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経産省が「持続化給付金」を丸投げした3つの理由と5つの問題点

プレジデントオンライン / 2020年6月10日 17時15分

経済産業省総合庁舎(東京都千代田区霞が関) - 写真=時事通信フォト

中小企業に最大200万円が給付されるという「持続化給付金事務事業」のあり方に注目が集まっている。どこに問題があるのか。元経産省職員の高辻成彦氏は「国が協議会方式を採るには3つの理由がある。そして、そこには5つの問題点がある」という――。

■経産省が“協議会”に事業委託する3つの理由

中小企業に最大200万円が給付されるという「持続化給付金事務事業」のあり方に注目が集まっている。6月8日には、一般社団法人サービスデザイン推進協議会と電通による記者会見が行われた。

そこでは「協議会方式」による国の事業実施の是非が問われた。そもそも、なぜ国の事業が協議会方式で進められてきたのか。筆者は、経済産業省の職員だった経験から、国が協議会方式を採るのには以下の3つの理由があると考える。

1)経済産業省が得意とするスキームである

経済産業省は、新規事業を打ち出す際に、中立的組織を立ち上げ、中立的組織を扇の要として事業を実施するスキームを採用することがよくある。理由としては、既存組織ではしがらみからうまく動かなかったり、特定企業へ偏った利益誘導をしている疑いを避けたりするためである。

2)新規事業の実績としてPRしやすい

特定企業に事業を任せた場合、特定企業の実績となる。しかし、中立的組織として事業を行った場合、中立的組織の実績となる。中立的組織の実績は、これまでにない組織を立ち上げた経済産業省の実績となる。従って、経済産業省としては実績としてPRしやすい。

3)複数の企業を巻き込むことができる

特定企業に事業を任せた場合、特定企業の競合は事業の協力に応じなかったり、企業間のトラブルが生じたりするリスクがある。しかし、中立的組織の場合、イメージの色が付いていないだけに、国の事業という点を前面に出して企業を説得しやすい。

■“扇の要”になった中小企業再生支援協議会

協議会方式で他の例としては、中小企業再生支援協議会がある。中小企業再生支援協議会は、産業再生機構の地方版と言われ、2003年に各都道府県に設立された。当時は産業再生法を法律の根拠とし、5年間の時限立法だったが、現在も事業は続いている。

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写真=iStock.com/antares71
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/antares71

運営母体は各都道府県の商工会議所や都道府県の中小企業振興センターが主である。サービスデザイン推進協議会のように、協議会そのものは法人格を持たない。

協議会には支援業務責任者を中心に専門家(中小企業診断士、弁護士、公認会計士、税理士等)がチームを構成し、中小企業の再生支援に取り組む。協議会の構成メンバーとしては、商工会議所だけでなく、各経済団体や地域金融機関、信用保証協会が入り、地域が一丸となって中小企業の再生支援を実施する。

つまり、協議会が扇の要となり、支援業務責任者が案件を切り盛りするが、地域ぐるみで中小企業の再生に取り組むのである。

事業の是非はともかく、地域全体を巻き込んで、ということが協議会方式の特徴であることはご理解いただけたことと思う。地域だけでなく、産業全体の場合もあり得る。

■持続化給付金問題をめぐる5つの論点

それでは、今回の持続化給付金事務事業は、具体的にどこに問題があるのか。それは以下の5つに整理できる。

1)サービスデザイン推進協議会から電通へ大半が再委託している

持続化給付金事務事業の場合、サービスデザイン推進協議会から電通へほとんど再委託している。経済産業省からサービスデザイン推進協議会に769億円で委託し、同協議会が電通に749億円で再委託したと報じられている。委託事業で再委託はあり得るが、このケースの場合、協議会を介する必要性がそもそもあるのかが疑問である。

2)資金の目的外利用はないのか

サービスデザイン推進協議会から電通へほとんど再委託していることから、資金の目的外利用はないのか、チェックする必要がある。ないことが当然であるが、あった場合には、事業資金の返還対応が必要となる。

経済産業省は、持続化給付金事務の事業費が適切に執行されているかを外部の有識者と6月中にも中間検査するとしているが、通常は経済産業省の担当者が事業実施後に検査するものであるので、異例の対応である。

3)入札手続きが適正だったのか

入札に参加したのはサービスデザイン推進協議会とデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社の2社とされている。入札調書では、サービスデザイン推進協議会は「C」評価であるのに、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社は「A」評価だった。

しかし、落札したのはサービスデザイン推進協議会であり、最初からサービスデザイン推進協議会ありきで進められていたのではないかとの疑問がある。評価が低いのに落札した理由は、経済産業省側に説明責任があるだろう。

4)運営母体に事業実施能力が伴っているのか

サービスデザイン推進協議会は、2016年の設立時から3年間、一度も法律で定められた決算公告を実施していない。また、報道情報によれば、コールセンターには電話してもつながらず、電話がつながっても、個別で不備の確認はできないとの回答をされたとの声があるようである。つながらないコールセンターでは、事業実施能力が伴っているのか、疑問である。

5)地域や業界を巻き込んだ形を伴っているのか

筆者は、協議会方式を否定するつもりはない。特定企業に事業を任せると、事業推進をしにくい場合も、国の事業の場合にはあり得ると思っているためである。

例えば、先ほどの中小企業再生支援協議会の場合、商工会議所や都道府県の中小企業振興センターを運営母体にしたことから地域ぐるみの取り組みが可能であったが、特定の会計事務所などを運営母体にした場合、地域金融機関が再生支援に応じてくれないことは起こり得る話だろう。しかしながら、サービスデザイン推進協議会のケースの場合、果たして、地域や業界を巻き込んだ形を伴っているのだろうか。

協議会組織に申請手続きのエキスパート(行政書士や中小企業診断士など)が伴っているのか、業界を巻き込んだ組織体制になっているのかは丁寧な説明が必要だろう。なお、サービスデザイン推進協議会は、6月8日に新執行体制を公表している。

■適切な情報開示を伴った事業遂行が必要だ

筆者は元経済産業省職員であり、アナリストであり、さらには情報開示(ガバナンス)の専門家の1人であるが、行政の世界においても、情報開示の適正さを伴った事業遂行が必要な時代に変わるべき時を迎えていることは強調したい。

情報開示の適正の観点からすると、法的な問題はなかったとしても、事業遂行上、さまざまな問題点を伴っている点は否めないだろう。ただ、不用意に持続化給付金事務事業をたたいてしまうことで、肝心の中小企業の持続化給付金の支給が遅れることは本末転倒であり、避けたい事態である。

新型コロナウイルスの感染拡大影響により、事業継続の危機にさらされた中小企業は国内で数多く存在する。国内のセーフティーネット網の整備こそが今、緊急対応すべき課題である。今回の問題浮上が、国による中小企業の早期支援につながるように変わっていく流れになることを心より願うばかりである。

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高辻 成彦(たかつじ・なるひこ)
いちよし経済研究所シニアアナリスト
元経済産業省職員。いちよし経済研究所(東証1部・いちよし証券の調査部門)のシニアアナリスト。立命館大学政策科学部卒業、早稲田大学ファイナンスMBA。近著の『IR戦略の実務』(日本能率協会マネジメントセンター)では、上場企業の情報開示の基礎について記述。企業・経済分析の傍ら、情報開示等、ガバナンスの改善活動にも努める。経済ニュースアプリ・NewsPicksでは8万人以上のフォロワーがいる。

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(いちよし経済研究所シニアアナリスト 高辻 成彦)

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