「100の語源で1万語を覚えられる」累計90万部の教材「語源図鑑」のすごさ
プレジデントオンライン / 2020年8月12日 15時15分
■「語源学習」の本は売れるという確かな手ごたえ
【三宅義和(イーオン社長)】清水先生といえば、2年前に発売された『英単語の語源図鑑』(かんき出版)が、続編の2作品〔『続 英単語の語源図鑑』『英熟語図鑑』(ともにかんき出版)〕を含めたシリーズ累計90万部と大ヒットとなっています。発売前から「これは売れそうだな」という感覚はあったのですか?
【清水建二(KEN’S ENGLISH INSTITUTE代表、英語教材開発者)】さすがにここまで売れるとは思っていませんでしたが、ある程度の自信はありました。というのも、10年ほど前に別の出版社から同じ「語源学習」をコンセプトにした本を出して、それが6万部くらい売れたのです。今では絶版になっていますが、こちらもシリーズ化されて、3作出させていただきました。
しかし、この10年前の本については、編集の都合上、「イラストで覚える」と謳っているわりに、各ページに出てくる主要な4つの単語について、イラストがひとつも載っていないのです。しかも、そのイラストが必ずしも単語とマッチしていたわけではありませんでした。私のなかで消化不良感があったのですね。そうした反省を踏まえてつくったのが、2年前に出した『英単語の語源図鑑』だったのです。
【三宅】たしかに『英単語の語源図鑑』には、単語一つひとつにイラストがついて、しかもわかりやすいですね。
■ベストセラーを生み出したフェイスブックの友達申請
【清水】イラストの原案は、共著者のすずきひろしさんに担当していただきました。実はすずきさんも英語講師なんです。
【三宅】だからわかりやすいわけですね! すずきさんとは長いお付き合いなのですか?
【清水】いえ。5年くらい前にフェイスブックで突然すずきさんから友達申請が来たのです。いつもなら面識のない方からの申請は無視するのですが、プロフィールをみたら、大手外資系企業のエンジニアで、社内で英語を教えており、ものすごく面白いイラストを描かれる方だとわかり、迷わずつながらせてもらいました。
ちょうど当時、ある編集者さんから繰り返し執筆依頼を受けていた企画があり、すずきさんに追加原稿とイラストのお手伝いをお願いしたところ、快く引き受けていただけました。今回のシリーズを出すまでに、彼とは共著で2冊作っています。
【三宅】そういった運命的な出会いは、いつおこるかわからないから面白いですよね。
【清水】本当にそう思います。もしあのとき、「承認」ボタンを押していなかったら、「語源図鑑」シリーズは絶対に存在していません。
■「laboratory」と「lavatory」の違い、知っていますか
【三宅】『英単語の語源図鑑』の巻頭で、「語源で学ぶ3つの効果」について書かれています。1番目は「同じルーツ(語源)の単語を芋づる式に増やせる」こと、2つ目は「語源を知ると、単語の正確な意味が見えてくる」こと、3つ目は「語源とイラストのイメージで、記憶に強く定着する」ことですね。
【清水】はい。もう1つ付け加えると、「英語の勉強が楽しくなる」ということですね。
【三宅】それは非常に大事なことですね。「語源で覚える」というのは、先生ご自身が実践されていた学習法なのですか?
