百貨店に倒産の足音…コロナ後、給料が「上がる仕事」「下がる仕事」全8業界を公開
プレジデントオンライン / 2020年5月22日 11時15分
5月2日、ウォーレン・バフェットは、自身の率いる投資・保険会社バークシャー・ハサウェイで、保有していたデルタ航空とサウスウエスト航空、アメリカン航空グループ、ユナイテッド・エアラインズ・ホールディングスの株式を全て手放したことを明らかにしました。バフェット氏は新型コロナウイルスのパンデミックの経済的影響により、航空事業が根本的に変容したと指摘しています。このように、投資家から見放される業態は今後増えていく可能性が大いにあります。
■「リモートワークから消えた人」は労働力市場からも消える
では、航空業界以外に失業のリスクがある職種は何でしょうか。
真っ先に挙げられるのが、リモートワークの普及によってオンライン会議から存在が消えてしまった職種です。つまり、発言すべきことがない方は危険と言ってよいでしょう。
今後は、プロジェクトごとに必要な職業が集まり、業務を遂行する「ジョブ型」の働き方が、ますます普及することになります。一方、日本の大企業でこれまで多く見られた今集まっているメンバーで仕事を遂行する「メンバーシップ型」の働き方は減少する可能性があります。
自分の仕事がジョブ型かメンバーシップ型なのかを判定する方法は簡単です。会議中に、役職を問わず、自分でなければできない発言をしているか? 自分が明確に説明できる価値を持っているかを日々のオンライン会議で振り返ってみるとよいでしょう。無言を貫いている方は、そのまま労働力市場からも消えてしまう可能性が大きいと言えます。
■「航空」と「トラック輸送」は二極化が進む
一方で、アフターコロナにおいて需要が高まりそうな職種として真っ先に浮かぶのが運送・物流業界ではないでしょうか。自宅時間が増え、世界的ににECの市場は膨らみました。こうした運送・物流業界は今後も勝ち残る職種と言えるでしょうか。
総務省統計局の労働力調査のデータによると、今年3月の運輸業・郵便業は、前年同月比12万人増となっていますが、移動の制限による打撃を受けている航空業界と、ECの普及による需要が拡大しているトラック輸送などで二極化が進んでいます。
ANAは5月8日、グループの21年度入社向けの採用活動を一時中断すると発表しました。新型コロナウイルスの収束時期が見通しにくく、新卒採用を含めた事業計画が策定できなくなっているのです。
同じ運送業でも、陸と空で明暗が別れるでしょう。航空業界はコスト削減から給料が減る可能性が高い業界と言えます。
■トヨタは強気。けれども弱い自動車業界
続いて、自動車業界を見てみましょう。
今月12日、保守的なことで知られるトヨタは、決算でV字回復のシナリオを打ち出しました。今期8割近い売上減少を見込むものの、世界の自動車市場が4月から6月を底に徐々に回復し、20年末から21年前半にかけて前年並みに戻る想定だといいます。
なぜここまでトヨタは楽観的なシナリオを描いているのでしょうか。
背景には、新型コロナウイルスの発生源である中国市場の回復が想定よりも早かったことが挙げられます。ただし、依然工場の稼働率は下がったまま。自動車業界は固定費が重くのしかかっており、たとえば日産自動車は1万2500人の人員削減策からさらにリストラを検討していると報道されています。
従業員を一時的に休ませ、解雇していない人員を抱えていることから、今後、リストラが断行されれば、解雇しなかった従業員に対しては減給の措置を取らざる負えないでしょう。自動車業界が低迷すれば、部品を供給している中小企業、鉄鋼、プラスチック、制御用コンピューターに至る広い業界にダメージが及びます。
自動車業界も、航空業界と並んで危うい業界の一つに挙げられます。
■ECをうまく展開できない百貨店に倒産の足音…
先ほどの総務省のデータを見ると、卸売業・小売業の労働力人口は、昨年同月比17万人増となっています。しかし現在、ECを上手く展開できていない小売業やアパレルは打撃を受けており、この被害はさらに拡大するおそれがあります。
特に被害が大きいのが百貨店業界です。大手百貨店が5月1日発表した4月売上高速報によると、各社ともに70~80%の大幅減少となっています。高島屋が75%減、大丸と松坂屋のJ.フロントリテイリングは78%減、三越伊勢丹ホールディングスは81%減、そごう・西武は71%減となっています。倒産の足音すら聞こえてきます。
