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緊急事態宣言が解除されたJR北海道に待ち受ける「赤字路線全廃」の暗雲

プレジデントオンライン / 2020年5月28日 11時15分

運行を終えるJR北海道・札沼線の最終列車=2020年4月17日、北海道新十津川町 - 写真=時事通信フォト

新型コロナウイルスの影響で、赤字路線を多数抱えるJR北海道の経営状況が深刻さを増している。2020年3月期決算では、経常損益が過去最大の赤字となった。国費を投入しても再建できない同社は赤字路線を切り捨てるべきなのか。鉄道ジャーナリストの枝久保達也氏が解説する――。

■緊急事態宣言が解除されても再建は厳しい

東京を含む首都圏4都県と北海道を対象とした緊急事態宣言が25日に解除された。4月7日の宣言からおよそ1カ月半での全面解除となる。北海道と神奈川は、終了の目安の一つである「直近1週間の新規感染者数が10万人あたり0.5人程度以下」を満たしていないが、今後は感染拡大に注意を払いつつ、経済活動の復活が待たれる。

しかし、経営再建に向けて第一歩を踏み出した矢先に新型コロナウイルスの猛威が襲ったJR北海道にとって、解除後の道のりはいっそう険しいものとなりそうだ。

JR北海道が4月28日に発表した2020年3月期決算は、2月~3月のコロナウイルス感染拡大の影響により、連結営業収益が対前年比37億円減の1672億円、連結営業損失は同7億円増の426億円、連結経常損益が同24億円増の135億円となり、過去最大の赤字を記録した。

2010年代から相次いだ事故や不祥事の影響で経営危機に陥ったJR北海道は2019年4月、北海道新幹線が札幌まで延伸開業する予定の2030年度までの長期経営ビジョンと、2023年度までの中期経営計画を策定。その上で、2019年と2020年の2年間を集中改革期間と位置づけ、2031年度の経営自立を目標とする経営再建計画に着手した。国はこの2年間の成果を見て、2021年度以降の補助金の支出を判断するとしており、経営再建に向けての正念場となるはずだった。

■昨年まではインバウンド効果で好調だったが…

計画初年度となった2019年度は、ゴールデンウィーク10連休や訪日外国人旅行者の増加などインバウンド需要の好調を背景とした、札幌都市圏と新千歳空港を結ぶ快速エアポートの利用増や、昨年10月に実施した運賃改定の効果が出て、第3四半期(累計)の時点で、年初予想を14億円上回る31億円の増収を記録するなど、好調に推移してきた。

ところが年が明けると、新型コロナウイルス感染拡大の影響で62億円(JR北海道単体で42億円、グループ会社で20億円)の減収、50億円の減益となるなど、各事業の業績は急激かつ大幅に悪化した。

セグメント別にみても、主力の運輸業、小売業、不動産賃貸業、ホテル業のいずれも減収減益と厳しい数字が並んでいる。減収幅としては、新型コロナウイルスの影響で鉄道利用が自粛され、鉄道運輸収入が減少した運輸業が16億円の減、またビルメンテナンスなどその他事業が15億円の減となり、減収要因の大半を占めた。

■小売・ホテル事業も休業が響いている

赤字路線を多く抱える同社にとって、増収を支えてきたのが小売業とホテル業だ。しかし、その頼みの綱も2度の緊急事態宣言のあおりを受け、足元が揺らいでいる。

第3四半期までは新店舗の開業効果や、2018年9月に発生した北海道胆振東部地震による需要減からの反動増があったものの、新型コロナウイルスの影響で第4四半期以降は売り上げが落ち込んだ。また、不動産賃貸業においても第4四半期以降、札幌駅の駅ビルであるJRタワーのテナント売り上げが落ち込んだため、家賃収入が減少し、ともにわずかながら減収減益となった。

関連事業の柱となるJRタワーは4月18日から当面の間、休館となっており、タワー内のJR北海道ホテルズも休業が続いている。このまま新型コロナウイルスの影響が長引いた場合、北海道新幹線札幌駅隣接地に2029年開業予定の「新JRタワー」の計画見直しすら避けられなくなってくる。約40億円の増収を見込んでいただけに、感染が終息しなければ2031年度の経営自立はさらに難しくなってくる。

■4400億円を投入しても抜け出せない赤字体質

国はこれまでJR北海道に対して、2011年度から老朽化した施設の更新などのために2800億円、2016年度から設備投資や修繕などのために1200億円を支出している。さらに、2019年度と2020年度に合計400億円の資金を投じ、国土交通省が主導する形で経営再建計画を進めてきたが、コロナ禍の影響で計画には早くも赤信号が灯ることとなった。

簡単にだが、JR北海道の収益構造について説明すると、運輸業の生み出す500億円以上の赤字を、不動産賃貸業やホテル業など関連事業の100億円程度の利益で補い、残りの400億円を経営安定基金の運用益(国鉄民営化時に鉄道事業の赤字を穴埋めするためJR各社に創設された営業外収入)と、経営再建のために国と北海道から支出されている補助金(特別利益)で相殺する形になっており、2020年3月期の最終的な親会社株主に帰属する純利益は19億円の黒字を計上している。

だが、もちろんこの補助金は永続的なものではなく、今年度いっぱいで根拠法が期限切れとなるため、新たな支援スキームの構築が不可避となる。にもかかわらず、経営再建には道と沿線自治体からの支援が不可欠とする国と、JR北海道の経営危機は国鉄民営化スキームの失敗であり、支援は国の役割だとする道との対立の溝は埋まっておらず、今後の支援スキームの構築はいまだに不透明な状況にある。

■廃線検討中の地方路線はどうなる?

