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万全を期して営業再開! 「3大クラスター」の経営者を直撃

プレジデントオンライン / 2020年7月31日 9時15分

ゴールドジムは1995年7月に日本第1号店をオープンして以来、現在93店舗(フランチャイズを含む)と順調に店舗を拡大してきた。 - 撮影=遠藤成

日本経済に大打撃を与えている新型コロナだが、どこよりも早く経営のピンチを迎えたのが、最初にクラスターとして大々的に報じられた屋形船、スポーツジム、ライブハウスだ。危機的状況に経営者は何を考え、どう判断したのか。

■コロナ騒ぎに追い討ちをかけた米国本社の破産宣告

「倒産を意識しました」と語るのは「ゴールドジム」を運営するTHINKフィットネスの手塚栄司社長だ。

2月の半ばの愛知県名古屋市に続き、千葉県市川市のスポーツジムでクラスターが発生したことで、筋トレの聖地と呼ばれるゴールドジムも打撃を受けた。休会、脱会者が相次ぎ、4月の緊急事態宣言による休業要請で、売り上げがほぼゼロとなった。

しかも、緊急事態宣言の延長が発表された5月4日、アメリカでゴールドジムを運営するGGIホールディングスが破産宣告をしたというニュースが追い討ちをかけた。

「世界中に約700店舗あるゴールドジムの大半はフランチャイズ契約。うちも資本関係はありませんから破産申告の影響は全くないのですが、金融機関や取引先からは大丈夫ですか? と問い合わせがきました」

売り上げはなくても、毎月の家賃・人件費といった固定費はかかる。「大変なときだから、と家賃を値下げしてくれる大家さんもいれば、一切応じてくれないところも。さまざまでした」

2カ月で約15億円の赤字。5月は融資のお願いに金融機関を駆け回った。「緊急事態宣言が解除され、6月から営業できるようになりましたが、休業が続いていたら、もうダメかもしれないと思いました」と手塚社長は振り返る。

「休館中は、半分の社員には出社してもらい、再開したときにお客様に気持ちよく、より安全な状態でお迎えできるように、徹底的な清掃とメンテナンス、マシンの入れ替え、換気や飛沫防止などの感染防止策にあたってもらい、あとの半分には7割を支払い、お休みしてもらいました」

ジムはフリーで契約しているインストラクターも多く働く業界だ。「レッスンがないからお支払いしないというのでは、彼らの生活が成り立ちません。フリーとはいえ我々に協力してくれている仲間ですから、最初は10割、そして7割、その後も5割と少ないですが支払い続けました」

■決断を支えた稲盛和夫さんの言葉

経営者の正念場である。どう舵を取るか。手塚社長は雇用を守り、ジムへの設備投資を決めた。心のよりどころになったのが、経営の神様の言葉だった。手塚社長は稲盛和夫氏を師と仰ぐ盛和塾の塾生で、稲盛賞を受賞したこともある。

「判断を誤れば会社の存続に関わりますから、決断するというのは恐ろしいものです。しかもコロナ禍は何が正しいのか、いつまで続くのかもわからない。解決するすべが見えない。そんなとき、稲盛塾長が何とおっしゃっていたか、を考えました。稲盛語録に『人は往々にして損得を基準に判断して誤る。人間として正しいか正しくないか、よいか悪いかを基準にしなさい』という言葉があるのですが、それに従いました。信頼できる人の言葉があるというのは心強いです」

現在、筋トレがメインの男性客は比較的戻ってきたが、スタジオワークがメインの女性客はまだ慎重な状態。業績的にまだ難しい段階。楽観はできないという。

ランニングマシンには飛沫防止のアクリル板を設置。
撮影=遠藤成
ランニングマシンには飛沫防止のアクリル板を設置。 - 撮影=遠藤成

■コロナ=屋形船のイメージが拭えない

都内で最初に感染者が確認されたのは2月13日、屋形船での新年会に参加していたタクシー運転手だった。テレビは連日、屋形船で感染者がと報じた。

後日、明らかになるのだが、都の発表は「中国人客→屋形船の従業員→タクシー運転手」という感染ルートを示唆するものだった。しかし、都職員の「屋形船がきっかけで感染が拡大した」という発言で、屋形船=コロナのイメージが定着。小池百合子都知事は「屋形船が発生源でない」と3月の都議会で否定したが、いまだに屋形船は危ないという誤解は解けていない。

