「全国1万社の悲鳴が聞こえる」日本経済は完全な不況状態にある
プレジデントオンライン / 2020年7月14日 13時15分
■景況感は大きく落ち込む
東京では新型コロナウイルスの新規感染者が再び増加しています。この先、感染者数がどのように動くかはなかなか予測が難しいですが、いずれにしてもワクチンや特効薬ができるまでは、しばらくは「ウイズコロナ」の期間を過ごしていかなければなりません。
そうした中、7月1日に、現状の企業経営の状況を的確に表す「日銀短観(日本銀行の全国企業短期経済観測調査)」が公表されました。日本銀行が3カ月に一度、1万社近い企業を調査し、その状況を詳細に調べているものです。今回は「6月調査」でした。
その数字は、後述するように目を覆いたくなるようなひどい数字だったわけですが、最初にこの短観の見方をごく簡単に解説しましょう。
短観は企業の景況感で「良い」と答えた企業のパーセントから「悪い」と答えたパーセントを引いたものです。全員が「良い」と答えると「プラス100」、全員が悪いと答えると「マイナス100」です。「さほど良くない」という答えも認めています。
今回の景況感を理解するには、まずこれまでの短観の流れを見ておくことが必要です。
図表1は、2017年からの大企業製造業と大企業非製造業の景況感の推移を表したものです。
まず、大企業製造業の数字を見ると、ピークは2017年12月調査です。「プラス25」という数字です。これは、とても良い数字です。というのは、先ほども説明したように、短観では「さほど良くない」という答えも認めているので、「プラス25」というのは、その「さほど良くない」を除いた「良い」と答えた人のパーセントから「悪い」と答えたパーセントを引いているからです。ここまでは、大企業製造業の景況感は上がってきていました。
しかし、注意して見なければならないのは、その後、2018年、2019年と、その数字がどんどん悪くなっていることです。2019年9月調査では「プラス5」まで落ちていますが、この調査時点に注意が必要です。2019年9月というのは、消費税が8%から10%に上がる直前です。その時、大企業製造業の景況感はかなり落ちていたということです。
もちろん、中堅企業や中小企業の製造業の景況感も落ちていました。米中摩擦などにより、世界経済、とくに中国経済が減速傾向を強めていたことが大きな理由です。
一方、表の非製造業の景況感を見てください。2018年に「プラス24」を2度つけましたが、2019年に入ってもそれほど落ちず、消費税増税後の2019年12月調査でも「プラス20」です。増税後に「0」まで落ちた製造業とは大きな差です。飲食業、ホテルなどの非製造業は、インバウンドの観光客などの増加により、当時はかなり潤っており、人手不足感も非常に強かったのです。
それが、2020年の3月調査になると、製造業が「マイナス8」ととうとうマイナス圏に突入し、そして、好調だった非製造業も「プラス8」と前回調査よりも12ポイントも一気に下落しました。新型コロナウイルスの影響が大きく出始めたのです。
そして、今回の6月調査では、大企業製造業では、マイナス幅が拡大し、なんと「マイナス34」まで沈みました。リーマンショックに匹敵する落ち込みです。
非製造業は、「マイナス17」です。こちらも大きく落ち込みました。製造業、非製造業ともに非常に厳しい状況に追い込まれていることが分かります。製造業・非製造業の数字から言えること。それは、日本経済は完全な「不況」の状態にあるということです。
■業種別に見るとさらに厳しい状況が浮き彫りに
今回発表の6月調査をさらに詳しく見ていくと、業種によっては非常に厳しい状況であることが分かります。
まず製造業から見ていきましょう。先ほども見たように、大企業製造業全体では、「マイナス34」と非常に厳しい状況なのですが、図表2にあるように、その中でも、「鉄鋼」(マイナス58)、「造船・重機」(マイナス46)、「自動車」(マイナス72)と惨憺たるものです。
自動車は、2次下請け、3次下請けなど、すそ野がとても広い業種です。自動車の大企業は「マイナス72」ですが、中堅企業で「マイナス77」、中小企業では「マイナス79」となっています。企業規模が小さいほど大変な状況が分かります。
自動車関連でも大企業はまだ海外で活路を見出すこともできますが、企業規模が小さくなればなるほど、それが難しくなります。また、鉄鋼の数字が悪化したのも、自動車の悪化に関連する部分が大きいと考えられます。
非製造業にも厳しい業種があります。先ほども述べたように全体でも「マイナス17」まで悪化しているのですが、中でも、対個人サービス(旅行業、遊園地などの娯楽業ほか)は「マイナス70」で、3月調査時に比べ一気に64ポイントも悪化しました。もっと厳しいのが、宿泊・飲食サービスです。なんと「マイナス91」まで下がっています。この業種のほとんどの企業の景況感が悪いということです。
■人手不足感もかなり緩和
景況感が急速に悪化していることにともない、人手不足感もかなり和らいできました。
図表3は短観の「雇用」に関する数字です。
「過剰」から「不足」を引いた数字ですが、例えば、3月調査では、大企業製造業は「マイナス11」です。中堅企業、中小企業と規模が小さくなるほうが、不足感が大きくなっています。中小企業の非製造業では「マイナス39」ですから、3月時点では人手不足感はかなりのものであったと考えられます。
それが、非製造業ではいまだに不足感があるものの、大きく改善しています。製造業では、大企業、中堅企業、中小企業ともに、過剰が不足を上回っています。つまり、人が余っているということです。人手不足は急速に変化したといえます。
厚生労働省が発表している雇用統計を見ても、そのことが分かります。求職者数を求人数で割った「有効求人倍率」を見ると、昨年の前半には、1.63(つまり100人の仕事を求めている人に対して163人分の仕事があった)ということに対して、今年の5月には、1.20まで落ちています。まだ、全体では人が足りない状況ですが、不足感は大幅に緩和していると言えます。
日本経済は、4~6月に非常に深い底をつけて、少し回復していると私は判断していますが、その回復は力強さを全く欠いている状況です。「ウイズコロナ」が続く限りは、その回復度合いはかなりスローな状況が続くことを覚悟する必要があるでしょう。
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小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO 小宮 一慶)
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