ここ数年、小売業はインバウンド需要に支えられていたため、インバウンド需要の回復まで長い期間が想定されるため、人員整理も検討されるでしょう。インバウンド市場の冷え込みという点では、宿泊・飲食・サービス業も同様です。
2008年のリーマンショックでは、製造業からあふれた雇用をサービス業が吸収しましたが、今は、その受け皿も被害を受けている状態。リストラされた人たちが行く場を失う未来も考えられます。
■製薬業界にもリストラの波がくる可能性大
さらに、教育・学習支援業も労働力人口は昨年同月比11万人減と、コロナショックの影響をすでに受けています。これまで3密を避けられなかった学習塾・予備校業界は、人員を減らし、オンライン化を進めていくのは間違いありません。
アフターコロナで打撃を受ける意外な業界が製薬業界です。特に、MR(医薬情報担当者)の存在意義は今後大きく低下していく可能性があります。なぜか。
すでにMRは2013年以降減少傾向で、製薬企業が大幅に削減したい職種として挙げられていました。ここ数年、製薬の販売もITとオンライン化によって効率化が進み、属人性の高い“営業マン”というスタイルが時代に合わなくなってきているのです。これに加えて、今回のコロナショックにより業界は大きく変わろうとしています。病院に不必要に訪れる人の数を減らす施策が広まれば、MRの数も減らす方向になるのは言うまでもありません。
■コロナ以後儲かる業界はどこなのか?
ここまで、アフターコロナで雇用が危ぶまれる業界として「航空業界」「自動車」「製造業」「小売・百貨店」「学習・教育」「製薬」の5業界を挙げました。では、一方でコロナ以後に好況となる業界はどこでしょうか。
まず挙げられるのが、クラウド業界です。これはテレワークの普及にもたらされたことは言うまでもありません。米国マイクロソフト社の1~3月期の決算では、クラウドサービス「アジュール」の売上高が前年同期比+59%増、Amazonのクラウド部門も+33%と業績が堅調となっています。
なんと、コロナショックの中で、GAFAとマイクロソフトの時価総額は東証一部約2170社の合計を上回り、560兆円に達しました。GAFAやマイクロソフトと取引のある企業は今後むしろ人員を増やす方向に動くと予想されます。
具体的にはデータセンター業界が挙げられるでしょう。5G、AI、フィンテックのシステム投資需要は今後も拡大傾向であるため、半導体や電子部品業界は堅調なシナリオを描きやすいと言えます。
■今転職を考えるならこの業界
企業名で言えば、インテルやエヌビディア、半導体製造装置世界最大手のアプライドマテリアルズがその代表例。国内でも東京エレクトロン、アドバンテスト、マスクブランクス検査装置トップのレーザーテックなどの半導体関連企業は株価も好調です。また、日本を代表する電子部品業界の日本電産はこの時期に増益見通しを発表し、今期純利益は前期比66%増の1000億円を見込むと強気の発表をしています。
上述した業界と連動して需要が高まっているのが、システムインテグレーター業界です。
企業の希望するシステム構築に向けて、ハードウエアや通信ネットワークなど最適な組み合わせを提供するこの業界。代表的な企業として伊藤忠テクノソリューションズ、NECネッツエスアイ、オービックなどが挙げられますが、これらの企業の業績がすこぶる好調です。
関連して、システムコンサルタント、システム設計者などの需要も増え、コロナ禍においても好待遇が期待できます。本稿前半で、いま、自分が身を置く業界が危ういと指摘された方は、半導体業界やクラウド業界、システムインテグレーター業界への転職を考えるのもよいでしょう。
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テクニカルアナリスト
京都大学公共政策大学院を卒業後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで、上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。
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(テクニカルアナリスト 馬渕 磨理子)
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