【清水】そうです。大学時代、自分の語彙力を伸ばすためにはどうしたらいいか、真剣に悩んでいた時期がありました。結論としては、「つべこべ言わずに大量の英文を読むしかない」と覚悟を決めたものの、どうしても覚えられない単語が2つあったのです。それが「laboratory(実験室、研究室)」と「lavatory(洗面所)」。もちろん文脈の中でなら区別は容易につくのですが、単語だけを示されると、何度見ても「どっちがどっちだっけ?」と区別がつかなかったのです。
【三宅】私もたまに迷います(笑)。
【清水】ですよね(笑)。しかし、あるときスペリングを眺めていたら、「laboratory」の中に「labor」という単語が入っていることに気がつきました。もしかしたら「労働」という意味の「labor」なのかなと思って、大学の図書館に行って語源辞典を調べたら、やはりそうでした。しかも、接尾辞の「‐ory」は場所を表すことがわかって、「労働する場所、研究する場所」だから「laboratory」になる、ということがわかったのです。
【三宅】急にすっきりしたと。
【清水】ええ。同じように「lavatory」も、「lava」は「流れる」という意味があって、「流れるところ」なので洗面所になる。「lava」はほかにも「laundry(洗濯物)」とか、「lavish(お金を湯水のように使う、気前が良い)」「lava(流れる溶岩)」「lavender(ラベンダー、かつて浴用の香料として使われていた)」といった単語にも反映されています。そういうことがまとめて覚えられることがわかってからは、語源を意識しながら単語を覚えるようになりました。
もちろんいまだにわからない単語もたくさんあります。しかし、語源からたどると、「なるほど、そうだったのか!」という驚きがいまでもあるのです。その感動と、学習効率のよさをみなさんに知っていただきたい。そういう思いがありました。
■「100の語源で1万語が身につく」
【三宅】なるほど、「語源図鑑」シリーズは、単純に単語の成り立ちを知ることが目的ではなく、さまざまな単語を効率よく覚える方法のひとつとして語源を知ることが非常に役立つということですね。また、イラストで覚えることで、それがさらに効率よくなるわけですね。
【清水】そういうことです。本の帯にも「100の語源で1万語が身につく」というキャッチコピーを載せました。
【三宅】実は、当校でも「語源による芋づる式暗記法」を採用していて、大人のTOEICクラスでは、接頭辞や接尾辞の「意味」を教えるようにしています。中学生に単語を説明する際にも、たとえば「re」から始まる単語があれば「return」「recycle」「replay」など、同じ接頭辞からはじまる言葉を挙げて、子どもたちに「re」という文字を見たり聞いたりしたときに「re」のイメージが浮かぶような授業をしているのです。
【清水】素晴らしい取り組みだと思います。
■原点は、高校の授業用につくった妻と作った手製プリント
【三宅】清水先生は長年、高等学校で英語の先生をされながら、ベストセラーも含めて多くの本を書かれてきたわけですが、そもそも本を出版することになったきっかけはなんだったのですか?
【清水】最初に本を出したのはいまから28年前ですが、その本のベースは私が生徒のためにつくった教材だったのです。
【三宅】そうなのですか。
【清水】教員になって2校目の学校に移り、そこで初めて3年生の進学クラスを受け持つことになりました。そのとき、色んな生徒から「短期間で英語の偏差値をどうやって上げたらいいですか」という質問があったのです。
彼らに合う問題集や参考書を探してみたのですが、適当なものが見つからない。そこで私立大学の入試問題を徹底的に分析してみたら、熟語の問題がすごく多いことに気づいたのです。
たとえば当時の中央大学は熟語の出題率が4割近くもあり、しかもその熟語は基本動詞と前置詞、副詞を結びつけた句動詞(get up、carry onなど)が多い。だとすれば、少なくとも受験対策においては熟語を強化する勉強が一番効率的だと思って参考書や問題集を探してみたのですが、やはりなかったのです。
「これは自分で作るしかない」と思って、過去の入試問題の中から使えそうなものをかき集めて、それをプリントにして毎週生徒に配って、1週間ごとにテストをするようにしたのです。
【三宅】熱心な先生に恵まれて生徒さんも幸せですね。
【清水】感謝されたことは一度もありませんでしたがね(笑)。で、その際、単に英文だけのプリントではつまらないので、イラストをつけたら面白いんじゃないかと思ったのです。ただ、私は絵を描くのが苦手だったので、絵が得意な妻に頼んで熟語一つひとつにイラストをつけました。
【三宅】イラスト付き教材の原点はそこなのですね!
