼の行動を韓国衛生当局が詳しく調べたところ、1日夜から2日未明にかけてソウルの繁華街の梨泰院(イテウォン)にあるナイトクラブや居酒屋など計5軒の飲食店を訪れていた。5軒の従業員や客に次々と感染が広まり、85人の感染者が確認された。問題の男性は自粛から解放され、ついうれしくなったのだろう。マスクも着用していなかった。

韓国では3月22日、政府が市民に不要不急の外出の自粛を要請し、客が密集するナイトクラブに対しては、運営の中止を求めていた。しかし、新規の感染者が減少傾向に転じ、4月20日には客と従業員の名簿作成と発熱チェックを条件に制限を緩和。この時点からナイトクラブは営業を再開していた。5月6日からは感染の拡大を防ぎながら日常生活を送る「生活防疫」へと移行していた。

■飲食店の「5000人の名簿」の半分はでたらめだった

20代男性が出入りした5軒の飲食店では、4月30日から5月5日まで働いていた従業員や客ら計約5000人分の名簿を作成していた。感染拡大の防止の観点からだったが、電話番号や住所に虚偽の記載があり約2000人と連絡が取れていない。韓国の衛生当局はクレジットカードの使用履歴から客を割り出し、検査を進めている。

ソウルに隣接する大都市や人気の観光地・済州島(チェジュド)でも感染者が確認され、さらに感染は全国へと広がりそうだ。

そんな中、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は感染拡大を抑えたことを自画自賛する演説をしている。5月10日、就任から3年を迎え、「韓国は世界をリードする国になった。危機を最も早く克服した国だ。私は任期の最後まで偉大な国民と共に進んでいく」としたうえで、「全世界での感染拡大が韓国経済に与える影響は大きい。経済戦争の状態だ」と述べた。

文氏は、感染対策が争点となった4月の総選挙で大勝し、韓国の世論調査によれば支持率が71%まで上昇している。「1強」といわれて久しい日本の安倍晋三首相でさえ、自らの政治姿勢をここまで褒めたたえはしないだろう。

■人間の心理を見抜くかのようなウイルスの厄介さ

読売新聞の社説(5月9日付)は「欧米の制限緩和 感染『第2波』をどう抑えるか」との見出しを付けて主張する。

「欧米諸国が新型コロナウイルスの感染拡大に伴う行動制限の緩和に動き出した。流行の第2波を防ぎつつ、正常化を進めるには、指導者の慎重な舵取りが欠かせない」

「指導者の慎重な舵取り」は当然だ。問題はその舵取りの仕方である。

読売社説はヨーロッパのこれまでの規制についてこう説明する。

「新型感染症は欧州で猛威をふるい、イタリア、スペイン、フランス、英国では2万~3万人規模の死者が出た。各国は3月から、住民の外出制限や店舗・工場の閉鎖などロックダウン(都市封鎖)と呼ばれる厳しい措置をとった」
「違反者には罰則が科されるなど行動制限は法的な強制力を持つ。国民への自粛要請を柱とする日本の緊急事態宣言と比べ、より厳しい内容だ。その分、経済への打撃も市民生活の負担も大きい」

厳しい措置や強制力の行使には打撃と負担がともなう。だからこそ、早期の緩和が求められると読売社説は主張したいのだろうが、新型コロナウイルスはそんな人間の心理を見抜くかのように制限を緩めると、再び感染の芽を伸ばす。ならばどうしたらいいのだろうか。

■ドイツが「制限の緩和のさじ加減」に自信を持つ背景

読売社説は緩和のさじ加減にその答えを求め、ドイツの事例を挙げる。

「封鎖が長期化すれば、国民の不満増大は避けられない。感染拡大の速度が鈍った状況で、制限を段階的に緩和するのは理にかなう。問題は、そのさじ加減だろう」

ドイツでは、全ての店舗が感染防止策を講じた上で営業を再開できるようになった。メルケル首相は「感染の拡大を遅らせる目的は達成できた」と強調した。

「ドイツが制限の緩和に自信を持つ背景には、充実した医療体制がある。人口10万人当たりの集中治療病床数は、欧州の主要国で最も多く、日本の2倍以上の水準だ。これまでも医療崩壊を起こさず、感染を制御できている」
「対照的に、病院が機能不全に陥った国の道のりは険しい。イタリアでは5月に入り、屋外での運動が認められた。フランスは自宅から100キロ以内に限り、外出を解禁する見通しだ」

だが、そんなドイツでも5月6日にすべての商店の営業制限を撤廃したところ、感染者数が一時、増大した。やはり新型コロナウイルスという敵はしぶといのである。

■産経社説も安倍首相の説明を「具体性がない」と批判する

5月5日付の産経新聞の社説(主張)は大阪府の緩和政策を評価する。

「『特定警戒』地域である大阪府の吉村洋文知事は府内の病床使用率や陽性率などを踏まえ、外出・休業の自粛要請の緩和を判断する姿勢を示していた」
「感染症対策と社会経済活動の両立を図るモデルケースになるかもしれない。政府は大阪府を後押ししたらどうか」

「大阪府を後押ししたらどうか」とまで社説で書く入れ込みようである。実際、吉村氏の発言には感心させられるところが多い。発言に説得力があるのは、吉村氏自身が新型コロナウイルス感染症を自分の頭で理解し、その対応を自分の頭で考えて述べているからだろう。

次に産経社説は安倍政権に対し、矛先を向ける。

「政府の専門家会議は、人との間隔を極力2メートルとるなど『新しい生活様式』を呼びかけた」
「国民に協力を求める一方で政府の説明が十分でなかった点は残念だ。首相は新規感染者数に関し、1日100人超の人が回復しているとして『その水準を下回るレベルまで減らす必要がある』と語った。ただ、それ以上の具体的な解除の条件は示さなかった」

要は、産経社説は安倍晋三首相の説明に「具体性がない」と批判しているのである。安倍首相に気に入られ、保守の一翼を担う全国紙でありながら首相を批判する。言うときには、はっきりと物を言う。これこそ本物のジャーナリズムだ。今回の産経社説の姿勢は褒められる。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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