カリスマホストを「無料の1日デート」に連れ出した女性の手口
プレジデントオンライン / 2020年5月21日 17時15分
※本稿は、信長『1分で相手の「心」を開かせる メンタルトーク』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■「おしゃれで面白い書店があるから、いこうよ」
ホストは誘いのプロであり、口説きのプロです。
数カ月も指名ゼロが続くダメダメホストから成長し、ナンバーワンをとり続けられるようになった私は、「自分は誘いのプロであり、口説きのプロである」という自負をより強く持つようになりました。
私のホスト全盛期。指名してくれるお客さまはみな、1回あたり10万円以上使ってくれていました。店外デートの誘いも多くありましたが、ほぼすべての誘いを「お店で会おうよ」と断っていました。
そんな私が一度、普通のデートの誘いに乗ってしまったことがあります。何気ない誘いだったのですが、実に巧妙な「手口」でした。
といっても、中身はいたってシンプル。「相手のメリットを提示する」という、どんなビジネス書にも載っている「提案の基本」を素直に実行しただけです。
彼女の誘いは、たったひとことでした。
「おしゃれで面白い書店があるから、いこうよ」
その書店とは、某駅に直結しているブックカフェ。開放的な空間の中でお気に入りの本を読みながら、コーヒーやクラフトビールを楽しめます。
本好き・書店好き、そしてビール好きの私ですが、そのお店にはいったことがありません。
いってみたい─―。私はつい、誘いに乗ってしまいました。
■相手をひたすら観察し「何が好きか」の情報を集めていた
そしていざいってみると、とても楽しい。私たちは時間を忘れてその書店で過ごし、夜になるとそのまま「めしでもいこっか」と食事をすることに。お店では1日に10万円も使ってもらっているはずの私が、なんと無料で「1日デート」に付き合うことになってしまったのでした。
あとから聞いた話では、彼女はふだんからひたすら私を観察し、「何が好きか」の情報を集めていたようです。
実に賢い。相手が好きなものを提案すると、通る可能性もまた高まります。図らずも、私が身をもって証明してしまいました。
「明確なメリットを提示する」。ビジネスの世界では基本中の基本でも、それをプライベートでできている人は意外と少ないものです。
効果は絶大。試してみてはいかがでしょうか。
■相手のリスクを「ゼロ」にして軽く連れ出す
ただ、中には、どんなにメリットを提示して誘っても煮え切らず、デートに応じてくれない相手もいます。
そんなときには、相手のリスクを「ゼロ」にして、デートに対する心理的負担を減らしてあげましょう。
相手のリスクを「ゼロ」にして、とにかく体験してもらい、よさをわかってもらう。いわば通販の「お試し体験」と似た手法です。
ホスト時代の私は、まだホストクラブで遊び慣れていないお客さまに「返金保証」をしていました。
「つまらなかったらお金は返す。だからまた遊びにきてよ」
こう誘っていたのです。
楽しかったらお金を払って満足し、仮につまらなくてもお金が戻ってくる。お客さまからすればリスクは「ゼロ」です。だから安心して遊びにきます。
失うものがないのなら、試してみようかと考える。これが自然な心理です。
マーケティングには「リスク・リバーサル」という言葉があります。
「リスク(心配や不安などの心理的負担)」を「リバーサル(逆転)」するから、リスク・リバーサル。まさに、商品を購入する際の「不安」を販売側が引き受け、相手の心理的ハードルを下げて購入してもらうという「逆転」の手法です。
私が行っていた「返金保証」は、リスク・リバーサルに基づいて取り入れたシステムだったのです。
■相手の「警戒心」をなくす
相手のリスクを「ゼロ」にする手法は、デートの誘いにも使えます。
とくに女性は、好きでもない相手には、1円でも、1分でも使いたくないと考えるところがあります。また、「夜の誘い」にも警戒しがちです。
そこで「時間を無駄にしたくない」「お金を無駄にしたくない」「一夜を丸々ともにしたくない」と考える相手に、それらのリスクが「ゼロ」であることをあらかじめ宣言する作戦が有効になるわけです。
「1時間でいいから、お茶しよう」
「1円もお金を出さなくていいから、映画に付き合って」
「土曜の昼間、ランチしよう」
このようにあらかじめデートの行程を明らかにし、相手の心理的負担を減らすと、誘いに乗ってくれる可能性が高まります。
■営業トップの女性が名刺交換で使ったテクニック
このように、仕事における「営業テクニック」と「恋愛テクニック」には似た部分が多くあります。実際、営業職の中にはしばしば、恋愛テクニックをそのまま営業に活かして、トップクラスの売上実績を誇っている人がいます。