ここで気になるのは、JR北海道が抱える赤字路線の存続の行方だ。2016年に同社が発表した10路線13線区のうち2線区がすでに廃線しており、3線区については廃線、バスへの転換を要望している。しかし、それ以外の8線区について、路線を維持するためのスキームの構築には至っていない。

8線区が生み出す赤字は約120億円。国は、道と沿線自治体が路線存続のために同額を負担することを前提に、年間40~50億円程度を支援する枠組みを検討しているとしているが、道と沿線自治体は利用促進策以外の負担には応じないという姿勢を明確にしている。

もちろん、資金難の道や沿線自治体が何十億円という設備更新費、修繕費を負担することはたやすいことではないだろう。しかし、誰かが費用を負担しない限り、赤字路線を存続させることはできない。国も自治体も支援をしないとなれば、路線は廃止せざるを得なくなる。それが地元や沿線の熟慮の結果であればやむを得ないが、これまでの議論を見る限り、当事者たちはどこか他人事のようにも見える。

廃止した場合の通学への影響や、冬季の輸送の確保などを考慮した上で、それでも費用が便益を上回るのであれば、8線区の一部ないし全部の廃止という選択肢もあってしかるべきだろう。問題は、その決断を先延ばしにし、誰かが助けてくれるのを待ち続けるという姿勢である。それは経営が破綻するまで問題を先送りにしてきたJR北海道と何ら変わらないのではないだろうか。

■都市部の路線や北海道新幹線も危ない

危ないのは地方路線だけではない。インバウンド需要を取り込んできた北海道新幹線や、唯一のドル箱路線とされる新千歳空港―札幌とを結ぶ快速エアポートも、新型コロナウイルスの影響で利用が大きく落ち込んでいる。

同社の島田修社長は日本経済新聞(4月23日付電子版)のインタビューの中で、直近の北海道新幹線の利用状況は9割減、快速エアポートは7割減と、減収予測の算出時より利用が落ち込んでいることを明らかにした。同社は3月31日、新型コロナウイルスの影響により3月以降運輸収入が半減しているとして、4月から6月のグループ全体の減収額が少なくとも83億円に上るとの予測を公表している。

JR北海道は月次の利用状況を公開していないが、JR各社の月次情報と照らし合わせると、4月以降の利用状況は通常の80%近く減少しているものと考えられる。JR北海道の鉄道運輸収入は年間約700億円(1カ月平均約58億円)なので、4月から6月まで8割減の状態が続いたとすると、第1四半期の減収幅は鉄道事業だけで140億円にも達する可能性がある。

仮に7月以降の残り9カ月が3割減で推移したとしても、2020年度の旅客運輸収入は対前年比で約300億円落ち込む計算だ。実際、JR北海道は5月20日、2020年度の旅客営業収入の減収額が200~300億円の減収になるとの見通しを公表している。

■このままでは今期中にも資金ショートに陥る恐れ

このように、北海道の緊急事態宣言が解除されても、JR北海道の成長戦略の要であった訪日外国人旅客を含めた旅行需要は、早期には回復しないと見られており、影響は長期化する可能性が高い。

すでに多くの税金が投入されている状況に批判も少なくないが、さらなる支援が得られなければ、JR北海道は今期中にも資金ショートに陥ることすら考えられる。そうなれば赤字路線全廃の可能性だけでなく、札幌周辺の基幹路線の減便、ひいては北海道新幹線の札幌延伸計画も頓挫する恐れがあり、観光業に力を入れる北海道の将来を左右することになりかねない。

島田社長は前出のインタビューで、「1987年の会社発足以来の危機だ」と述べ、「困ったら国が助けてくれるということから決別したのが国鉄改革であり精いっぱい努力するが、しのげない部分は国にお願いしなければならない」と、独力での対応に限界があることを強調。国に支援を要請していることを明らかにした。

もはやこの危機はJR北海道だけの問題ではない。新型コロナウイルスによって地方の公共交通は「交通崩壊」の危険を迎えている。地方交通事業者への支援を急がなければ、存続するか否かを話し合うより先に地方から公共交通が消えてしまうことにすらなりかねない。国と自治体は、地域の交通を守るための議論を急がねばならない。

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枝久保 達也(えだくぼ・たつや)
鉄道ジャーナリスト・都市交通史研究家
1982年生まれ。東京メトロ勤務を経て2017年に独立。各種メディアでの執筆の他、江東区・江戸川区を走った幻の電車「城東電気軌道」の研究や、東京の都市交通史を中心としたブログ「Rail to Utopia」で活動中。鉄道史学会所属。

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(鉄道ジャーナリスト・都市交通史研究家 枝久保 達也)

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