都の屋形船業者は約70社で3つの組合からなる。6割強が所属する屋形船東京都協同組合の「小松屋」4代目社長、佐藤勉理事長と「三浦屋」7代目社長、新倉健司理事に話を聞いた。

「感染者の出た船宿さんとは組合が違うので、知ったのはテレビのニュースです。ニュースが流れると、年末まで入っていた予約がすべてキャンセルになり、以来ずっと休業状態です」(佐藤氏)

東京2020大会開催決定以降、東京都は観光産業の振興を推進してきた。五輪の主たる会場が臨海部ということもあり、歴史のある屋形船も文化的観光資源の一つとして期待された。業界をあげて都の方針に沿うように協力してきたが、コロナ騒ぎでの都の対応には、恩を仇で返された感もある。

7月24日、幻の東京2020大会開会式の日、お台場に50隻の屋形船が集結。医療従事者への感謝を示す提灯を点灯した。
撮影=遠藤成
7月24日、幻の東京2020大会開会式の日、お台場に50隻の屋形船が集結。医療従事者への感謝を示す提灯を点灯した。 - 撮影=遠藤成

「うちは去年、1万6000人ほど乗船客がありましたが、今年は2月半ば以降ゼロ。五輪需要を見込んで新造船を造った業者もいます。他の業種よりも1カ月早く打撃を受けましたから、みんな悲鳴をあげています」(新倉氏)

■初期対応のまずさが業界全体のダメージに

従業員は小松屋が4人、三浦屋は6人。そしてアルバイトだ。屋形船は飲食店とは違い、海の上で乗客の安全を預かる仕事でもある。

「若いうちから、独自の教育をしてじっくり育てる世界。うちの場合だと、船長になるのに6年かかります。免許を持っている人を雇えばいいというものではなく、船はもちろんですが、まず人ありきの商売なんです。家族的な付き合いでもあり、お客さんが来ないから首を切りますなんてできません」(新倉氏)

東京アラートが解除されると、少しだが予約が入った。しかし、7月9日から都の感染者が連日200人を超えると全部キャンセルになった。世間の屋形船=コロナのイメージは根深い。

「最初の対応のまずさは感じます。感染者が出たことは不幸なことですが、店名を出さなかったことで、屋形船業界全体に風評被害が広まってしまった。感染者の出た屋形船は品川ですが、テレビに映し出されるのは神田川に浮かぶうちらの船。

加えて、ダイヤモンド・プリンセスの印象が強く、船は密室だから危ないという先入観のもと、屋形船は天井が低くて狭い、換気も悪い。感染者が出ても当然という間違ったコメンテーターの発言をきちんと訂正できなかったのは残念」(新倉氏)

待っていても客は来ない。「客がいないなら、できることをやろうじゃないか」(新倉氏)。6月には防災船着場を使い、近隣の医療従事者に天丼をふるまった。オリンピックの開会式が行われるはずだった7月24日には、お台場に屋形船50隻を集め、医療従事者への感謝を示す提灯を点灯。屋形船のイメージ回復に努めている。

お台場に浮かぶ屋形船は夏の風物詩だったが、新型コロナの影響で予約激減。今夏は1、2隻しか浮かんでいない日も多い。
撮影=遠藤成
お台場に浮かぶ屋形船は夏の風物詩だったが、新型コロナの影響で予約激減。今夏は1、2隻しか浮かんでいない日も多い。 - 撮影=遠藤成

