離職率5割で組織崩壊の危機に、私が「理想の上司」を目指すのをやめたワケ
プレジデントオンライン / 2020年8月3日 6時15分
■リスクの高い転職に周囲は猛反対
Talknoteは2010年設立のベンチャー企業。同名の社内コミュニケーションツールの開発・提供で知られ、設立から10年で導入企業数1000社以上と着実に業績を伸ばしてきた。
和田郁未さんは、この成長をけん引してきた古株メンバーの一人だ。2013年、それまで勤めていた大手リース会社を退職し、社員数がまだ5人だった同社に入社。安定した大企業から先のわからないスタートアップ企業への転職とあって、家族にも友達にも猛反対されたという。
「前の会社では、自分の仕事が世の中の誰の何に役立っているのか実感が持ちづらく、成長可能性の限界を感じ、モヤモヤした気持ちで仕事をしていたんです。そんな時にTalknoteの小池(小池温男社長)に出会って、そのビジョンにワクワクしちゃって(笑)。転職を反対されて悩みましたが、このままでいたら何も変わらないと思って決断しました」
当時、和田さんはリース会社の法人営業担当で、小池社長はその顧客の一人。リース審査のための面談で起業の経緯やビジョンを聞くうちに意気投合し、やがて小池社長から「法人営業ができる人を探している」と声をかけられた。
迷った末の転職だったが、今では自分にはベンチャーのほうが向いていると実感しているそう。最大の魅力は、自分と組織の変化や成長を肌で感じられるところ。「入社して初めて、私はこういう仕事がしたかったんだと気づいた」と振り返る。
■よかれと思ってした行動が非難の的に
入社後は法人営業一筋。とはいえ小さな会社だったため、最初のころはあらゆる業務にチャレンジした。入社1年目でIT関連のセミナーの講師を務めたときは、入念に準備したにもかかわらず「全然できる気がしなくて」本番前に号泣。それでも社長の励ましで無事に講演を終え、見事契約につなげた。
「あのときはとにかく不安で、自分が成功するイメージが全然湧かなくて。でも本当は、きちんと準備していればできるはずなんですよね。もし部下があのときの私と同じように自信をなくしていたら『あなたならできるよ、自信を持って』と勇気づけてあげたいです」
2年目には、頑張りが非難の的になるというつらい失敗を経験した。IT企業が集まる大規模な展示会があり、和田さんは営業業務のかたわら出展の準備も担当。忙しい同僚たちをわずらわせてはいけないと考えて、連日夜遅くまで一人で作業を進め、皆には展示会の直前になってから当日の接客だけを頼んだ。
とたんに同僚から不満が噴出。楽をしてもらおう、喜んでもらおうと思っての行動だったが、皆からすれば、経緯も知らされないまま“当日の立ち要員”扱いされたようなもの。「それっておかしくない?」と言われて、初めて自分の失敗に気づいた。
「いい展示会にしたいという気持ちは全員が持っていたのに、私が巻き込もうとしなかったんです。結論だけではなく目的やプロセスから共有していくべきでした。それ以来、どんな取り組みでも『まず共有』を心がけています」
入社4年目には組織崩壊の危機にも直面した。社員数は増えたものの、皆が目の前の仕事を優先するあまり、ビジョンの浸透や人間関係の構築が後回しに。しかも、和田さんを含めた古株メンバーの病気や休職も重なった。社内の雰囲気はどんどん悪化していき、離職率は50%にまで達した。
回復後、和田さんは社長や古参社員とともに立て直しに奔走。本来なら人事部門の仕事のようにも思えるが、ベンチャーでは「誰かがやってくれる」と受け身でいては成長はない。和田さんも「自分たちでこの会社を伸ばしていくんだ」という思いで、まずはビジョンの共有から取り組んだ。
■入社4年目、危機と転機が同時にやってきた
そこから約1年間、Talknoteでは外部から人事コンサルタントを迎え、ビジョンの発信や社員との対話、働きやすい風土づくりなどに力を注ぎ続けた。
その結果、社員のモチベーションや信頼関係は徐々に回復。50%だった離職率はやがて0%になり、約2年後には「働きがいのある会社ランキング」にランクイン。ホワイト企業アワードも受賞するまでになった。
