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「きのこの山VSたけのこの里」味と食感の徹底分析から見えた最終結論

プレジデントオンライン / 2020年7月29日 15時15分

写真提供=明治

明治のチョコレート菓子「きのこの山」と「たけのこの里」は、どちらのほうが人気なのか。食品の味について研究している髙橋貴洋氏は、「食感がやわらかくマイルドな味わいのたけのこの里のほうが、子供に好まれる傾向にある」という――。

※本稿は、髙橋貴洋『「うまい!」の科学』(イースト新書)の一部を再編集したものです。

■“派閥争い”は80年代から始まっていた

お菓子の派閥争いで最も有名といっても過言ではない、「きのこの山」と「たけのこの里」論争。その争いは80年代から始まり、今に至ります。近年では、公式でも選挙を開催、いまだに終わらない定番の食論争です。私自身は幼いころには「たけのこ」を推していましたが、今ではきのこ派です。みなさんの推しはどちらでしょうか? 昔から変わらなかったでしょうか? それとも、大人になって推し変をしたでしょうか?

実際の各派閥の人数を把握するために、400人程度を対象とした簡易アンケートをとってみました。

今回は、「たけのこ一筋」、「きのこ一筋」、「小さいときたけのこ派→大きくなったらきのこ派」、「小さいとききのこ派→大きくなったらたけのこ派」の4パターンでアンケートをとりました。

昔からたけのこ派が44.4%、昔からきのこ派が37.5%、きのこからたけのこ派に、たけのこからきのこ派に推し変したのはそれぞれ5%程度でした。

たけのこ派がやや優勢ですが、2019年に明治が公式に行った、「きのこの山 たけのこの里 国民総選挙 2019」では、きのこの山が勝利を収めました。今後も、この論争からは目が離せませんね。

きのこたけのこ論争を科学的に語るために、生地の味や食感、チョコレートの味などのデータをとりました。

まずは、きのことたけのこの一番の違いである、生地の味を見てみましょう。塩味、甘味、まろやかさを比較しています。(図表1)

生地の味の比較

たけのこのクッキー生地のほうが、塩味が弱く、甘さがさらに際立つバランスです。きのこは塩味を軸にしたしっかりした味わいです。

■食レポで「とろーり」が多く使われる理由

次はそれぞれの生地の食感について調べてみましょう。

硬さの比較図を見ると、みなさんもご存知の通りきのこのほうが圧倒的に硬いことが数値を見てもわかります。きのこはクラッカー生地、たけのこはクッキー生地でできていますから、断然たけのこのクッキー生地のほうがやわらかいことがわかります。(図表2)

生地の硬さの比較

実は食品の世界では「やわらかいほうが人気」になります。少し噛(か)んだだけで、口の中ですぐに破砕され、味物質が唾液に溶け込み、味が広がりやすくなるからです。つまりは、クッキーの甘さおよびにおいをより強く感じるのです。これは、「絹豆腐」と「木綿豆腐」、「しっかりとした歯ごたえのプリン」と「とろけるプリン」などでも同じです。口に入れて、一気に味やにおいが口内に広がると、ヒトは虜(とりこ)になってしまうのです。食レポなどで、「口溶けの良い◯◯」「とろーり」「とろっと」……など、やわらかい食感を表す言葉をよく耳にするのではないでしょうか。

■子どもは「たけのこ派」になりがち

ガリガリとした食感も数値化することができます。(図表3)

生地の細かな破壊数(ガリガリ感)の比較

生地に機械の歯を押し込んで、力のかかり具合と壊れ具合を計測しています。実際にきのこたけのこを食べているところを想像してみてください。歯で押しつぶしたときに、生地が砕けて、ガリガリと振動します。機械では、この振動の数を数えることで、ガリガリ感を見える化することができます。

たけのこのほうが、ガリガリ感が少なく、簡単に口内でほぐれることがわかります。ガリガリする振動数が少ないため「サクサク」とか「サクッ」と表現しても良いかもしれません。