■老舗ライブハウスからまさかの感染者

「えらいことになると思ったのは2月26日、政府の大規模イベントの自粛要請を受けて、EXILEとPerfumeのドーム公演が急遽中止になったときです」と語るのは「新宿LOFT」など10店のライブハウスを運営するロフトプロジェクト3代目社長、加藤梅造氏だ。

2月29日に大阪のライブハウスでの感染が明らかになると、ロフトも公演のキャンセルが相次いだ。感染も不安だ。このまま店を開けていて大丈夫なのか。幹部会での議論が続いた。

ライブハウスは、店が主催で企画するイベントと、箱を貸し出すイベントがある。後者の場合、借り手の意向が尊重されるため、すべてのイベントを中止・延期するわけにはいかなかった。「政府はあくまで自粛の要請で、補償はしない。店が判断しろ、でしたから」。

観客はマスク着用、席数も半分に減らし、定期的に換気するなど感染予防策はしていたが、3月20日に渋谷「LOFT HEAVEN」で行われた公演で出演者の感染が判明。加藤氏は運営するライブハウス10店の休館を決めた。

1973年、西荻窪に誕生した「ロフト」は数々のミュージシャンを輩出してきた。ロフトの軌跡は日本のフォーク&ロックの歴史でもある。
撮影=遠藤成
1973年、西荻窪に誕生した「ロフト」は数々のミュージシャンを輩出してきた。ロフトの軌跡は日本のフォーク&ロックの歴史でもある。 - 撮影=遠藤成

■管理社会を望む世間の風潮に危機感

CDが売れない時代になってからは、ミュージシャン、アイドルの活動は生のステージがメインとなっていた。実際、ここ10年のライブハウスは活況で、ロフトも2月に下北沢「Flowers LOFT」をオープンしたばかりだった。

「8000万円くらいあった月の売り上げが、ほぼゼロになりました。でも、毎月、家賃、人件費、借金返済などで約4000万円の出費がある」と加藤氏は言う。

「現在、社員はほとんどリモートワークです。うちは全員が営業職のようなもので、自分でイベントをブッキングして、いくら売り上げるかが勝負です。スマホ一台あればどこでも仕事はできますから」

休業要請は解除されたが、演者もお客さんも慎重な人が多く、7月もイベントのない日が続いている。できることといえば、オンライン企画のライブ配信だ。

「今、配信が多いのは、経済産業省の支援策が配信前提だからです。もとはクールジャパン推進の仕組みだったJ‐LOPなどの助成制度をコロナ対策に替え、延期した公演をオンラインで配信したら助成が半分受けられるようにしたのです」

2000円で600人を集客するような配信イベントもあるが、毎月の出費を考えれば焼け石に水。新型コロナとの闘いは年単位で長引くと加藤氏は予想する。ライブハウスは50%の収容制限が続く限り、商売は成り立たない。

「コロナで世界は変わるといわれていますよね。リモートワークなどが広がるのは間違いないでしょう。でも、人間の本質は変わらない。1m以上人に近づかず、握手やハグも禁止され、家に閉じこもって生きていくことが、はたして幸福なのでしょうか?

メディアは正しく怖がることが大切と言いながら不安を煽り、いつのまにか、私たち市民も安全のためなら国に管理される社会を望む風潮が強くなっていく。世界は変わったと言いすぎるのも危険だな、という気はします。屋外のイベントも制限されていますが、どうなんでしょう。ウイルスの実態から乖離した感染対策も多いんじゃないですかね」

9月に開かれる予定の「スーパーソニック」「グリーンルームフェスティバル」といった大型の野外フェスがどうなるかを加藤氏は注目している。

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遠藤 成(えんどう・せい)
フリー編集者
出版社を経て独立。運動とは無縁の人生だったが、40代後半にランニングにハマり、フルマラソンの自己最高は3時間42分。一番好きなランニング小説は『遥かなるセントラルパーク』(トム・マクナブ)。

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(フリー編集者 遠藤 成)

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