伊藤詩織の待望連載、第1回「世界で2億人の女性が"性器切除"を経験している」
プレジデントオンライン / 2020年5月24日 11時15分
■世界で2億人の女性が“性器切除”を経験している
平成初期、NHKの子ども向け番組「おかあさんといっしょ」では「ドレミファ・どーなっつ!」という着ぐるみの人形劇があった。私はこの番組を見て育った。今、振り返ると何で「おかあさんといっしょ」なのだろう。番組名からは「子育てをするのは母親だ」というメッセージが受け取れる。「母だから」「男だから」。そんな「だから」は勝手に人を縛り付ける。そして時に、命に関わる。
女性に生まれ、社会から女性として受け入れてもらうための通過儀礼として世界で2億人の女の子や女性が女性器切除(FGM)を経験している。FGMにはさまざまなタイプがあり、性的快感を得づらくさせるためにクリトリスを切り落とすタイプや、外陰部の広範囲を切除し尿や経血が通るだけの小さな穴を残し縫い合わせるタイプも。縫い合わされた女性器は結婚すると切り開かれる。
西アフリカのシエラレオネでは90%の女性がFGMを経験している。同国では儀式としてFGMが行われ、ほとんどの場合、医療従事者ではなく、地域の女性コミュニティーで権力をもつ長老の女性が隔離された森の中で行う。5歳でFGMを経験した20代のファタマタさんは儀式の夜の、ほかの女の子たちの叫び声や泣き声が今でも忘れられない。FGMによって出血多量や感染症で命を落とすこともある。そして、強い恐怖が、心の傷としても残り続けるのだ。
親として、愛する娘の命のリスクを冒してまで危険なFGMを受けさせるのは何故なのか。それは、もし娘がFGMを受けないと結婚ができなかったり、就職できなかったり、農村部においては村八分にあってしまうからだ。つまり生きることが難しくなってしまう。
FGMは遠い国の話ではない。アジアでもインドネシアやマレーシアなどで行われている。欧米でも確認されており、2019年は英国で3歳の娘にFGMを受けさせたとして母親が有罪判決を受けた。
女性だから。「だから」は圧力になって人にのしかかる。この「だから」に私たちはどう向き合うべきなのか。自分の意思で選べない「だから」の型に押し込められないために何ができるか。「だから」を伝統や文化として片づけてはいけない。
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ジャーナリスト
1989年生まれ。フリーランスとして、エコノミスト、アルジャジーラ、ロイターなど、主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信し、国際的な賞を複数受賞。著者『BlackBox』(文藝春秋)が第7回自由報道協会賞大賞を受賞した。
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(ジャーナリスト 伊藤 詩織 撮影=伊藤詩織)
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