■28年前のリベンジを果たす
【清水】そうなんです。前置詞に「at」を取る動詞を全部まとめて例文を載せるようなプリントなのですが、たとえば「aim at(~に狙いをつける)」という熟語であれば、「a」をダーツの的になぞらえて描き、この横に「t」と書いて、それに向けて矢を放つようなイラストをつけたんですね。それだけで「at」が「どこか一点に集中する」というイメージであることが一目瞭然になります。そういうことを妻と相談しながらつくっていきました。
【三宅】それが生徒さんに圧倒的にウケた。
【清水】はい。実はもっとウケが良かったのは同僚の先生で、1年分くらい溜まったプリントを見て、「これは本になる。絶対世の中のためになるから、出版社に相談してみたら?」と言われたのです。
【三宅】では、ご自分から売り込まれたのですね。
【清水】ええ。大手出版社を含め何社かを回って企画を説明したところ、日栄社という国語と英語の問題集を専門に作っている出版社の編集の方の目に留まり、初めて本を出すことができました。『パワフル英熟語1000』という本で、4万部くらい売れました。
【三宅】処女作で4万部とはすごい
【清水】しかし、そのときもやはりコストの問題で、すべての熟語にイラストをつけることは叶わなかったのです。イラストは所々にあるくらいで、基本的な前置詞を頭に入れてから熟語を覚えていくというオーソドックスなパターンの本になりました。
【三宅】元の教材の劣化版をつくらざるを得ないというのも、少しつらい話ですね。
【清水】そうなんです。今年6月に「語源図鑑」シリーズの第3弾として、『英熟語図鑑』を出したのですが、実はこの本こそ、私が本を書き始めてからずっと構想していたものなのです。すべての熟語にイラストが入っています。今回もイラスト原案を担当していただいたすずきさんには相当頑張っていただきましたけど、私の28年分の思いが詰まった一冊です。
■英語学習を少しでも楽しく、効率よく
【三宅】面白いですね。爆発的に売れたのは「語源」でしたが、本来出したかったのは「熟語」だったわけですね。両者のすみ分けはどうお考えなのですか?
【清水】用途で変わります。『英単語の語源図鑑』は、少し難しい単語も取り上げて、試験勉強をする人や、英語のニュースを読んだり聞いたりしたい人に向けて最適化されています。
【三宅】それは少し感じました。見た目はとっつきやすいですが、載っている単語の難易度が少し高めですね。
【清水】そうです。だから『英単語の語源図鑑』の購買データを見ても、ビジネスパーソンに人気が高いのです。一方の『英熟語図鑑』は、ネイティブが日常的に使う句動詞を主に取り上げるようにして、英会話力を上げたい人向けに最適化しています。ですから、イーオンで学ぶ生徒さんには、おそらく『英熟語図鑑』のほうが訴えるものがあるのではないかと思っています。
【三宅】先生のお話を聞いていると、「英語学習を少しでも楽しく、そして効率よくしてあげたい」という、親心のようなものを感じます。
【清水】それはやはり、長年高校でいろいろな生徒をみてきたからだと思います。自ら進んでスクールに通う子とは違って、学校には英語自体にまったく興味がない生徒がたくさんいます。そんな子たちに振り向いてもらうためにどれだけ知恵を絞れるか。それが学校の先生に求められる役割だと思うのです。
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イーオン社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。1985年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。
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元高校教師
1955年、東京都浅草生まれ。埼玉県立越谷北高校を卒業後、上智大学文学部英文学科に進む。卒業後、約40年にわたり高等学校で英語教員を務める。基礎から上級まで、わかりやすくユニークな教え方に定評があり、生徒たちからは「シミケン」の愛称で親しまれた。現在はKEN'S ENGLISH INSTITUTE代表として、英語教材の開発に従事。英語学習に関する著書多数。
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(イーオン社長 三宅 義和、元高校教師 清水 建二 構成=郷 和貴)
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