かつて私のお客さまだった女性もそうでした。
決して「枕営業」や「色仕掛け」をしているわけではありません。ただ、いうなれば「精神的な色仕掛け」なのでしょうか。取引先の男性を夢中にさせ、「もっとこの女性から商品を仕入れて喜ばれたい、気を引きたい」と思わせる術に長けているのです。
彼女が使った恋愛テクニックは、初対面から一気に相手の「懐」に入り、サッと引く、というものです。
初対面ではとにかく、相手との間合いを詰めます。
「精神的な間合い」ではなく、「物理的な間合い」です。名刺交換のときから相手の間合いに一歩踏み込み、相手の顔に自分の顔を近づけて話すのです。男ならば、嫌でも意識してしまいます。
しかし2回目以降に会うときには、初対面とは一転して、距離を置きます。相手は「あれ? 何かあったのかな」と感じ、「またあの距離感で話したい」と思います。こうして相手との関係を、自分のペースに引き込んでいくのです。
■「ヒット・アンド・アウェイ」で相手を翻弄する
実は彼女の手法は、多くのホストが使っているものとまったく同じ。まさに「プロのテクニック」です。
ホストも、初対面のお客さまにはとても親しく接し、「今日、仕事が終わったらカラオケいこうよ」「ご飯いこうよ」と、自分からアフターに誘います。最初に距離をグンと縮めて、その後も「また会いたいね」と連絡をマメにとりながら、2回目に会ったときにはサッと引く。お客さまはそのホストの気を引きたいから、指名をする……営業職の女性とまったく同じ駆け引きがホストクラブでも繰り広げられているわけです。
ちょうどボクシングの「ヒット・アンド・アウェイ」の要領です。
ぐっと近づいて、サッと離れる。それでもダメなら、また近づく。距離感を支配すれば、こちらのペースで相手を動かせます。
皮肉なことですが、営業にしても恋愛にしても、自身のテクニックが高まってくればくるほど、「この人、ただ口がうまいだけなんじゃないの……?」と思われることも増えてきます。
私自身もホストという職業柄、「女性から信用されてないなぁ」と感じることがたびたびありました。
そこで私が力を借りたのが「第三者の声」です。
■同じことでも「第三者」から聞くと印象が変わる
「ウインザー効果」はご存じでしょう。
「何かの素晴らしさを本人から直接聞くより、第三者から聞いたほうが信じやすい」という人間の心理作用のことです。Amazonでも「商品紹介」より「レビュー」のほうが信じられやすいのと同じとお考えください。
私はホスト時代、ヘルプのホストに「第三者」の役をお願いしていました。
ナンバーワンを張っていたときは、1日に何人ものお客さまが私を指名してくれました。
お客さまの中には、私とともに時を過ごす「他の女性」を気にする人もいます。
「信長さんって、たくさん遊んでいるんでしょ?」「信長さんって、他にもたくさん彼女がいるんでしょ?」と疑われることもしばしばありました。
この手の質問は、本人が否定すればするほど、どんどん「疑わしさ」が醸し出てしまうものです。本当に彼女がいないのに、否定することで、何かを隠しているような雰囲気になってしまうのです。
そこで、私が席を立ったとき、ヘルプのホストに「助け船」を出してもらいました。
「信長さん、ナンバーワンホストなのにまだ寮に住んでいるんですよ」
「休みの日はいつも、寮で本ばっか読んでますよ」
「たまには遊びに出ればいいのに」
このように「第三者」であるヘルプのホストが私の「ありのまま」を伝えてくれたことで、私は信頼を得ることができたのでした。
嘘はばれます。ただし「本当に伝えたいこと」を伝える手段として、第三者の力を借りるのは決して悪い方法ではありません。
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元歌舞伎町ナンバーワンホスト
1979年生まれ。早稲田大学教育学部卒業。家庭教師のアルバイトをしながらホストの道に入る。当初は体重が100キロ近くあり、女性とまともに話せない三流ホストだったが、試行錯誤の末に入店4カ月で初めての指名をとった直後にNo.1になる。以後通算28回のNo.1を獲得。10年以上ナンバーワンホストとして君臨し続ける。著書に『歌舞伎町トップホストが教えるシャンパンタワー交渉術』(講談社)、『歌舞伎町No.1ホストが教える選ばれる技術』(朝日新聞出版)などがある。
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(元歌舞伎町ナンバーワンホスト 信長)
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