「コミュニケーションツールを売る会社なのに、製品に込めた思いと社の実態とが違っていて、私としても営業活動をしながら疑問を感じることがありました。会社の問題は、社員全員が自分ごととしてとらえなくては。肩書きも職種も関係なく、皆で解決していこうという姿勢が大事かなと思います」
この時期は、リーダーとしての転機の時期にもなった。当時のポジションは顧客支援を行う部署のチームリーダー。初めての管理職で気負いもあり、理想的な上司になろうとして苦しんでいる最中だったという。
救ってくれたのは、離職率改善のために社に来ていた人事コンサルタントだった。リーダーなのだから何もかもできなくてはいけない、そうでなければ価値がないと思い込んでいた和田さんに対し、「自分じゃない人になろうとする必要はない」と言ってくれたのだ。
「私のままでいていいんだな、とスッと気が楽になりました。自分が『こうあらねば』と思い込んでいると、メンバーにも理想像を押しつけてしまいがち。そうならないよう、折りに触れてこの言葉を思い出すようにしています」
大きな気づきを得て、リーダーとして一歩成長したところへ、今度は営業部長兼取締役のポジションを打診される。社長から「こういう社員を増やしたい、と思える人を役員にしたいから」と言われての昇格だった。
自信はなかった。初めて管理職になった時と同じように、反射的に「今の私じゃ無理」と思ってしまったと振り返る。しかし、やらなければいつまでもできるようにはならないという思いが背中を押した。そんな経験から、女性がキャリアを伸ばしていくには背中を押す何かが必要なのではと考え始める。
■女性役員の会を立ち上げて悩みをシェア
今、和田さんは月に1回程度、女性役員や女性経営者の集まりを開催している。同じ立場の女性同士、皆で悩みを共有して軌道修正のきっかけにできたら──。そんな思いから友人と会を立ち上げ、定期的に勉強会などを行っているという。
「女性には、周囲から評価されても自分にはそんな能力はないと思ってしまう人が多いように思うんです。例えば当社は社員の4割が女性ですが、管理職以上はまだ私だけ。もっと仲間が増えるように、こうした集まりを通して女性の背中を押す機会をつくっていけたらうれしいですね」
プライベートでは入社翌年に結婚。昨年から夫が沖縄に転勤になり、現在はそれぞれの地で仕事に邁進している。夫は一貫してキャリアを応援してくれているそうで、「君は仕事をしているほうがイキイキしているから辞めるなって言われているんですよ」と笑う。
今後の目標は、会社を成長させよりよいサービスを提供していくこと。悩んだ時期を乗り越え、今は入社当時のワクワク感を取り戻している。ただ、入社当時は会社からワクワク感を与えてもらう側だったが、今は自らつくり出す側に立っている。
「自分の成長も会社の成長も自分次第。そこに大きなやりがいを感じています」と語る和田さん。Talknoteは今年で設立10周年。成長と変化を楽しみながら、次の10年へと会社を引っ張っていく。
■役員の素顔に迫るQ&A
Q 好きな言葉
生きてるだけで丸もうけ
Q 愛読書
『SELFISH』トマス・J・レナード、バイロン・ローソン
「持てる力を発揮して成果を出すには、まず自分が気持ちよく生きられるようにすべきだと気づかされました」
Q 趣味
ヨガ、筋トレ
「運動全般が好き。筋トレは1年間の目標回数を決めて、スプレッドシートで進捗を管理しています」
Q Favorite item
AirPods(ワイヤレスイヤホン)
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Talknote 取締役
早稲田大学卒業。大手リース会社に入社し、法人向けのリース営業を約4年半経験。顧客の一社だったTalknoteの小池温男社長と出会い、職場・家族・友達、周りのすべての人に反対されながらも転職を決意する。2013年、Talknoteに入社し主にセールスやサポートを担当。カスタマーサクセスチームのユニットリーダーを経て、18年より現職。
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(Talknote 取締役 和田 郁未 文=辻村洋子 写真提供=Talknote株式会社)
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