さて、幼少期は噛む力が弱いために、やわらかい食品のほうが食べやすいというのは、自明のことです。

幼少期の嗜好性(しこうせい)は非常に興味深く、4~5歳くらいになると非常に甘いもの・濃いものを欲しがる時期があります。これはいずれ収まりますが、育ち盛りの体を維持するために本能がそうさせるのかもしれません。まだこの世の一部のおいしいものにしか触れていない子どもは、やわらかく味の広がりの良いものを好きになって当然で、きのこたけのこ論争ではたけのこ派になりがちです。

一方で、大人になると、男女差も顕著に現れます。一口の大きさや噛む力は、男性のほうが強いため、プロが食感を評価する際には、性差も気にしなければなりません。

■「きのこ」のほうがチョコ比率が高い

次はチョコレートと生地の割合を見てみましょう。ちなみに1個あたりの重さは、5%ほどたけのこのほうが軽いですが、そこまでの違いはありません。(図表4)

チョコレートと生地の割合

意外にも、きのこのほうがチョコレート比率が高いことがわかります。たけのこはきのこにくらべるとチョコが少ないので、少し損した気にもなるかもしれませんが、甘さをベースとしたやわらかいクッキー生地とともに砕かれ一気に口に広がる力強さを、たけのこは持っています。

きのこは、クラッカー部分がしばらくの間ガリガリと硬いため、味の広がりが遅くなり、チョコレートが溶けるまで味のシグナルを待たなくてはいけない……おいしいものを待てる、余裕のある大人にならないと好きになれない、というところでしょうか。

どちらも生地にチョコレートがかかっている食べ物ですが、きのこのように硬いクラッカーとチョコレートは混ざりにくく「不均一のおいしさ」で、たけのこのように生地がやわらかく混ざりやすいおいしさは比較的「均一のおいしさ」とおおまかに分けられるでしょう。実は、実際の製品はもっと複雑になっていて、どちらも2種類のチョコレートのコーティングとなっており、口内での味の変化を楽しませてくれます。

■「たけのこ」はミルクの濃厚感が特徴

チョコレートには違いがあるのでしょうか? チョコレート部分は2層コーティングのため分離して測定できないのですが、2層を混合したときの味わいを参考にしめします。(図表5)

チョコレートの味の比較

たけのこのほうが、甘さは弱いですが苦味が少ないため、総合的には優しくマイルドでミルクの濃厚感を楽しむことができます。このことからも、たけのこは多くの人が子どものころに好きな味と認識するであろうことがいえます。

髙橋貴洋『「うまい!」の科学』(イースト新書)
髙橋貴洋『「うまい!」の科学』(イースト新書)

これらの分析結果から考察すると、もしかすると、2019年にきのこ派が勝利を収めたのは、投票した年齢層に子どもが少なかった可能性もあります。実質的な子どもの数の減少も直結するでしょう。また昔からある定番お菓子ゆえに、今の子どもに対するマーケティング訴求ができていないのかもしれません。これは昔懐かしい駄菓子が淘汰(とうた)され、姿を消していっていることにもつながっているかもしれませんね。

我々は成長するにつれ、段々といろいろなものが食べられるようになります。食経験が豊富になってくると、歯ごたえやクセのあるもののほうが、風味のリズム感が変化し、それがおいしいと感じるようになってきます。しかしながら思い出の味として、大人になってもやっぱりこれがいいんだ! というおいしさも存在します。あなたは成長してどちら派になりましたか? それともずっと一筋でしょうか? 比較してしまうから論争が起きてしまうのですが……。しかし、比較するから良さ・悪さもわかるのです。

それは私たちの永遠のテーマであり、もし派閥が変わったらそれはおいしさの評価軸の成長のあかしかもしれません。

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髙橋 貴洋(たかはし・たかひろ)
味香り戦略研究所 研究開発部
1981年、東京生まれ。東京理科大学理学部化学科修士課程修了。在学中に味分析に興味を持ち、味香り戦略研究所へ入社。現在、10万アイテム以上の味分析を行い味のデータデース構築・解析などを手掛ける。会社主催の「味覚レベルアップ講座」「においの数だけレベルアップ講座」の講師を務め、メディアや企業などを対象においしさについて講義している。フジテレビ系「ホンマでっか!?TV」、NHK「あさイチ」、日本テレビ系「所さんの目がテン!」、テレビ朝日系「家事ヤロウ!!!」など、テレビ出演多数。

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(味香り戦略研究所 研究開発部 髙橋 貴洋)

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