なぜ日本の製薬会社は、海外より研究開発力が弱いのか
プレジデントオンライン / 2020年8月29日 15時15分
■病院へ診察に訪れる人が減った
新型コロナウイルスによって日本人の行動様式は大きく変わりました。医薬業界でいえば、病院へ診察に訪れる人が減ったことが挙げられるでしょう。コロナによって不要不急の外出が制限され、病院に行くことによる院内感染のリスクなどもあり、よほど重篤な症状でなければ病院に行かないという人が出てきました。聞くところでは、最も患者が減ったのは小児科で、耳鼻科、整形外科、皮膚科、眼科あたりもかなり減少したようです。
そもそも、なるべく外出をしない、外出時もマスクを着用する、手洗い・うがいをする、消毒の励行などは多くの感染症に有効な対策となるため、風邪やインフルエンザといった感染症にかかる人自体が大きく減りました。結果として、一部の薬剤は売り上げを落としています。特に医療機関での処置に伴って使われる薬や健康診断の試薬などは使用頻度が大きく減少しました。とはいえ、医薬品業界はコロナの影響については比較的軽微だったといえるでしょう。
コロナといえば、治療薬やワクチンの開発状況を気に掛けている人も多いと思います。治療薬はいま、世界の製薬メーカーがこぞって開発をしていて、すでに数百の薬が検討されています。富士フイルムの「アビガン」も注目を集めましたが、最終的には1つか2つ、有効性が確立された優れた薬があれば、それで事足りる可能性があります。その中に入るのは、競争率の高さから考えても容易なことではありません。
■勝負の分かれ目はブロックバスターにあり
それに、検討されている治療薬には重篤な症状が出た人向けのものも多く、無症状や軽症者の多い新型コロナでは、そこまで使われる機会はないかもしれません。そういう意味では、治療薬よりも世界の数十億人が使う可能性があるワクチンのほうが収益を生む可能性が少しはあります。ただワクチンは治療薬よりも開発のハードルが高く、大量に作ることのできる会社も限られます。
そもそも、これまでにない画期的な薬を作るという点において、日本には世界の最先端を走っている製薬メーカーは多くありません。画期的な薬を作るというより、海外で開発された薬を改良して、日本国内で広く販売するビジネスモデルが主流で、研究開発力よりも販売力のある会社のある会社のほうが利益を出せたのです。
しかし、2018年の薬価制度抜本改革で、そういった後から出した「ベターな薬」よりも、これまでにない新しい薬、つまり「ファーストな薬」の薬価が高く設定されやすくなりました。薬価改定は2年に1度ですから、まだそこまで大きな差はついていませんが、今後は国内だけでなく海外でも売れる画期的な薬を開発できなければ、持続的に成長することは難しくなってきています。
この方向性にいち早く対応したのは中外製薬です。02年にスイスのロシュの傘下に入り、抗体医薬品の分野に特化した技術を確立して、すでに他を圧倒する薬効、シェアを誇るブロックバスターも発売しています。武田薬品はこうした取り組みが遅れていましたが、16年に研究開発の体制を大きく変えるなど、グローバルで通用する薬の開発を急いでいます。これらの取り組みの成果が待たれるところです。
(大和証券 シニアアナリスト 橋口 和明 構成=衣谷 康)
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